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.国際  投稿日:2022/6/6

フランス、深刻な教師不足


Ulala(著述家)

フランスUlalaの視点」

【まとめ】

・フランスで深刻な教師不足が起きている。そのため必要な資格を下げての募集も。

・教師になるには修士レベルの資格を要するが、初任給は最低賃金の1.14倍にとどまる。仕事上のストレスも強い。

・若い人に教職を勧める教師は少数。授業が自習となるケースも多く、学力低下が問題となっている。

 

教師として採用されるための面接はたったの30分。フランスのベルサイユ教育区では、9月から始まる新年度に教師が不足することが心配されているため、2000人の非常勤教師採用にむけて4日間にわたって面接が行われた。これは、公立の学校としては初めてのことだ。

■ フランスで起きている深刻な教師不足

中等教育の教師になるためには、CAPES(中等教育資格認定・採用試験)という試験を受けなければいけないが、この試験を受ける対象者が、今年は、歴史的に激減しており9月からの新年度には教師不足になることが確実とされている。

特に、数学、ドイツ語の専門分野での教師の不足が目立つ。今年は数学に1035の空きポストがあるのに対して、候補者は816人しかいない(去年は候補者が1706人)。そして、ドイツ語では、215の空きポストに対して83人(去年は179人)。また、ラテン語などの分野では134の空きポストに対して60人、現代国語では、755の空きポストに対して720人。たとえ無条件に全員を採用したとしてもポストが埋まらない状況なのである。

フランスの教育行政は全国を分割した教育区を単位として行われているが、教師不足は特にパリとその周辺のイル・ド・フランスで深刻な状況となっている。

例えば、パリの教育区では、219人の教員募集に対して、180人しか応募者が集まっていない。クレテイユ教育区では1079人に対し521人、ベルサイユ教育区では1430人の枠に484人となっているのだ。

■ ベルサイユの教育区でジョブデーティング

そこで、教師不足の解消に向け、ベルサイユ教育区では非常勤者を採用するためのジョブデーティングと呼ばれる、4日間の面接期間を設けた。足を運べば面接が受けられるため、会場には朝から長蛇の列ができ、初日だけで1600人が面接に集まった。

集まった面接希望者のプロフィールは多岐にわたる。45%が高校卒業から5年の教育を受けたBAC+5という日本でいう修士の資格を持っており、25%が異業種からの候補者で研修を必要とする人材だ。また、卒業間近の大学生もいた。

中学校、および高校の正規の教師になるには、BAC+5の教育を受けたあと認定資格と採用試験に合格してから1年間の現場研修、小学校の教師の場合は、国家試験を受けてからIUFMという教師養成の機関で2年間の研修を受けることになるが、今回の非常勤枠の募集では、高校卒業後3年の教育を受けたBAC+3の資格があれば、どの分野でも応募できることになっている。

30分の面接を受けたあとに採用が決定した場合は、8月にトレーニングを受け、9月から教師として仕事を始めるが、最初の年は監督の教師が一人ついてアドバイスを受けながら授業をしていくことになる。

これに対して、急進左派「不屈のフランス」創設者のメランション氏は、「30分で採用を決めるなど、すべての教師にとって不快であるだけでなく、絶対的な愚かさだ」と批判した。十分な教育を受けていない教師を採用することで、フランスの教育のレベルの低下が心配されている。

▲写真 急進左派「不屈のフランス」創設者のメランション氏(2022年3月15日 仏・モンルージュ) 出典:Photo by Chesnot/Getty Images

■ 教師が不足する原因

しかしながら実際に教師が不足して確保できない場合はどうなるかと言えば、授業は「自習」となる。たとえ教師のレベルが十分でないとしても、実際は授業があるだけでもましなのも事実だ。

フランスでは、英語やスペイン語など、特に外国語を教える教師が各地で不足している。また、たとえ教師が確保できたとしても、その教師が病欠などで授業ができない場合、代わりの教師を探すことが困難だ。そのため授業が自習となる事態が頻繁に起こっているのだ。

