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.国際  投稿日:2022/8/20

韓国人に叱られた話 戦争と歴史問題について その5


林信吾(作家・ジャーナリスト)

林信吾の「西方見聞録

【まとめ】

・日本の政治状況について、世襲議員の多さと統一教会に対する対応の甘さを指摘され、旧知の韓国人ジャーナリストに叱られた。

統一教会と自民党との関係が取り沙汰されているが、関連団体の中には国際勝共連合という極右団体もある。

・岸田首相は、統一教会について、最低限、臨時国会を開催して説明責任を果たさねばならない。

 

日本の8月は敗戦の記憶とともにあるわけだが、日本によって植民地支配を受けていた朝鮮半島においては、その支配から解放された日を祝う行事がある。

韓国では光復節(クァンボクチョル)、北朝鮮では解放記念日と呼ばれる日がそれで、いずれも8月15日だ。

「それともうひとつ、3月1日の独立運動記念日が、日帝時代とのからみで言いますと、大きなイベントですかね」

そう教えてくれたのは、旧知の韓国人ジャーナリストだ。

本連載をずっと読んでくださっている読者には、誰のことだか容易に想像がつくこととは思うが、そ今次は匿名とさせていただく。理由はもう少し後で述べる。

話を戻して1919年3月1日、当時は京城と呼ばれていたソウル市内で、キリスト教などの宗教指導者33名が「独立宣言」を読み上げた。後に「民族代表33人」と呼ばれる彼らは全員逮捕されたが、この行動を支持する学生らのデモはたちまち全国に広まった。

そしてデモの一部が暴動化し、駐在所が襲撃されるなどの事態が起きたことを受け、朝鮮総督府は警察・軍隊を動員して武力鎮圧に出た。当時の警察の集計によれば、およそ49万人が「暴動」に参加し、死者367名、負傷者802名とされていたが、今ではこれは「軽微なる問題」であると強調するための過小な数字だというのが定説になっている。韓国の研究者の間では、死傷者7500名以上と見る向きが多い。逮捕・起訴された者に関しては裁判記録が残っているが、全部で2万2275名が有罪判決(最高で懲役15年、最低で3ヶ月)を受けている。

独立という目標は達成できなかったが、日本の国内世論にまで影響を与えた結果、それまでの「憲兵支配」から、より穏健な統治へと転換させる効果はあった。現在の韓国政府も三・一(サミル)=独立運動の精神を受け継ぐとして、国民の祝日と定めている。

ただし、北の共産主義者に言わせると、この運動の背景は、時のウィルソン米大統領がとなえた「民族自決」に過剰な期待をかけたものに過ぎず、

「物乞いを独立運動と言い張る、ブルジョア的どんちゃん騒ぎ」

ということになるようだ。偉大なキム・イルソン(金日成)将軍が率いた抗日日パルチザン」だけが独立に寄与したのだと言いたいのだろう。

話を光復節に戻して、今年も大統領演説が行われ、

「日本との関係改善」

が強調されたが、くだんの韓国人ジャーナリストに言わせれば、

「今年のソウルは、それどころの騒ぎではありませんよ」

という状況であったらしい。日本でも報じられたが、100年ぶりという集中豪雨に見舞われ、多くの住居が浸水被害を受けた。とりわけパラサイトという映画を通じて日本でも知られるようになった、低所得層が多く生活する反地下式の住居では、逃げ遅れて亡くなった人まで出たのである。

▲写真 集中豪雨により浸水した市場で、残された土砂を処理する人々(2022年8月9日ソウル) 出典:Photo by Chung Sung-Jun/Getty Images

「適切な避難指示を出さなかったとして、大統領はもう、非難囂々。支持率は今や20%くらいですよ。まあ、投票した国民に最大の責任があるのですけどね」

というのが彼の意見だ。そして日本の政治に対しても、

「岸田首相にしても、統一教会について、今後は関わらなければよい、なんて、国民をバカにしているのではないでしょうか」 

と手厳しい。もともと彼は日本の政治状況、とりわけ世襲議員があまりに多いことに厳しい目を向けていて、

「僕が将来、もしも韓国の大統領になったら、在日の政治参加について日本政府と積極的に意見交換したいと思いますが、僕自身は日本の選挙権なんて、たいして欲しくありません」

と語ったことまである。

韓国でも「選挙地盤」のようなものはあるが、世襲には厳しい目が向けられているそうで、キム・デジュン(金大中)元大統領の子息が、父親の地盤を継いで選挙に出ようとしたところ、地元有権者からヒンシュクを買ってあきらめたと聞いた。

