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.政治  投稿日:2022/5/3

「自衛のための実力組織」の名称は法律次元で


島田洋一(福井県立大学教授)

「島田洋一の国際政治力」

【まとめ】

・憲法に「自衛隊」を明記するという自民党の改正案に、他ならぬ自衛隊の有力OBから批判の声が出ている。

・自民党素案、西修正案ともに「自衛隊」という言葉を明記する点において、自衛隊内部から批判の声が出ている。

・憲法には「自衛権に基づく実力行使のための組織を保持する」とのみ規定し、組織の名称は憲法ではなく、法律の次元で規定すればよい。

 

憲法に「自衛隊」を明記するという自民党の改正案に、他ならぬ自衛隊の有力OBから批判の声が出ている。なぜか。

自民党はそのホームページにおいて、憲法改正の「条文イメージ」として、①自衛隊の明記②緊急事態対応③合区解消・地方公共団体④教育充実―の4項目を挙げ、このうち①について次のように敷衍している。

・憲法改正により自衛隊をきちんと憲法に位置づけ、「自衛隊違憲論」は解消すべき

・現行の9条1項・2項とその解釈を維持し、自衛隊を明記するとともに自衛の措置(自衛権)についても言及すべき

具体的には次のような条文案(素案)が提示されている。

第9条の2(新設)

①前条の規定は、わが国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つために必要な自衛の措置をとることを妨げず、そのための実力組織として、法律の定めるところにより、内閣の首長たる内閣総理大臣を最高の指揮監督者とする自衛隊を保持する。②自衛隊の行動は、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する》

憲法学者の西修教授は、①が冗長で分かりにくいとして以下のような修正案を提示している。

《①日本国は、その平和と独立を守り、国および国民の安全を保つための実力組織として、法律の定めるところにより、内閣総理大臣を最高の指揮監督権者とする自衛隊を保持する。②素案に同じ》(2022年5月2日、産経新聞「正論」)

確かにこの方が、文としてすっきりしている。

ただし自民党素案、西修正案ともに「自衛隊」という言葉を明記する点においては同じである。しかし先に触れたとおり、まさにその点に、自衛隊の内部から批判の声が出ている。

あくまで終戦直後の「警察予備隊」の発展形をイメージさせ、また規模の面でも部隊レベルを思わせる「自衛隊」ではなく、「国防軍」が名称として望ましいとの声である。

と言うと直ちに、「『国防軍』なら、公明党や左派野党が受け入れない。正論であるにせよ、改憲論議の足を引っ張る効果しか持たない」という反論が出るだろう。しかし、何も組織の具体的名称を憲法に規定する必要はない。

▲写真 陸上自衛隊による「令和元年度富士総合火力演習」の模様(2019年8月22日、静岡県御殿場市東富士演習場) 出典:Photo by Tomohiro Ohsumi/Getty Images

かつて枝野幸男前立憲民主党代表が月刊誌で、「自衛権に基づく実力行使のための組織」の保有を書き加える憲法改正案を提示したことがある(文芸春秋、2013年10月号)。

まさにその通り、憲法には「自衛権に基づく実力行使のための組織を保持する」とのみ規定し、組織の名称は憲法ではなく、法律の次元で規定すればよいだろう。現在の自衛隊も法律次元の名称である。

自衛のための組織保持を明記した改憲をまず実現した上で、当面は「自衛隊」の呼称を継承しつつ、「国防軍」案を含め、改めて国会内外で議論すればよいだろう。憲法に自衛隊と書くか国防軍と書くかで保守派が分裂するなら、左派「護憲勢力」の思う壺となりかねない。

トップ写真:安倍晋三首相(当時)が自衛隊高級幹部会同に出席した際、栄誉礼を行うために行進する自衛隊儀じょう隊(2019年9月17日) 東京・市ヶ谷 出典:Photo by Tomohiro Ohsumi/Getty Images




この記事を書いた人
島田洋一福井県立大学教授

福井県立大学教授、国家基本問題研究所(櫻井よしこ理事長)評議員・企画委員、拉致被害者を救う会全国協議会副会長。1957年大阪府生まれ。京都大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程修了。著書に『アメリカ・北朝鮮抗争史』など多数。月刊正論に「アメリカの深層」、月刊WILLに「天下の大道」連載中。産経新聞「正論」執筆メンバー。

島田洋一

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