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.国際  投稿日:2022/7/13

韓米、北朝鮮の挑発に即応体制


朴斗鎮(コリア国際研究所所長)

【まとめ】

尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は全軍主要指揮官会議で「北朝鮮が挑発すれば迅速かつ断固として対応せよ」と指示した。

75日、米空軍の最新鋭ステルス戦闘機F35Aがおよそ5年ぶりに韓半島に展開した。

・文在寅政権が崩壊させた「北朝鮮首脳部斬首作戦」の再構築にも力を注いでいると見られる。

 

北朝鮮の金正恩総書記が、朝鮮労働党中央委員会第8期第5回総会で「韓国と米国に対する核兵器の先制使用」を匂わせ、それを6月21日からの党中央軍事委員会第8期第3回拡大会議(~23日)で具体化したことで、米韓の北朝鮮に対する抑止態勢と米韓軍事協力が新たな次元で速度を上げている。

1、尹大統領、「北朝鮮の挑発時、迅速かつ断固として対応せよ」

尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は7月6日、陸・海・空軍3軍の本部がある忠清南道鶏龍台(チュンチョンナムド・ケリョンデ)で全軍主要指揮官会議を主宰し「北朝鮮が挑発すれば迅速かつ断固として対応せよ」と指示し、「どのような代償を支払ってでも、国民の生命と財産、領土と主権を守ることが軍の使命であり、このために我々の意志を断固として見せなければならない」と話した。

尹大統領はまた「北朝鮮の核とミサイル使用を抑制し、挑発の可能性を低くすることができるように『韓国型3軸体系』など強力な対応能力を確保してほしい」と注文し、人工知能(AI)を基盤とした科学技術強軍の育成にもまい進してほしいと述べた。

注 *『韓国型3軸体系』とは、1軸が北朝鮮の核・ミサイル発射の兆候を探知し、先制攻撃する「キルチェーン」(Kill Chain)、2軸が韓国型ミサイル防衛システム(KAMD)、3軸が核・ミサイル攻撃を受けた後の「大量反撃報復」(KMPR)の体系。

尹大統領は「戦って勝つことができる国防態勢の確立」のために「国防予算を拡充し、法令と制度を整備するだけでなく、韓国社会で制服を着た勇士を尊重する風土が造成されるようにする」と述べ、「常に軍を信頼する軍指揮体系を確立し、作戦現場指揮官の指揮権を十分に保障する。我が政府は軍指揮体系に対して不必要な干渉はしない」と約束した。

2、米ステルス戦闘機F35A5年ぶりに朝鮮半島に展開

一方、米国も同盟に基づく韓国に対する拡大抑止を明言し、これまでにない即応体制の構築を進めている。7月5日、米空軍の最新鋭ステルス戦闘機F35Aがおよそ5年ぶりに韓半島(朝鮮半島)に展開した。

今回米本土から韓国にやって来たF35Aは6機で、5日から10日間の日程で韓国空軍と連合飛行訓練を実施する。米アラスカ州アイルソン空軍基地に駐屯していたF35Aステルス戦闘爆撃機編隊を韓国に事実上臨時配備した形で、北朝鮮に対する警告のレベルを最大限高めたといえる。F35Aは最高速度マッハ1.8(音速の1.8倍)、航続距離2200キロで最大8トン以上の各種ミサイルや精密誘導弾などを搭載でき、北朝鮮の金正恩総書記が最も恐れる戦力とされている。

▲写真 米国のF-35A戦闘機、忠州空軍基地(2019年3月29日韓国、忠州) 出典:Photo by South Korea Defense Acquisition Program Administration via Getty Images

米国がF35Aの韓半島上空での展開を公表するのは、北朝鮮が2017年9月3日に6回目の核実験を行い、同年11月29日にICBM(火星15型)発射を行った直後の韓米連合空中訓練「ビジラント・エース」(2017年12月4日-8日)以来約4年7カ月ぶりだ。当時F35Aや長距離爆撃機B1Bなど韓米の各種軍用機230機以上が訓練に参加し、開戦直前の様相を呈した。

7月5日に韓国にやって来たF35A編隊は、米空軍群山基地に配備され、韓国空軍戦闘機F35AやF15Kなどと連合訓練を行っている。韓国と米国がF35Aの連合訓練を行うのは今回が初めてだ。在韓米軍司令部もこの日のプレスリリースで「米空軍戦力は韓国滞在中に韓国空軍のF35Aを含む韓米のさまざまな航空機と飛行訓練を行うだろう」と説明した。

3、韓米特殊部隊、米本土で連合訓練

米韓軍はこうした合同軍事訓練を行うだけでなく、米カリフォルニア州フォートアーウィン基地内の「ナショナル訓練センター(NTC)」で米韓特殊部隊による共同訓練も行っている。7月9日、韓国陸軍は「米現地連合所の部隊訓練」が6月14日から7月9日まで行われたと明かした。

今回の訓練には陸軍特殊戦司令部所属将兵約70人を含む韓国軍100人と米陸軍第1装甲旅団および第1特戦団将兵など5000人余りが参加し、都市地域戦闘、航空火力誘導、主要施設打撃、特殊作戦などの実機動・実射訓練が行われた。

この合同訓練は、韓米間の相互運用性を高めるために去る2020年から定期的に実施、2020年には韓国陸軍第17歩兵師団隷下部隊将兵50人が、2021年には第1軍団および首都軍団隷下部隊将兵150人がそれぞれ参加した。しかし「一般歩兵ではなく、特殊部隊が訓練に参加したのは今回が初めて」と韓国軍関係者は説明した。

駐韓米軍特殊戦司令官マイケル・マーチン少将は7月6日の朝鮮日報とのインタビューで「今回の訓練では、韓国の防衛態勢を構築する作戦訓練に専念した」と語ったが、アップグレードされたアパッチヘリを韓国に初めて常駐させたことや、無人偵察・攻撃機「MQ1Cグレイ・イーグル」を配置していることから見て、即応態勢構築だけではなく文在寅政権が崩壊させた「北朝鮮首脳部斬首作戦」の再構築にも力を注いでいる見られる。北朝鮮はこうした動きに反発してか、7月10日にはまたもやロケット砲を発射し米韓を挑発した。

トップ写真:韓国東海岸で行われた米国と韓国の共同軍事訓練中にミサイルが発射された。(2022年6月6日、韓国) 出典:Photo by South Korean Defense Ministry/Dong-A Daily via Getty Images




この記事を書いた人
朴斗鎮コリア国際研究所 所長

1941年大阪市生まれ。1966年朝鮮大学校政治経済学部卒業。朝鮮問題研究所所員を経て1968年より1975年まで朝鮮大学校政治経済学部教員。その後(株)ソフトバンクを経て、経営コンサルタントとなり、2006年から現職。デイリーNK顧問。朝鮮半島問題、在日朝鮮人問題を研究。テレビ、新聞、雑誌で言論活動。著書に『揺れる北朝鮮 金正恩のゆくえ』(花伝社)、「金正恩ー恐怖と不条理の統治構造ー」(新潮社)など。

朴斗鎮

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