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.社会  投稿日:2022/4/27

福島県の医師不足は改善されたのか その1


上昌広(医療ガバナンス研究所理事長)

「上昌広と福島県浜通り便り」

【まとめ】

・2020年の医師数は増加したが、国際的には少ない。OECD38カ国中33位。

・福島県の医師増加率の低さは際立つ。県内の医師偏在も深刻。いわき市はこの二年間で逆に18.1%も減少。

・過疎地向けの地域枠制度では解決しない。いわき市のような規模が大きく高齢化が進む地域の医療は、このままでは崩壊する。

 

 2020年の医師・歯科医師・薬剤師統計の結果が公表された。福島県の医師不足は、どの程度改善されたのだろうか。

 まずは全国の状況だ。「医師・歯科医師・薬剤師統計」は2年毎に発表される。2020年の我が国全体での医師数は33万9,623人で、2018年の32万7,210人から1万2,413人(3.8%)増加した。人口10万人換算では269.2人で、2018年の258.8人から10.4人(4.0%)増えている。

 2009年、舛添要一厚労大臣(当時)が医学部定員を大幅に増やした政策の効果がでて、この二年間で医師数は増加したが、それでも国際的に見れば少ない。

 昨年11月、OECD雇用局医療課の藤澤理恵氏が発表した「図表でみる医療2021:日本」によると、日本の人口1000人当たりの医師数はOECD加盟38カ国中、トルコ、コロンビア、ポーランド、メキシコ、韓国に次いで少ない。独(4.4人)、イタリア(4.1人)、仏(3.2人)などとは比較にならない。

 では、国内の偏在はどうなっているだろう。結果を図1に示す。「医師・歯科医師・薬剤師統計」から引用した。最も多いのは徳島県(338.4人)で、京都府(332.7人)、高知県(322.0人)と続く。一方、最も少ないのは埼玉県(177.7人)で、茨城県(193.7人)、新潟県(204.3人)、福島県(205.7人)と続く。東日本で全国平均以上の医師数なのは、東京しかなく、圧倒的な西高東低だ。

【図1】出典:『医師・歯科医師・薬剤師統計』 

 

 では、医師数の増加で、この偏在は解消されたのだろうか。都道府県で明暗を分けた。図2をご覧いただきたい。2018年と比べた医師の増加率がもっとも高いのは、奈良県(7.2%)で、沖縄県(6.9%)、千葉県(6.0%)、兵庫県(5.6%)と続く。いずれも医師数が全国平均を下回る医師不足県だ。

 逆に、医師が増加していないのは福島県(0.4%)、山形県(1.4%)、高知県(1.6%)、和歌山県(1.9%)と続く。医師数が多い高知県や和歌山県は兎も角、福島県、山形県の状況は深刻だ。特に、福島の状況は際立っている。福島第一原発事故の影響が大きいのだろう。

【図2】出典:『医師・歯科医師・薬剤師統計』

 

 福島県内も状況は一律ではない。厚労省は指定都市・特別区・中核市の医師数についても発表している。この中には福島県から福島市、郡山市、いわき市が含まれている。2020年の医師数は多い順に福島市(430.1人)、郡山市(268.2人)、いわき市(142.1人)となる。福島市といわき市では実に3倍の差だ。

 福島県は医師偏在が深刻だ。厚労省が2018年に指定都市・特別区・中核市としてデータを開示した75自治体中、福島市の医師数は11番目に多い。一方、いわき市は豊田市(139.0人)に次いでワースト二位だ。

 問題はいわき市の医師数が、この二年間で18.1%も減少していることだ。医師総数が増える中、医師が減っている指定都市・特別区・中核市は、いわき市以外には、盛岡市(-34.3%)、豊田市(-20.9%)、川口市(-1.1%)、青森市(-0.4%)、那覇市(-0.2%)、八尾市(-0.04%)しかない。盛岡市、豊田市と並び、いわき市の状況が如何に深刻かご理解頂けるだろう。

 このような地域の問題は、規模が大きいことだ。人口は盛岡市約28.7万人、豊田市41.8万人、いわき市32.7万人だ。必要な医師数も多い。過疎地の医師不足を念頭に運営されている地域枠制度などの弥縫策では問題は解決しない。高齢化が進むこのような地域の医療は、このままでは崩壊する。地元での医師育成数を増やすとともに、地域外から医師を呼び込む仕組みを作らねばならない。この点については、福島県浜通りで興味深い動きが進行中だ。次回、ご紹介したい。

(つづく) 

トップ写真)東日本大震災で避難した子どもを診察する医師(2011年3月21日 岩手・陸前高田市)

出典)Photo by Paula Bronstein /Getty Images




この記事を書いた人
上昌広医療ガバナンス研究所 理事長

1968年生まれ。兵庫県出身。灘中学校・高等学校を経て、1993年(平成5年)東京大学医学部医学科卒業。東京大学医学部附属病院で内科研修の後、1995年(平成7年)から東京都立駒込病院血液内科医員。1999年(平成11年)、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。専門は血液・腫瘍内科学、真菌感染症学、メディカルネットワーク論、医療ガバナンス論。東京大学医科学研究所特任教授、帝京大学医療情報システム研究センター客員教授。2016年3月東京大学医科学研究所退任、医療ガバナンス研究所設立、理事長就任。

上昌広

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