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.国際  投稿日:2023/4/23

尹錫悦政権が乗り越えなければならない壁(上)韓米首脳会談での新たな核抑止戦略導出


朴斗鎮(コリア国際研究所所長)

【まとめ】

・訪米する尹錫悦政権に越えなければならない3つの壁。

・①北の核に対する韓米核抑止の枠組み②国内従北勢力の克服③経済浮揚、対日関係改善の3つ。

・米韓首脳会談で核心となるのは、NATO並みの「韓米核の共有」。

 

ロシアのウクライナ侵攻や中国の台湾侵攻の可能性などにより、北東アジアの安保状況は急変している。韓半島(朝鮮半島)でも、この情勢を利用した北朝鮮の金正恩政権による韓国、米国に対する挑発が強まっている。

こうした情勢下で、いま尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権の前には越えなければならない大きな三つの壁が立ちはだかっている。

すなわち、北朝鮮の核に対する韓米核抑止の新たな枠組みの導出、国内の従北朝鮮勢力の克服と経済の浮揚、そして日本との関係改善だ。

この三つの課題を突破しない限り、来年の総選挙における圧倒的勝利は望めず、それはそのまま尹政権の不安定化と東アジア安保情勢の不安定につながる。

1、韓米首脳会談での新たな核抑止戦略導出の壁

韓国の尹錫悦大統領は、4月24~30日の予定で国賓として訪米する。韓国大統領の国賓訪米は2011年、当時の李明博(イ・ミョンバク)大統領以来となる。

■ 尹大統領国賓訪問の概要

4月26日には米国との同盟強化のための「韓米首脳会談」に臨み、27日には米上下両院合同会議で演説する。

訪米には、サムスンとLG、現代自動車、SKの4大グループのトップを含む122社・団体の代表が同行し、半導体など先端技術分野での経済協力や輸出、投資の拡大を目指す。

大統領室の金泰孝(キム・テヒョ)国家安保室第1次長は「70年間蓄積された韓米同盟の成果を祝い、未来の同盟発展の方向について踏み込んだ意見交換を行う」と述べた。

金氏は「米側は首脳会談前日の25日午後、尹大統領夫妻とバイデン大統領夫妻による親交の時間を準備していると伝えてきた」と明らかにした。ホワイトハウスはこの日、両首脳がワシントンにある朝鮮戦争戦没者慰霊碑を訪れると発表した。

尹大統領は27日午後にボストンに移動し、28日にマサチューセッツ工科大学(MIT)でデジタル・バイオ分野の専門家らと対談。ハーバード大を訪問し、ケネディスクールで演説する。

◾️ 韓米首脳会談での核心議題はNATO並みの「核共有

米国への国賓訪問で尹大統領はまず、70周年を迎えた強固な韓米同盟を対外的にアピールする。韓米同盟を浮き彫りにする行事としては、韓米首脳夫妻同伴での韓国戦記念碑訪問(現地時間25日)、米軍首脳部の情勢ブリーフィング(27日)、ハーバード大での講演(28日)などが計画されている。

バイデン大統領との首脳会談はホワイトハウスで26日に行う。首脳会談では、米国の「核の傘」戦力で北朝鮮から韓国を守る拡大抑止の強化が焦点になる。

米韓はこれまでも米軍の戦略爆撃機、空母の朝鮮半島展開や合同軍事演習の規模拡大に取り組んできたが、最近の北朝鮮の核戦力強化を受け、尹政権は米国の拡大抑止のレベルアップとしてNATO並みの「核の共有」を求めるものと思われる。

NATO式の核共有とは、欧州5カ国の米軍基地6カ所に配備された戦術核をNATO27カ国の国防相(フランス除く)が核計画グループ(NPG)を通じて運用案を協議する構造だ。

この拡大抑止強化には、北朝鮮対応での情報共有強化やサイバー、宇宙領域での安全保障協力も含まれる。この分野では日本との連携を図る論議が行われる可能性もある。

また、両首脳は、中国が圧力を強める台湾情勢やロシアから侵攻されたウクライナへの支援策も議論するとみられる。

会談ではこのほか、サプライチェーン(供給網)の安定化といった経済安全保障分野も議論するとみられる。両国の企業・機関間で数十件の了解覚書(MOU)締結も進めている。これに関連し尹大統領は25日、最初の訪問地のワシントンで投資申告式および韓米ビジネスラウンドテーブル、韓米先端産業フォーラム、米航空宇宙局(NASA)ゴダード宇宙飛行センター訪問と映像コンテンツリーダーシップフォーラムを消化する予定だ。 

今回の首脳会談で核心となるのは、一にも二にもNATO並みの「韓米核の共有」だ。この問題で尹大統領がこれといった成果を持ち帰れなければ、尹政権の先行きは楽観できなくなる。

(下に続く)

トップ写真:韓国国立中央博物館での国家晩餐会でのバイデン米大統領と韓国のユン・ソクヨル大統領(2022年5月21日 韓国・ソウル)出典:Photo by Lee Jin-Man – Pool/Getty Images




この記事を書いた人
朴斗鎮コリア国際研究所 所長

1941年大阪市生まれ。1966年朝鮮大学校政治経済学部卒業。朝鮮問題研究所所員を経て1968年より1975年まで朝鮮大学校政治経済学部教員。その後(株)ソフトバンクを経て、経営コンサルタントとなり、2006年から現職。デイリーNK顧問。朝鮮半島問題、在日朝鮮人問題を研究。テレビ、新聞、雑誌で言論活動。著書に『揺れる北朝鮮 金正恩のゆくえ』(花伝社)、「金正恩ー恐怖と不条理の統治構造ー」(新潮社)など。

朴斗鎮

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