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.国際  投稿日:2022/1/15

仏、ワクチンパス移行に反対も


Ulala(著述家)

フランスUlalaの視点」

【まとめ】

・カステック仏首相が、ワクチン完全摂取だけを対象とする「ワクチンパス」への移行を発表。

・実質的なワクチン義務化となると一部から反発がおきており、SNSで政府が嘘をついているという話が拡散されている。

・マクロン大統領の支持率には影響しておらず、ワクチン接種率も上がっているが、フランスの感染者数は増加の一途。

 

12月17日フランスのカステックス首相が、飲食店や公共施設などの利用を許可するパスを、2022年の1月中旬以降はワクチン完全接種している人だけを対象とする「ワクチンパス」に移行することを発表してから、フランスではワクチンパス反対派の活動が活発化している。

フランスでワクチン接種を2回以上している国民は、79%を占める。12歳以上に限定すれば、92.5%だ。しかし、未だに12歳以上の7.5%が未接種だが、なんと、その未接種者が病院の重症患者の80%をしめている状況だ。そのため、少しでも国民のコロナ感染による重症化を防ぎ、病院の負荷を減らしていくための戦略としてフランス政府はワクチン接種を促進させようとしている。

↓12月29日の集中治療室の割合の調査結果

■ ネットでは政府非難が拡散

フランスでは、これまではワクチン接種をしていなくても、24時間以内に出された陰性証明があれば「衛生パス」が取得可能だった。しかし、1月中旬以降はワクチンを完全接種していなければ使えない「ワクチンパス」に移行する予定だ。

このことは、実質的なワクチン義務化となると一部から反発がおきており、SNSなどでは政府が嘘をついているという趣旨の話が広く拡散される事態となっている。

例えば、ニュースで紹介された12月20日に亡くなったカリムさんの話は作り物だという噂が流された。ワクチン接種を受けていなかったカリムさんはインタヴューで「ネットのたわごとを信じた自分が愚かだった」と語っていたが、そのカリムさんは実在せず、「俳優が演じて作ったフェイク映像だ」というのだ。その他にも、DREES(フランス政府調査評価統計局)で出されている重症患者の割合と政府の発表の割合が違うと、政府が国民に嘘をついているという主張なども広く拡散された。

こういった状況を受けてフランスの各局のメディアでは検証も行われた。そこではカリムさんは実在の人物であることが確認され、また、カリムさんの家族および同僚が、俳優説を流されたことは亡き人の思い出を汚すものだと非難していることなども紹介された。

また、政府も使用しているDREESのデータと、集中治療室(ICU)を占めているワクチン未接種者の割合が違うことについても、複数のメディアで独自の調査が行われた。

▲写真 国立ベロドロームでワクチン接種を受けるパリ市民(2021年12月22日フランス・パリ西部サンカンタンアンイブリーヌ) 出典:Photo by Chesnot/Getty Images

それによれば、DREESのデータはその期間にICUに入った人数の割合であるということだが、政府や病院が発表する割合は、その日にICUのベットを占めるワクチン未接種者の割合だ。ワクチン未接種者は接種者より重症化して滞在期間が長くなるため、長期の入院となりベッドを占める割合が多くなるのだ。例えば、DREESで12月に55.8%がICUに入ったと書かれていても、実際に現時点でベッドを占領しているのは、以前から入院している人も含めて結果的に80%になっている。

いずれにせよ、12歳以上のワクチン未接種者がフランス全体では7.5%ほどしかいないのにもかかわらず、ICUに入る患者の55.8%が未接種者であるというのはかなり多いことがわかる。ましてや、最終的に80%のベッドを占領することになるということで、政府も強硬な対策に出ているのだろう。

だが、そういったワクチンパス反対派の活動は、SNSでの噂の流布だけではない。

議員や市長などの家に脅迫状が送られたり、家の前に止めてある車に放火されたりなど、すでに300件以上の被害届がでている

カナダの沖に位置するフランス領、サンピエール島・ミクロン島が選挙区の与党所属のステファン・クレロ下院議員宅では、自宅に押し寄せたデモ隊により海草を投げつけられた。この姿を映した映像は、世界中に拡散され多くの人に衝撃を与えた。マクロン大統領も「耐えることも容認することもできない事件」とし非難した。

そのマクロン大統領が、1月4日に(ワクチン接種を促進させるために)ワクチン未接種者を「困らせる」と発言したことはかなりの話題をよんだ。それは、下院で行われていたワクチンパスの審議が、野党からの非難により混乱を招き中断するまでに影響を与えるほどだった。

それでも、下院はなんとか法案を賛成多数で通し、上院に受け渡されたが、この発言はデモを再び活発化させる原因にもなった。発言後すぐの土曜日である1月8日にはフランス全土で10万5200人がワクチンパス反対デモに参加し、その人数は、前回の12月18日に比べて4倍となったのだ。

