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.経済  投稿日:2022/2/19

自動車の家電化、社会変えるか


嶌信彦(ジャーナリスト)

「嶌信彦の鳥・虫・歴史の目」

【まとめ】

・ソニーグループ、今春にも新会社「ソニーモビリティ株式会社」設立を発表。

・欧米や中国、台湾の家電、精密工業、ネット企業なども参入をもくろむ。

・法体系や規制のあり方も抜本的に変わるとなれば、21世紀の自動車社会の到来までにはまだ時間がかかるかもしれない。

 

家電メーカーが自動車を製造する時代がやってきた――

ソニーグループは、今春にも新会社「ソニーモビリティ株式会社」を設立すると発表した。ガソリンエンジンで走行する車は、CO2(炭酸ガス)を排出しながら動くため、地球環境に悪影響を及ぼすとして既存の自動車メーカー各社は電気自動車に切り替える動きを早めている。そこへ家電メーカーもガソリンエンジンを使わずに自動車業界に参入する意向を強めており、自動車生産の“戦国時代”がやってくることが確実だ。

これまでの自動車の主要動力源はガソリンエンジンだった。しかしガソリンエンジンだと、走行中に炭酸ガス(CO2)など地球環境に悪影響を及ぼす排気ガスを出すため、各国とも一斉に電気自動車(EV)に切り換え始めている。EVだとガソリンを使わず、電気モーターで車を走行させることができるため、自動車各社は目の色を変えてEV開発に動きだしているのだ。

EVになると、必要な部品の数はこれまでの3万点から2万点ぐらいに減少するといわれる。ガソリン自動車は、部品の組み合わせで出来ている製品だった。主力のエンジンのほか、タイヤ、シート、ハンドル、ガラス、ヘッドライト、メーターなど部品点数は約3万点、ネジ一本まで細かく数えると10万点に及んだ。

しかし、主力動力源がガソリンエンジンからモーター、バッテリーに変わると劇的に部品数を減らすことができるのだ。ガソリン自動車だとエンジンだけで約1万点の部品があり、その他にトランスミッション、燃料タンク、マフラー、ラジエーター、ブレーキなどを必要とした。またガソリン車では、車体のあらゆる箇所にシステムを個々に制御するための電子制御ユニット(ECU)60〜70ユニットの搭載を必要としていたが、モーター車になると大幅に節約できるという。モーター車は、簡単にいえば遊園地で子供たちが乗っている子供用のゴーカートを大きく本格化させたものと考えてよいかもしれない。

実はこれらの分野は電機メーカーが得意とする分野で、ソニーだけでなく欧米や中国、台湾の家電、精密工業、ネット企業なども参入をもくろんでいるのだ。さらに既存の自動車からガソリンエンジンが不用となり、部品点数が大幅に減少するとなれば、自動車のスタイル、デザインも大きく変わってくるに違いない。自動車のフロント部分を大きく占めていたガソリンエンジンがモーターなどに代わるようになれば、自動車の形やデザインも今のように画一的でなく、もっと自由で奇抜な形状の車ができるだろう。

▲写真 ModelX発表会で、米テスラ社のCEOイーロン・マスク氏(2015年9月29日、カリフォルニア州フリーモント) 出典:Photo by Justin Sullivan/Getty Images

ただ、現在の道路や法律は20世紀の自動車の走行に応じて作られているので、新時代の自動車が登場するとなれば、道路交通法や自動車の概念も変化してくるかもしれない。自動車の製造技術までが変わってくると、新しい自動車時代に即応した法律や規制、安全性に対する考え方などの変化も大きなものになるに違いない。また人々の生活様式も変化することになろう。自動車は社会そのものを変える可能性があるだけに、法体系や規制のあり方も抜本的に変わるとなれば、21世紀の自動車社会の到来までにはまだ時間がかかるかもしれない。

トップ写真:CES2022で公開された、ソニーのSUV型EV、Sony VISION-S 02(左)と前モデルセダン型のVISION-S 01(右)ネバダ州・ラスベガス・マンダレーベイコンベンション(2022年1月4日) 出典:Photo by Alex Wong/Getty Images




この記事を書いた人
嶌信彦ジャーナリスト

嶌信彦ジャーナリスト

慶応大学経済学部卒業後、毎日新聞社入社。大蔵省、通産省、外務省、日銀、財界、経団連倶楽部、ワシントン特派員などを経て、1987年からフリーとなり、TBSテレビ「ブロードキャスター」「NEWS23」「朝ズバッ!」等のコメンテーター、BS-TBS「グローバル・ナビフロント」のキャスターを約15年務める。

現在は、TBSラジオ「嶌信彦 人生百景『志の人たち』」にレギュラー出演。

2015年9月30日に新著ノンフィクション「日本兵捕虜はウズベキスタンにオペラハウスを建てた」(角川書店)を発売。本書は3刷後、改訂版として2019年9月に伝説となった日本兵捕虜ーソ連四大劇場を建てた男たち」(角川新書)として発売。日本人捕虜たちが中央アジア・ウズベキスタンに旧ソ連の4大オペラハウスの一つとなる「ナボイ劇場」を完成させ、よく知られている悲惨なシベリア抑留とは異なる波乱万丈の建設秘話を描いている。その他著書に「日本人の覚悟~成熟経済を超える」(実業之日本社)、「ニュースキャスターたちの24時間」(講談社α文庫)等多数。

嶌信彦

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