世襲議員の問題については、おっしゃる通り、と引き下がらざるを得ないが(世襲だから駄目だ、と決めつけたものでもないだろうけれど)、統一教会の問題に関しては、信仰の自由まで奪うわけには行かないので、なかなか難しい、という意見を述べた。詳細は「宗教と資金活動について」という記事に書かせていただいたので、できればご参照願いたい。

ところが彼は、私の言葉を聞くなり、怒気をはらんだ声でこう返してきたのである。

「林さん、そんな風に、丸く収めようとする書き方は、よくないですよ。あの教団は絶対につぶさないと駄目です」

私は、事を丸く収めようなどとは思っていないし、間違ったことを書いたつもりもないが(くどいようだが、記事を参照していただきたい)、彼の気持ちもよく分かる。

安倍元首相が射殺された事件を機に、統一教会と自民党との関係が取り沙汰されるようになったわけだが、彼も各界を取材し、韓国にも情報を送っている。

今回に限って匿名で登場願った理由についても、これでお分かりいただけるだろう。関連団体の中には、国際勝共連合という極右団体もある。安倍元首相が祖父(岸信介)の代から親密にしていたと称されるのは、もとはと言えばこちらの団体の方だ。

これについても当の韓国人ジャーナリストに言わせると、こうなる。

「最初は、あれ、この漢字、日本風にどう読むんだっけ、なんて思ってしまいましたよ。韓国語風に読むとスンゴン(勝共)ですけれど、共産主義者に勝つぞ、という意味でしょう。冷戦が終わってから30年も経つというのに、日本の政治家の頭の中では、時計が止まっているのでしょうか」

彼は私より少し若いが、それでも軍事政権時代の韓国で初等教育を受けている。その当時、具体的には1960年代だが、小学校の教科書に載っていた北朝鮮兵のイラストなど、顔は狼で目は真っ赤であったとか。こんな恐ろしい連中なのだ、ということを小学生にすり込もうとしていたわけだ。

「今は、だいぶ変わってきてますよ。色々な国の援助があったおかげで、経済発展もあり得たのだと、結構公平に教えています。昔も今も反日教育をやっているというのは、それこそ日本の右翼が流したデマですね」

韓国内における統一教会の組織も、軍事政権の時代には一定の勢力を持っていたが、民主化が進むにつれて、次第に相手にされなくなって行った。資金の大半が日本で集められているというのは、根拠のある話なのだ。最近では、韓国内で「宗教弾圧」に抗議する集会が開かれているが、これも参加者の大半は日本人信者であると聞く。

彼がとりわけ義憤にかられたのは、合同結婚式に参加した夫婦から生まれた「祝福2世」の若者たちから聞かされた話で、ある若者は、6人きょうだいだが一緒に育ったのは3人、と語ったそうだ。

あとの3人は、子供のいない信者のところに養子に出されたとか。

▲写真 世界平和統一家庭連合協会が催す合同結婚式に参加する数千組のカップル(2020年2月7日韓国・加平群) 出典:Photo by Woohae Cho/Getty Images

「子供が何人いようと、一人でも迷子になったら、死ぬ思いで探し回るのが親子の情というものでしょう。それを、なんですか。次の世代の信者を増やすために養子に出すって……」

そう言われてみれば、両親は信仰の自由を謳歌できても、親を選ぶわけには行かない子供の立場はどうなるのか、という問題は残る。

安倍元首相を射殺した山上容疑者の母親にせよ、当初は遺族や世間ではなく「教団に迷惑をかけた」などと語ったが、15日までには、近く謝罪会見を開く意向を明らかにしている。これとて教団の差し金である可能性は否定できないが。

岸田首相も、今後は関係を持たなければ、などとお茶を濁して済むと思ったら大きな間違いで、最低限、臨時国会を開催して説明責任を果たさねばならない。

敗戦の記憶と併せて「冷戦の遺物」についても、きちんと見直す必要がある。

トップ写真:独立運動記念日を祝う文在寅前大統領とその妻(2021年3月1日ソウル)出典:Photo by Jeon Heon-Kyun – Pool/Getty Images




この記事を書いた人
林信吾作家・ジャーナリスト

1958年東京生まれ。神奈川大学中退。1983年より10年間、英国ロンドン在住。現地発行週刊日本語新聞の編集・発行に携わる。また『地球の歩き方・ロンドン編』の企画・執筆の中心となる。帰国後はフリーで活躍を続け、著書50冊以上。ヨーロッパ事情から政治・軍事・歴史・サッカーまで、引き出しの多さで知られる。少林寺拳法5段。

林信吾

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