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.国際  投稿日:2022/5/25

米、台湾防衛で「より明確な曖昧戦略」へ移行


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

「宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2022#21」

2022年5月23-29日

【まとめ】

・近年では珍しく、日本で外交イベントが頻繁に開催されている。

・首脳会談で、米国は日本の常任理事国入りやG7サミットの広島開催を支持し、日本はIPEFへの参加と防衛費増額の意志を表明。

・合同記者会見での台湾防衛に関するバイデン大統領の「失言」が波紋を広げている。

 

今週は久し振りに東京が主要国外交の舞台となった。バイデン大統領が就任後初めてアジアを訪問、23日に日米首脳会談、24日には三回目となるクアッド(日米豪印)首脳会議がそれぞれ東京で開催された。日本で外交イベントがこれほど目白押しになるのも最近では珍しい。コロナ禍が如何に外交のやり方を変えたか、である。

バイデン訪日は、ウクライナ危機にも拘らず米国の戦略的優先順位が変わらないこと、地域の政治指導者の交代にもかかわらず、「自由で開かれたインド太平洋」重視の流れが変わらないことを示した。大変結構なことだと思うのだが、そこはバイデン大統領だ。勿論、波乱が全くなかった訳ではない。

日米共同声明を読めば、ウクライナ問題で日米同盟の結束を示し、北朝鮮をめぐっては日米、日米韓で一層緊密に連携することが確認され、中国の力を背景とした現状変更の試みにも強く反対し、米国の「拡大抑止」を再確認している。

経済版2プラス2の7月開催が決まり、米国は日本の常任理事国入りや来年のG7サミット広島開催を支持した。日本はIPEFへの参加を表明、今後の防衛費増額の決意を述べた。日本としてはかなり頑張った結果だ。関係者の努力は正当に評価されるべきだろう。

ところが、こうした成果も、バイデン大統領の一言で吹っ飛んでしまった。共同記者会見で「台湾防衛に軍事的関与する用意はあるか」と問われ、大統領は「(その用意は)ある。それが我々のコミットメントだ」と答えてしまったからだ。早速朝日新聞は「バイデン氏『あいまい戦略』転換か 台湾防衛で関与明言 中国は反発」などと報じた。

恐らくバイデン大統領は確信犯だったと思う。この種の発言は既に3回目であり、単なる「失言」とは到底思えない。これまで米の台湾政策は、中国が台湾を軍事侵攻した際の米国の対応を明らかにしないという「曖昧戦略」だった。バイデン氏は最低限の「曖昧さ」を維持しつつも、より明確な「曖昧戦略」に移行しつつあるようだ

▲写真 日米首脳会談共同記者会見(2022年5月23日) 出典:首相官邸

もう一つの焦点である日韓関係について米国がその改善に期待を持つのは当然だ。しかし、共同声明では、日米韓3国の協力に触れたものの、日韓関係について特段の言及はなかった。バイデン大統領も米国の限界は理解しているのだろう。2015年のいわゆる「慰安婦合意」実現に尽力したのは当時のバイデン副大統領だった。

クアッド首脳会合の成果については来週コメントするが、豪州の新首相について一言だけ。労働党の新首相は保守系の前首相と違い「親中」ではないかと見る向きも一部にあったが、それは杞憂のようだ。そもそも、今回の豪州総選挙において中国」は争点ではなかった。クアッドの枠組みは今後も維持されるだろう。

〇アジア

北朝鮮でコロナ感染が止まらない。4月末から新型コロナウイルスの感染が疑われる発熱患者が増え続けており、22日夕までの1日で新たに16万7千人超の発熱患者が確認され、1人が死亡したという。このままでは世界で初めての「集団免疫」を目指す国になるのだろうか。

〇欧州・ロシア

ジュネーブ駐在のベテランの露外交官、軍縮会議ロシア代表部の参事官らしい、が自国によるウクライナ侵攻に抗議し辞任したそうだ。「プーチンが引き起こした侵略戦争は犯罪」などと痛烈に批判。ロシアの軍事オタクの間でもプーチン批判が渦巻いており、プーチンはこれを止められないようだ。

〇中東

トルコ大統領が南部の国境沿いで近く軍事作戦を行う計画があると述べたそうだ。シリアのクルド人武装勢力を標的にするそうだが、さすがエルドアンさん、ちゃんと計算しているようだ。こういう外交も効果的だが、そう何度も使える手ではない。それを多用するのがいかにもエルドアンらしい。

〇南北アメリカ 

バイデン大統領の支持率が低迷している。追い打ちをかけるように、いま米国では乳幼児がいる家庭の多くが粉ミルクの供給不足で苦しんでいるという。粉ミルクメーカー大手が自社製品をリコールし、粉ミルク製造工場を閉鎖したからだそうだが、たかがミルク、されどミルクだ。欧州から米軍機が粉ミルクを輸送するそうだが、それはもう喜劇に近い。

〇インド亜大陸 

モディ首相の訪日以外に特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ写真:握手を交わすバイデン米大統領(左)と岸田首相(右) 出典:首相官邸




この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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