無料会員募集中
.国際  投稿日:2022/7/6

干ばつ・コロナ拡散・水害、北朝鮮の食料生産に「赤信号」


朴斗鎮(コリア国際研究所所長)

【まとめ】

50年ぶりの春干ばつに加え、早い梅雨に到来で北朝鮮の食料生産はさらに悪化すると見られる。

・コロナ大流行による労働者不足と遅くなった田植えに早い梅雨が重なり状況は深刻。

・7月になり、大雨と台風が重なれば北朝鮮の全般的な食糧事情がさらに悪化するだろう。

 

朝鮮中央テレビは6月30日に6月26日0時から30日21時までの各道別降水量を発表した。降雨量が最も多かったのは平安南道で355 mmを記録し、平壌市はまたもや水浸しとなった。また穀倉地帯の黄海北道でも沙里院(サリウォン)市が集中豪雨に見舞われ、多くの水田が泥水に浸った。春の干ばつに続き、梅雨の早まりでの豪雨にも見舞われた北朝鮮の農業はいま赤信号が灯っている。

新型コロナウイルス拡散阻止の封鎖政策強化による動員力不足が田植えの遅れをもたらしていたが、そこに早い梅雨の大雨が追い打ちをかけたことで、稲の根付きと作物の育成に悪影響を及ぼしている。50年ぶりの春干ばつで初夏の雨が歓迎されたのも束の間、早い梅雨の到来で北朝鮮の食料生産はさらに悪化すると見られている。

 遅れた田植えと早まった梅雨で農業生産に非常事態

北朝鮮では、昨年の冬から今年の春にかけて続いた干ばつと、4月末からの新型コロナウイルスの大流行で、5月10日頃に完了しなければならない田植えが遅れ、今年の作柄に悪影響が及ぶと憂慮されていた。

稲や作物も人と同じで初期の生育がとても重要だ。しかし初期に健康で丈夫に育ったとしても大雨に見舞われたり台風に見舞われると収穫量は減少する。ところが今年の北朝鮮では初期の生育が悪い状態で早い梅雨と大雨が来てしまった。

田植えの遅れについては、衛星写真分析の専門家であるチョン・ソンハク氏(韓国慶北大学国土衛星情報研究所副所長)が、大雨が来る前(6月12日基準)の衛星写真で、北朝鮮の苗の植え付け状況を観察し、「昨年よりも平均6~8%遅れており、田植えは6月10日までに80%程度しか終わっておらず、地域によって多少の違いがあるようだが、遅い地域では60%も終わっていないようだ」と語った。その主な要因として農村支援の動員力不足をあげ、「5月20日から25日までに必要な田植え労力の50%も動員できなかった」と分析した。

チョン・ソンハク氏はさらに「時期を逸して遅く植えられた苗が大雨のために水が溢れて苗が浮かぶ状況となっている。そこに北朝鮮の森林荒廃による土砂が流れ込み生育に大きな被害を与えているようだ」と説明した。

その深刻さについて「稲が泥水に浸っている状態が続くと、水の汚れで稲の気孔が塞がれてしまう。 これが被害を大きくする。 通常、梅雨の雨は稲の汚れを洗い流してくれるのだが今年は逆だ。大雨と泥水が流入して深刻な影響を与えている」と指摘した(自由アジア放送)。

脱北者出身の農業専門家チョ・チョンヒ氏も次のように語った。

 「通常北朝鮮では7月上旬から815日までが梅雨の時期なのに今年は15日ほど早く梅雨が訪れた。 その結果、全般的な作物栽培に悪い影響を及ぼしている。コロナ大流行で人員動員が難しくなり、遅くなった田植えに早い梅雨が重なり状況は深刻だ」(自由アジア放送)。

 今後も予測される北朝鮮の天候不順

米国の民間気象情報会社である「アキュウェザー」のジェイソン・ニコルス先任気象学者は6月28日、北朝鮮の今年6月の降雨量は2018年以来5年ぶりに最高値を記録したと説明し、平壌では平年の約5倍程度の雨が降ったと指摘した。そして今後も朝鮮半島では大雨が続くと予想した。

彼は「7月になり、西太平洋に台風時期が近づいている。 この台風の流れを注意深く観察しなければならない。 おそらく7月は6月より全体的に乾燥すると思われるが、降雨量は平年よりやや多いと思われる。今の所7月上旬に大雨が降りそうではないが、依然として大雨が続く可能性はある。 おそらく7月後半に今回のような大雨がもう一度降るだろう」と語った(自由アジア放送)。

チョン副所長も「今年、北朝鮮の穀倉地帯である黄海北道と南道、そして平壌近隣地域で田植えが順調でなかった。そこに大雨と台風が重なると北朝鮮の全般的な食糧事情がさらに悪化するだろう」と懸念した。

干ばつに続き例年より早く訪れた今夏の梅雨、そしてコロナウイルス封鎖対策による労働力不足、北朝鮮の農民たちの苦悩は一層深まっている。「人民愛」を叫ぶ金正恩総書記のコロナウイルス非常対策は次々と裏目に出ているようだ。

トップ写真:北朝鮮の咸興でトウモロコシを収穫する農民ら(2012年9月11日 北朝鮮・咸鏡南省) 出典:Photo by Eric Lafforgue / Art In All Of Us / Corbis via Getty Images




この記事を書いた人
朴斗鎮コリア国際研究所 所長

1941年大阪市生まれ。1966年朝鮮大学校政治経済学部卒業。朝鮮問題研究所所員を経て1968年より1975年まで朝鮮大学校政治経済学部教員。その後(株)ソフトバンクを経て、経営コンサルタントとなり、2006年から現職。デイリーNK顧問。朝鮮半島問題、在日朝鮮人問題を研究。テレビ、新聞、雑誌で言論活動。著書に『揺れる北朝鮮 金正恩のゆくえ』(花伝社)、「金正恩ー恐怖と不条理の統治構造ー」(新潮社)など。

朴斗鎮

copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."