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.国際  投稿日:2022/1/26

中国工作員、米英豪に浸透か


澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)

【まとめ】
・英米の政界で中国女性工作員が暗躍との発表、報道が相次ぐ。ハニートラップも駆使。

・「米国内に数百人から数千人の中国人スパイ」の証言。オーストラリアも攻撃目標に。

・一連の報道から、中国共産党は世界支配を目指し、特にAUKUSに工作員多数を潜入させているとの疑惑が湧く。

 

今年(2022年)1月13日、英情報局保安部、いわゆるMI5(Military Intelligence Section 5)は、中国女性工作員が英議会に対し、献金を通じて「政治的な影響力行使」に関与していると警告した、と報じられた。(『JIJI.COM』<時事通信社>「中国工作員、英議会で暗躍 情報機関が異例の警告」<2022年1月14日付>)

第1に、MI5は、クリスティン・チン・クイ・リー(Christine Ching Kui Lee)が中国共産党の海外工作や政治介入の中心組織、中央統一戦線工作部(以下、中央統戦部)と連携していると主張。

第2に、クリスティン・リーは「英中プロジェクト」や「中国海外友好」などの事業名目で、複数の政党、議員らに対する献金に関わってきたとされる。

第3に、MI5は中央統戦部指揮下の活動について「政治家や著名人を欺き、腐敗させ、強制し、共産党の目的を支持する発言や行動を取らせ、批判的な声を封じることを目指している」と指摘した(同上)。ちなみに、海外で教育支援プログラムを実施している孔子学院は、中央統戦部の管轄下にある。

他方、『BBC NEWS(Japan)』(「英MI5、『中国工作員』が議会で暗躍と警告 中国は否定」<2022年1月14日付>)は次のように伝えている。

第1に、クリスティン・リーは中国や香港の非英国人から得た資金を、英国政治家に献金として渡していた。

第2に、最大野党・労働党のバリー・ガーディナー(Barry Gardiner)下院議員は、2014年末以降、リーの法律事務所「クリスティン・リー&カンパニー」から献金を受けていた。そして、下院議員の利益登録簿によると、2020年までの間に42万ポンド(約6500万円)以上を受け取っていた。

第3に、リーの息子がガーディナーの議員事務所でボランティアとして働き始め、後に正式採用された。

▲写真 英最大野党・労働党のバリー・ガーディナー下院議員(2021年9月28日) 出典:Photo by Leon Neal/Getty Images

クリスティン・リーは、ロンドンとバーミンガムに弁護士事務所を構えている。リーは1963年、香港で生まれた。1974年、両親と共に香港から北アイルランドへ移住している(英国籍を持つ)。なお、リーには2度の結婚歴があるという。

無論、英議会だけではなく、米連邦議会内にも、中国人スパイは浸透している、との報道もある。

『大紀元』「中国が世界で大規模なハニートラップ、米元情報当局者『米だけで数千人』(2020年12月12日付)と『産経新聞』(「中国の女性スパイが民主党下院議員を籠絡 情報収集に協力か 米報道」2020年12月17日付)は以下のように報道した。

第1に、中国の女スパイがカリフォルニア州などの民主党所属の議員に接近し、複数の男性と不適切な関係を結んだ(名指しされたのは、カリフォルニア州選出のエリック・スウォルウェル<Eric Swalwell>民主党下院議員)。

▲写真 米民主党・エリック・スウォルウェル下院議員 出典:Photo by Al Drago-Pool/Getty Images

第2に、そのスパイは20〜30代の中国人女性で、クリスティーン・ファン(Christine Fang、方芳<Fang Fang>)と名乗った。留学生として、サンフランシスコ近郊にあるカリフォルニア州立大学イーストベイ校(California State University, East Bay)に通っている。方芳は在サンフランシスコ中国総領事館の命令で動いていたという。

第3に、『Fox News』は同年12月10日、米情報機関元当局者の証言として、米国内に数百人から数千人の中国人スパイが潜んでいると報じた。

第4に、中国は、世界的にハニートラップを仕掛けており、「新型コロナ」流行後、活動を活発化させているという。

第5に、これらのスパイは名門校出身で、流暢な英語を話す。彼らはソーシャルメディアのリンクトイン(Linkedln)とフェイスブック(Facebook)等を使いこなし、標的の政治家に接近している。

第6に、情報機関元官僚のデル・ウィルバー(Del Wilber)は、ターゲットの大半が既婚男性だと指摘した。ウィルバーによると、中国人スパイは、あらゆる場面を写真や映像で記録し、脅迫に使う。「ハニートラップにはめられた政治家は、中国当局への情報提供を強要されている」という。

ところで、英米以外にもオーストラリアが中央統戦部の攻撃目標になっている。『Bloomberg』(「中国が豪州で工作活動との報道相次ぐ-両国間の緊張高まる」<2019年11月26日付>)は次のように伝えている。

豪メディアは、中国の工作員として働いていた王力強が、香港で軍事情報を担当する高官の情報、及び、香港・台湾・豪州での政治干渉活動に関する秘密情報提供と引き換えに、政治亡命を求めていると報じた。

また、『ナイン・ネットワーク』は2019年11月24日、中国の工作員とみられる複数の人物がメルボルンの高級車ディーラー、ボー・ニック・チャオ(32歳)に100万豪ドル(約7400万円)を渡し、議会選挙に立候補するよう促したと伝えた。

豪治安情報局(ASIO)に接触したチャオは、その後、メルボルンにあるホテルの一室で遺体となって発見された。死因は不明である。

モリソン豪首相は翌25日、「外国の干渉から豪国民を安全に守るため政府はこれまで以上に強く決意している」と表明した。

▲写真:モリソン豪首相(2021年11月12日) 出典:Photo by Darrian Traynor/Getty Images

このように、一連の報道を見る限り、中国共産党は、(日本を含め)世界中に工作員を送り込んで、最終的に世界を支配しようとしているかのような疑惑が湧いてくる。

特に、中国へ厳しい対応を取る、AUKUS(Australia・United Kingdom・United States、3か国の軍事同盟)に狙いを定め、工作員を多数潜入させているのではないか。

トップ写真:中国・習近平国家主席 出典:Photo by Sean Gallup/Getty Images




この記事を書いた人
澁谷司アジア太平洋交流学会会長

1953年東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。元拓殖大学海外事情研究所教授。アジア太平洋交流学会会長。

澁谷司

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