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.国際  投稿日:2022/3/13

韓国大統領選を読み解く(上)


澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)

【まとめ】

・韓国大統領選、保守系最大野党の尹錫悦候補が与党「共に民主党」の李在明候補を僅差で破り、第20代大統領に当選。

・今回は、かつて民主党を支持していた(1)20〜30代(2)ソウル市(3)全羅道等の有権者の支持が変化、尹氏勝利に結び付いた。

・ソウル市不動産の高騰が原因のせいか、ソウル市の支持傾向が大きく変化している。

 

2022年3月9日(水)、韓国では5年ぶりに大統領選挙が行われ、即日開票された。事実上、与野党候補の一騎打ちとなった。

周知の通り、結果は保守系最大野党の尹錫悦(ユン・ソギョル)候補が与党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)候補を僅差で破って、第20代大統領に当選した。尹錫悦は政治経験がないので、大統領として不安定視されていたが、見事に勝利している。

今度の大統領選挙は、選挙戦に入る前から、“泥試合”の様相を帯びていた。両候補とも、夫人がスキャンダルを抱えていたのである。

例えば、昨年12月、尹錫悦候補の金建希(キム・ゴンヒ)夫人は、学歴詐称を認め、謝罪(a)した。金夫人の経歴詐称問題をめぐっては、2007年、水原女子大の教員採用に応募する際に提出した経歴に、受賞歴を偽って記載したことが発覚している。

さて、3月2日、大統領選の投開票まで、あと1週間と迫った(同3日から選挙に関する世論調査結果の公表が禁止)。歴代大統領選では、この時期の世論調査が、本番の大統領選の結果につながっている(b)。

「韓国ギャラップ」が実施した1987年の大統領選から2017年大統領選までの調査結果によれば、投票日の約10日前に行った世論調査で、たとえ僅差でも支持率がトップとなった候補がいずれも大統領選で勝利しているという。

世論調査会社「リアルメーター」が2月28日から3月1日まで全国の成人1007人を対象に実施した調査では、尹錫悅が46.3%、李在明が43.1%だった。

また、 「エースリサーチ」が2月27〜28日に成人1004人を対象に行った調査では、尹錫悅が44.6%、李在明が43.7%で、その差はわずか0.9ポイントで、誤差の範囲内だった。ただ、例年とは違って、今回に限り予測が困難という見方が出ていた。

選挙当日19時30分、投票が締め切られ、開票が始まった。地上波3局の出口調査では、「『共に民主党』の李在明候補が47.8%、『国民の力』の尹錫悦候補が48.4%の票を得るだろう」と発表(c)した。結果的に、この出口調査が極めて精確だった事が後にわかる。

開票は、序盤に大きくリードした李在明を、尹錫悦が少しずつ追い上げる展開となった。10日深夜、開票率が約50%の時点で両者の票数が逆転する。その後、尹錫悦と李在明の差は広がらないまま、未明に尹の当選が確実となった。

3月10日、中央選挙管理委員会によると、尹錫悅は1639万4815票(得票率48.56%)を獲得して当選(d)を果たした。一方、李在明は1614万7738票(同47.83%)を獲得した。両候補の票差は24万7077票、得票率では0.73ポイントの差である。1987年大統領直接選挙制への改憲以来、歴代最小の格差となった。

なお、「正義党」の沈相奵(シム・サンジョン)候補は80万3358票(同2.37%)、「国家革命党」の許京寧(ホ・ギョンヨン)候補は28万1481票(同0.82%)に終わっている。

今回の大統領選は、かつて民主党を圧倒的に支持していた(1)20〜30代、(2)ソウル市、(3)全羅道等の有権者の支持が変化し、尹錫悦勝利に結び付いた(e)という。

20〜30代は勝負の鍵を握る“浮動票”として、選挙期間中、注目を浴びていた。過去、20〜30代は民主党支持傾向が強かった。だが、投票直後、地上波3社が発表した出口調査結果で、20代では尹錫悅45.5%対李在明47.8%、30代では尹48.1%対李46.3%でほぼ拮抗していた。

▲写真 労働条件改善を要求する集会を開く韓国労働組合連盟のメンバー(2022年1月15日、韓国ソウル) 出典:Photo by Chung Sung-Jun/Getty Images

2年前の総選挙で、与党「共に民主党」は野党「未来統合党」(現、「国民の力」)に対し、20代では56.4%対32.0%、30代では61.1%対29.7%と約2倍の差をつけ圧倒していた。だが、今回は状況が一変している。

他方、大票田であるソウル市は1987年以降実施された過去7回の大統領選で、2007年に李明博(イ・ミョンバク)が勝利したのを除けば、保守政党が7戦6敗の“鬼門”地域だった。しかし、今回、ソウル市で尹錫悦は50.6%を得票し、李在明(45.7%)を4.8ポイントもリードした。

特に、ソウル市の25区のうち、伝統的に保守支持傾向が強かった江南地域を含め、14区を尹氏が制している。ちなみに、2017年大統領選では、文在寅(ムン・ジェイン)が同市のすべての区で勝利した。ソウル市不動産の高騰が原因のせいか、ソウル市の支持傾向が大きく変化している。

(下につづく)

 

【注】

(a)『聯合ニュース』「最大野党大統領選候補の妻 経歴詐称認め謝罪=韓国-韓国社会と文化の最新情報」 (2021年12月26日付)

(b)『聯合ニュース』「韓国大統領選まで1週間も接戦続く 3日からは世論調査公表禁止」(2022年3月2日付)

韓国大統領選まで1週間も接戦続く 3日からは世論調査公表禁止)。

(c)『朝鮮日報』(日本語版)

韓国大統領選:『五輪決勝戦見ているようなスリル』夜間の開票中継にチキン出前特需」(2022年3月11日付)

(d)『中央日報』(日本語版)

<韓国大統領選>尹錫悦氏48.56%得票「歴代最小」0.73%ポイント差 | Joongang Ilbo | 中央日報」(2022年3月10日付)

(e)『朝鮮日報』(日本語版)

韓国大統領選:保守7戦6敗のソウル、5年前の0対25が14対11に(上)(朝鮮日報日本語版) – Yahoo!ニュース

トップ写真:第20代韓国大統領尹錫悦(ユン・ソギョル)氏(2022年3月10日) 出典:Photo by Chung Sung-Jun/Getty Images




この記事を書いた人
澁谷司アジア太平洋交流学会会長

1953年東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。元拓殖大学海外事情研究所教授。アジア太平洋交流学会会長。

澁谷司

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