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.国際  投稿日:2021/12/16

香港立法会選挙 予想される結果


澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)

【まとめ】

・中英、50年間不変の「国際公約」である「1国2制度」は「1国1制度」へ。

・立法会で選挙制度変更条例案が可決され、選挙制度が大きく変化した。

・習近平政権の思惑通り「建制派」が大半を占めることが予想される次期香港立法会選挙。

 
今年(2021年)12月19日(日)、香港では立法会選挙(第7期議員を選出)が行われる。

昨2020年7月末、林鄭月娥・行政長官は、新型コロナの影響を考慮し、選挙を翌年9月へと1年延期した。更に、今年5月、立法会での選挙制度変更に伴い、選挙を同年12月に再延期している。

▲写真 記者会見に出席し、内閣改造を発表する林鄭月娥(2021年6月25日、香港) 出典:Photo by Anthony Kwan/Getty Images

さて、1980年代前半、中英香港返還交渉の際、鄧小平は香港の「1国2制度」を唱えた。1997年7月、香港はイギリスから中国へ返還されたが、同地域の「1国2制度」は50年間不変の「国際公約」のはずだった。

ところが、香港に対する中国共産党の影響力が徐々に浸透し、香港は「1国1.5制度」へと変貌していく。そして、今日、香港は「1国1制度」の中国本土並みとなった。

昨2020年6月30日夜11時、「香港国家安全維持法」が制定・施行された(日本時間では7月1日午前0時)。これで、香港ではほぼ自由・民主が形骸化したと言っても過言ではないだろう。事実上、香港の「1国2制度」は、23年間で幕を閉じている。

その前年(2019年)11月、2019年香港区議会議員選挙(地方選挙)で、「汎民主派」が479議席中389議席を獲得した(民主的な選挙で選出された452議席の他、新界9区の原住民代表<「当然議員」>は27議席)。

いくら地方議会と言っても、全体の81.2%も「汎民主派」が占めるようになった。おそらく、習近平政権は「建制派」(=「親中派」)の大敗という結果に衝撃を受けたのだろう。そこで、北京は、次期立法会選挙では何が何でも「建制派」を勝利させようと決意したのではないか。

今年(2021年)3月、全国人民代表大会常務委員会は、香港立法会の選挙制度見直し案を全会一致で承認した。冒頭で触れたが、この決定を受け、5月27日、立法会は選挙制度変更条例案を可決した。

主な変更点は以下の通りである。

第1に、今までの70議席を90議席に増やした。

第2に、立候補者が「国家安全維持法」に違反していないかどうかを審査する「資格審査」を導入した。「汎民主派」を排除するためである。

第3に、一般市民による直接選挙枠が35議席から20議席に減らされた(ただ、第5期・第6期立法会選挙で、職能団体<各種業界団体>枠の区議会議員から選出される5議席も、直接選挙に近い方式だった)。

第4に、28の職能団体枠30議席は“変更なし”となった。

前回の職能団体枠では、無投票で当選した議員が12人もいた。だが、今回は、無投票とはならない見込みである。他方、前回、漁農業界から2人立候補したが、98票で当選している。また、航運交通界も2人立候補したが、126票で当選した(直接選挙枠で当選するためには、普通2、3万票必要である)。

第5に、1500人の「選挙委員会」が40人の議員を選出する。香港返還後、第1期立法会選挙では10名、第2期では6名の議員を選出した。だが、第3期からその選出枠がなくなった。

これまで、1200人で構成された「選挙委員会」は香港行政長官を選出している。ちなみに、約300人余りは「汎民主派」で、残り800人以上は「建制派」だと言われていた。

今年9月20日、選挙管理委員会は、行政長官や40人の立法会議員を選ぶ権限のある「選挙委員会」委員(定数1500人、欠員52)の当選者を発表した。中国共産党は、ここでも立候補段階から「汎民主派」候補を排除している。

その結果、民主派0人、「中間派」(=「非建制派」)1人、残る1447人はすべて「建制派」で占められた。

以上のように、立法会90議席中、直接選挙で20議席、「建制派」の多い職能団体から30議席、ほとんど「建制派」の「選挙委員会」委員によって40議席が選出される。

近年、香港人の約6割が「汎民主派」へ投票し、約4割は「親中派」に票を投じていた。したがって、仮に有権者の投票行動が今までと同じだとすれば、直接選挙での20議席中、およそ「汎民主派」が12議席、「建制派」が8議席獲得する可能性があるだろう。

ただし、既述の如く、次期立法会選挙には、「資格審査」が導入されたので、著名な「汎民主派」の人達は、ほとんど出馬していない。今回、「汎民主派」・「中間派」と称する立候補者は合わせて13人だという。だが、彼らが本当に「汎民主派」・「中間派」なのかどうか不明である。

そのため、次期香港立法会選挙は、投票率が前回(58.28%)を下回るのは確実ではないか。おそらく「汎民主派」支持の有権者が投票所へ足を運ばないからである。投票率が下がれば、「建制派」が益々有利となるに違いない。

結局、立法会90議席中、大半が「建制派」で占められるだろう。習近平政権の思惑通りである。

実は、前回の立法会(第6期)では、優勢だった「建制派」すら、全体の3分の2以上を占めていなかった(70議席中、40議席)。そのため、重要法案(3分の2以上の賛成が必要)が成立しなかった事例がある。しかし、今後は「建制派」が大多数を占めるので、重要法案もスムーズに通過するようになるだろう。

トップ写真:第13期全人代第4回会議、第2回全体会議に出席する習近平国家主席(上左側)と李克強首相(2021年3月8日、中国、北京) 出典:Photo by Kevin Frayer/Getty Images




この記事を書いた人
澁谷司アジア太平洋交流学会会長

1953年東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。元拓殖大学海外事情研究所教授。アジア太平洋交流学会会長。

澁谷司

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