そのような実情のなか、一年のうち3〜6か月自習になったということもよく聞く話だ。自習になればどうなるかといえば、もちろんその期間はきちんとした教育を受けることができず、確実に他のクラスや学校の生徒よりも学習量が少なくなる。その状況を避けるためには、教師がいないよりも非常勤の教師がいた方があきらかにましなのである。

しかし、なぜこれほどまでにフランスでは教師が不足しているのか。それにはさまざま原因があるが、一番の大きな問題は給料の低さである。

教師になるにはBAC+5の日本でいう修士をとらなければいけないのにもかかわらず、教師の初年度の給料は最低賃金の1.14倍にとどまっている。80年代には最低賃金の2.2倍〜3倍であったことを考えるとかなり低いことがわかる。修士卒であれば、一般の企業に勤めればより高い給料を得られるのだ。

また、学校に対する親からの教育に関する要求が強いのに加え、生徒の学習へのモチベーションも年々下がってきており、教師の仕事上のストレス度はかなり高いとされる。そんな状況で教師になることをすすめる教師自体が少なくなってきており、5月23日に発表された4万2836人の教師を対象にしたUnsa Education組合の調査では、若い人に教職をすすめる教師は22%にすぎないという結果がでている。だが、教師という職業が嫌いなわけではない。回答者の92%は教師という仕事が好きだと答えたという。しかしながら一方で29%は教師の使命に意味を見いだせず、38%は公的部門に、29%は民間部門に転職する準備ができているというのだ。

魅力を失いつつあるフランスの教師職。この教師不足の問題をどのように解消していくのか。生徒の学習レベルが低下していることも含め、教師の仕事をいかに魅力あるものに改善していくかは、現在のフランスが抱える大きな課題の一つとなっているといえるだろう。

 

<参考リンク>

Education : La crise du manque de candidats aux concours enseignants s’installe

『教育:教員採用試験の受験者不足の危機が迫っている』

https://nuage.unsa.org/index.php/s/JXkLp6egyjYGx3X

『Unsa Education組合』

Manque de professeurs : “On est quasiment dans un état d’urgence”, alerte le principal syndicat du secondaire

教員不足「ほぼ非常事態」、主な中高生組合が警告』

Job-dating d’enseignants : 30 minutes pour devenir prof ?

『教師のためのジョブデーティング:30分で教師になれる?』

“L’Oeil du 20h” : face à la pénurie d’enseignants, notre journaliste a été recrutée en quelques minutes via une annonce en ligne

『教師不足でジャーナリスト、オンライン応募で数分後に採用』

Pénurie de professeurs : l’académie de Versailles lance un job dating – Elle 『教師不足:ヴェルサイユのアカデミーが求職活動を開始 – Elle』

・『教員不足「子どもと関わる仕事がしたい」… ベルサイユのアカデミーでの就職活動が大成功を収める』

Pénurie d’enseignants : « J’ai envie de travailler avec les enfants »… Franc succès au job dating de l’académie de Versailles

・『教師募集のための「就職活動」:メランションは「絶対的な愚かさ」と』

Des « Job dating » pour recruter des professeurs : « une stupidité absolue », selon Mélenchon

・『エリック・アンソー:「教師不足:なぜ国の教育制度の状況は劇的なのか」』

Eric Anceau: «Pénurie d’enseignants: pourquoi la situation de l’Éducation nationale est dramatique»

トップ写真:生徒に数学を教える教師(2006年 パリ郊外) 出典:Photo by michel Setboun/Corbis via Getty Images




この記事を書いた人
Ulalaライター・ブロガー

日本では大手メーカーでエンジニアとして勤務後、フランスに渡り、パリでWEB関係でプログラマー、システム管理者として勤務。現在は二人の子育ての傍ら、ブログの運営、著述家として活動中。ほとんど日本人がいない町で、フランス人社会にどっぷり入って生活している体験をふまえたフランスの生活、子育て、教育に関することを中心に書いてます。

Ulala

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