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.国際  投稿日:2022/6/3

ヤンゴンなどで戦闘激化 ミャンマー


大塚智彦(フリージャーナリスト)

「大塚智彦の東南アジア万華鏡」

【まとめ】

・ミャンマーの元首都で現在の中心都市でもあるヤンゴン市内で「国民防衛隊(PDF)」による武力行使が行われ、治安が悪化している。

・戦闘には無実、無抵抗、非武装の市民が巻き込まれて死亡したり残虐行為による人権侵害事案が急増したりと、実質的な「内戦」状態に陥っている。

・人権侵害行為は国際的に報道されることも少なく、軍政に抵抗するミャンマー記者らによる独立系メディアが主に報じている。

 

ミャンマーの元首都で現在の中心都市でもあるヤンゴン市内でこのところ爆弾が爆発する事件や銃撃戦が相次ぎ、治安が急速に悪化しているという。爆弾は軍政に抵抗する民主派の武装市民組織「国民防衛隊(PDF)」によるものとみられ、軍の拠点や軍が関係する企業、銀行、兵士や軍政関係者、当局に民主派の情報を提供するスパイなどが標的になっている。

また中部マグウェ地方域(地方自治体は州と地方域と呼ばれる地域からなる)では軍に情報提供し、軍による一般民家の「放火作戦」にも同行していた軍情報将校をPDFが身柄拘束し、尋問中に抵抗したため殺害するという事案も起きている。

ロシア軍によるウクライナ侵攻が国際報道で注目を浴びる中、ミャンマーの軍と民主派の戦闘は忘れられようとしているが、軍とPDF、軍と国境地帯の少数民族武装組織との戦闘は続いている。

2021年2月1日のクーデター以来1年以上が経過しても国内治安を回復できないミン・アウン・フライン国軍司令官ら軍政幹部は焦燥感にかられているともいわれ、戦闘には無実、無抵抗、非武装の市民が巻き込まれて死亡したり残虐行為による人権侵害事案が急増したりと、実質的な「内戦」状態に陥っている。

写真)軍事政権の治安部隊が橋を渡らな様バリケードを作る一般市民。2021年3月16日。

出典)Photo by Stringer/Getty Images

★ヤンゴン市内の治安は悪化

ヤンゴン市内では5月17日、午前11時半ごろ西部マヤンゴン軍区のタミン交差点近くにあった軍の拠点に対し爆弾攻撃があり、その後銃撃戦となる戦闘が起きた。死傷者の情報は明らかではないが、PDFによる攻撃とみられている。

また5月には西ヤンゴンのアロン郡区で軍政側の地区事務所関係者が殺害される事件も起きている。

ヤンゴン市内に潜伏中のジャーナリストによると市内の一部では治安安定を内外にアピールするために軍政が指導して営業を再開した市場や商店、銀行、飲食店が店を開け、通りの車や人通りもクーデター前に比べればさみしいものの一定の賑わいを取り戻しているという。

このジャーナリストは「ヤンゴン市民は銃撃戦や爆弾騒動に慣れっこになっているようだが、よほどの用事がない限り外出を控えているようだ」と近況を伝えている。このジャーナリストはクーデター以後、報道陣が治安当局の摘発の標的になっていることからいち早く地下に潜伏し、ジャーナリストとしての活動も極力控えているという。

★抵抗した軍の情報将校を殺害

 ミャンマー中部のマグウェ地方域の北部にあるポーク郡区では5月28日に軍の報道機関である「ミャワディ・ニュース」の情報通信部門の責任者で軍の情報将校(50歳)を地元のPDFが身柄を拘束して尋問しようとしたところ、ナイフで抵抗したため「やむなく射殺」したという。

 この情報将校は軍が支援する地元の民兵組織とも関係し、マグウェ地方域中部や北西部で軍と民兵組織が行った一般村落の放火、攻撃にも同行して案内役を務めていたほか、PDFに関する情報も軍に提供していた、とPDFはみて身柄を確保して尋問を実施しようとしていたという。

 軍は各地で武装抵抗を続けるPDFの掃討作戦を強化しており、PDFメンバーや支持者を拘束するために集落を一戸一戸しらみ潰しに捜索し、隠れている人をあぶり出すために民家を焼き尽くす「放火作戦」を進めている。このため一般市民の犠牲も増えている。

 南東部タニンダーリ地方域では5月24日までに4人の住民の斬首遺体が発見され、それ以前には軍が住民の乗ったトラックごと放火して子供を含む多くの住民が焼殺されるなど軍兵士による残虐行為も増加しているという。

 こうした人権侵害行為は国際的に報道されることも少なく、軍政に抵抗するミャンマー記者らによる独立系メディアが主に報じている。こうした記者は国外に逃れて報道を続けるか、当局の逮捕を恐れてミャンマー国内で潜伏するなどしてそれこそ命懸けの報道を続けている。

 PDFやこうした記者らからは「ウクライナのような軍事的支援、武器供与などの国際的支援が欲しい」と支援を求める声が高まっているものの「ウクライナは国家対国家の戦争、ミャンマーは軍と民主派勢力の内戦」とその違いを自覚しながらも国際的な注目と支援を求めて戦いを続けている。

写真)市内で軍事政権の治安部隊の動きを遅らせるために市民によって道路の真ん中でタイヤが放火された。2021年3月27日 ミャンマーヤンゴン

出典)Photo by Stringer/Getty Images

 




この記事を書いた人
大塚智彦フリージャーナリスト

1957年東京都生まれ、国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞入社、長野支局、防衛庁担当、ジャカルタ支局長を歴任。2000年から産経新聞でシンガポール支局長、防衛省担当などを経て、現在はフリーランス記者として東南アジアをテーマに取材活動中。東洋経済新報社「アジアの中の自衛隊」、小学館学術文庫「民主国家への道−−ジャカルタ報道2000日」など。


 

大塚智彦

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