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.国際  投稿日:2022/7/3

「反習派」への譲歩は習主席の戦略なのか?


澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)

【まとめ】

・習主席が「反習派」に譲歩しているのは、自らが生き残り秋の党大会で3期目を目指す戦略との主張がある。

・北京の送っている“和解のシグナル”を西側諸国が感知したという点がわかっている。

・習主席が譲歩を始めたという(見方がある)。中国経済が逼迫し、もし妥協しなければ、中国経済が崩壊する恐れがあるからだろう。

 

今年4月下旬以降、中国共産党の内紛は「反習近平派」が「習近平派」を圧倒する展開となっている観がある。

この点について、ユニークな主張もある。目下、習主席が「反習派」に譲歩しているのは、自らが生き残り、秋の党大会で3期目を目指す戦略だという。そして、次期党大会で三期目に突入してしまえば、その後は、厳しい「ゼロコロナ政策」や「戦狼外交」を再開するかもしれないと推論する。

そう提唱する記事を紹介しよう。『RFA』は「【未普評論】これらの緊張緩和の兆しは何を物語っているのか?」(2022年6月29日付)という記事を掲載(a)した。以下が抄訳となる(内容の一部は既報の通りである)。

2022年以来、中国の政治情勢はずっと混乱に陥っているが、最近、以前とは異なる兆候が見られる、と大陸の政治学者、呉強は指摘する。

例えば、習主席の悪名高い幹部3人が閑職へ退いた。西側は中国に対し、新疆ウイグル自治区・香港・ロシア各問題で強い不満を抱いていたが、多少ホッとしている。「戦狼外交」が収束したようだし、中国と米欧の緊張も緩和の方向に向かっている。また、「紅2代」(太子党)のうち一部が重用されたが、これは習主席と「紅2代」間の緊張緩和を予告しているのかもしれない。

習主席の主な幹部に、楽玉成・外交部副部長、陳全国・新疆ウイグル自治区書記(トップ)、張暁明・香港マカオ事務弁公室副主任(2020年2月以前は主任。その前年6月に始まった香港の大規模デモを受けて降格)がいる。皆、習主席の忠臣達で、主席に対し全身全霊で忠誠を誓った。

楽玉成は、プーチン大統領が2月に訪中した際、中ロ関係では「上限を設けない」という名台詞を吐いた。当時、習主席の気持ちを代弁したものとして、中国官製メディアから大好評だった。

しかし、近頃、中国とロシアの関係がぎくしゃくして、習近平を悩ませている。1986年から外交を担当してきた楽玉成は、“スケープゴート”としてテレビ・ラジオ放送局へ配属された。

陳全国は、新疆ウイグル自治区で非人権的な手段を使って、数百万人のウイグル人を「再教育キャンプ」に閉じ込め、西側諸国からごうごうたる非難を浴びた。昨年末、陳全国は新疆を離れ、今、中央農村工作指導小組の副組長を務めている。

張暁明は36年間、香港とマカオで働いたが、これといって大した能力がなかった。ただ、一貫して「極左」(日本語は逆で「極右」。以下、同様)政策を推進し、早期に香港を中国へ吸収し、(「一国二制度」をやめて)香港への「一国一制度」導入に大きな役割を果たした。だが、つい最近、張暁明は、政治協商会議副秘書長に任命されている。

現在、中国共産党が本当に「全面的な反省と検討」にあるかどうかはわからない。けれども、私達がわかっているのは、北京の送っている“和解のシグナル”を西側諸国が感知したという点である。

近頃、中国の欧州担当特別代表である呉紅波がベルギー、キプロス、チェコ、フランス、ハンガリー、ドイツ、イタリアを訪問した。

呉紅波はどこへ行っても低姿勢で、中国の「犯した過ち」を認めた。「ゼロコロナ政策」から、「戦狼外交」、経済政策のミスなど、「中国は自らがやり過ぎたことを理解している」という。

また、米中両国の間にも若干、緊張緩和の兆しが現れている。 6月13日、楊潔篪とサリバンはルクセンブルクで4時間半の会談を行った。双方はそれぞれ「率直で実質的かつ生産的」、「率直で詳細かつ建設的」だったとして、会合を総括している。

6月10日にシンガポールで開かれた米中国防相のオースティン国防長官と魏鳳和国防部長の会談で、双方は台湾海峡での脅威としてお互いを非難した。だが、これは『ウォール・ストリート・ジャーナル』が奇妙な解釈をしている。双方は厳しい言葉を投げかけたが、「実際には、それで緊迫状況を和らげている」という。

最近、「紅2代」である潘岳が国家民族事務委員会主任に任命された。潘が、米国の「民族のるつぼ」概念で、あるいは、陳全国と違った手法で新疆問題を対処するのではないか、と言う人がいる。ただ、これだけで「紅2代」が重用されたとは言い難いだろう。

これらの緊張緩和または緊張緩和の試みの兆候は何を示しているのか。呉強の考えでは、習主席が譲歩を始めたという。中国経済が逼迫し、もし妥協しなければ、中国経済が崩壊する恐れがあるからだろう。

そうなれば、社会が混乱に陥るかもしれない。不穏な党内、社会不安、経済の弱体化、この3者が結び付くと、習主席の3選が破綻する。したがって、選択の余地はない。

習主席の本音と認識、野心、政策の流れと政権の軌跡に照らしてみれば、今この瞬間だけは譲歩するという術策を弄している公算が大きい。一度峠を越えれば、主席が全体主義の方向に大きく前進するのかもしれないので心配だ、と呉強は唱える。

 

<注>

(a)https://www.rfa.org/cantonese/commentaries/wp/com-06292022081056.html

トップ写真:香港返還25周年に先立ち、習近平国家主席の映像を見る香港の子供ら(2022年6月23日、中国・香港) 出典:Photo by Anthony Kwan/Getty Images




この記事を書いた人
澁谷司アジア太平洋交流学会会長

1953年東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。元拓殖大学海外事情研究所教授。アジア太平洋交流学会会長。

澁谷司

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