その日は、パリでは3つのデモが行われた。総勢で1万8000人が参加したが、前回の12月18日の時も、パリで動員されたデモ隊5500人中、4500人がフロリアン・フィリポ氏主宰のデモ隊であったが、今回も最大規模となったのは、極右政党「愛国党」を率いるフィリポ氏主宰のデモ隊だ。1月8日はパレ・ロワイヤル広場に数千人が集まり、マクロン大統領がワクチン未接種者を困らせると言ったのを受けて、“Macron on t’emmerde !”マクロンを困らせる!と叫び反対を訴えた。

■ フランスのワクチン未接種者の詳細

ここで一番気になるのは、これほどまでも政府がワクチン接種を促している中、未だにワクチン接種しない人々とは、いったいどういった人たちなのだろうかということだ。未接種者の理由は多岐に渡っており、明確な人物像を絞るのは難しいところだが、公開されているデータからおぼろげながら輪郭をつかむことができる。

フランスのワクチン未接種者は、年齢別にみれば、12歳~17歳は17.55%、18歳~29歳は4.86%、30歳~49歳は8.87%、50歳~64歳は6.27%、65歳~74歳は4.54%、75歳以上は8.21%で存在する。

12歳から17歳の割合が多いが、接種を始めた時期も遅かったためまだ浸透していない面があるからだ。接種時期も早くはじまり、感染した際に重症になることが多い75歳以上にワクチン未接種者が多いのが気になる。しかし、この年齢層は、ワクチン接種反対者が多いというよりも、ワクチン自体には反対していないものの、自宅にいて表にはあまりでてこないため接種していない高齢者がまだいると結論づけられている。そういった点を考慮すると、自分の意思でワクチン接種をしていない人が多い年齢層は、30歳〜49歳といわれている。

地域では、ワクチン接種していないのはコルシカ島に多い。コルシカ島の35%はワクチン接種していない。またフランス本土でも、比較的、南東部にワクチン接種をしていない人が多い。マルセイユがあるブッシュ=ドュ=ローヌ県や、アルプ=ド=オート=プロヴァンス県では30%は未接種だ。しかしながら、こういった地域の場合は、都会と違い立地的に医療へのアクセスが難しいケースも存在しており、ワクチン接種に反対しているからとは一概に言えない場合が多い。フランス全国的に見れば、各自のワクチンを接種しない事情は複雑で、詳細は地域によって異なる場合もある。

SLavaco研究所の社会学者ジェレミー・ウォード氏がまとめた研究結果からは、立地条件にそこまで左右されない都会においてのワクチン未接種者の人物像が垣間見える。12月2日から17日までに、フランスの都会に住む2022人へ行われた調査結果によれば、対象者の10.5%がワクチン未接種者だった。

その10.5%の内訳は、7%が確実にワクチンを接種しないとしており、多分受けないとしているのが3.5%。また、未接種者は多くの場合女性、若者。そして極右と極左に共感しているか、もしくはどの政党も支持していないことがわかった。

また、収入額で比べるのではなく実際に支払いができる生活をしているか質問をした場合、薬の購入が難しかったり、月末の支払いに苦労している人に未接種の人が多い。

薬を購入したい時に購入できる人は、95%がワクチン接種しているが、出来ない人は82%にすぎない。また、月末の支払いを問題なく済ませることができるかという質問では、できる人は92%がワクチン接種しており、出来ない人は79%という結果だ。

■ 「ワクチンパス」法案、上院を通過

フランス政府は、多くの人がワクチン接種することを願い、ワクチンパスの導入を目指している。それに伴い反対派の活動も活発化した。反対派の活動があまりにも激しいので、イタリアでワクチンパスが開始した時の穏やかさと比較されるほどだ。しかしながら、これだけいろいろな騒動が起きながらも、最終的にはそれほど大きな影響は与えることはなかった。

フランス大統領選挙の2022年の指示度を示すアンケートでは、発言を非難されたもののマクロン大統領はトップを走り続けている。人気度に影響を及ぼすことはいまのところない。

また、ワクチンパスの法案はマクロン大統領の発言を受けて下院での審議の中断を余儀なくされたものの、最終的には大多数の賛成を得て承認された。そして、1月17日の週に法案が施行されることとなっている。それとともに、ワクチン未接種者の割合も順調に減少してきており、それだけでも、すでにワクチンパスの効果がでてきているとも言えるかもしれない。

しかしながら、現在、フランスでは感染者は増加の一途であり、1月12日の新規感染者は36万人を超え、ICUに入っている患者も3985人になった。これは、許容人数の80%ほどが埋まっていることになる。

こういった状況であるからこそ、フランスでは、ワクチンパスが少しでも効果を発揮し、医療機関の負担を減らすことが願われているのである。

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トップ写真:反ワクチンデモ(フランスのパリで 2021年7月17日に) 出典:Photo by Kiran Ridley/Getty Images




この記事を書いた人
Ulalaライター・ブロガー

日本では大手メーカーでエンジニアとして勤務後、フランスに渡り、パリでWEB関係でプログラマー、システム管理者として勤務。現在は二人の子育ての傍ら、ブログの運営、著述家として活動中。ほとんど日本人がいない町で、フランス人社会にどっぷり入って生活している体験をふまえたフランスの生活、子育て、教育に関することを中心に書いてます。

Ulala

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