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.国際  投稿日:2022/8/24

韓国検察、文在寅政権の犯罪を本格捜査


 

朴斗鎮(コリア国際研究所所長)

 

【まとめ】

・尹錫悦政権発足から3カ月余りで、文在寅前政権の大統領府・安保ラインの中心人物のほとんどが検察捜査を受ける状況となった。

・北朝鮮軍による韓国公務員射殺事件、月城原発1号機早期閉鎖のための経済性ねつ造、脱北漁民強制送還事件などの捜査が進んでいる。

・3つの事件とも捜査の最終目標は文在寅前大統領逮捕であり、韓国大統領の悲劇的末路が再び繰り返される可能性が高い。

 

 韓国ソウル中央地検公共捜査1部は、西海(黄海)での北朝鮮軍による「韓国海洋水産部公務員殺害真相隠ぺい」疑惑を捜査するために8月16日、朴智元(パク・チウォン)元国家情報院長、徐薫(ソ・フン)元青瓦台国家安保室長、徐旭(ソ・ウク)元国防部長官の自宅と事務室など約10カ所を強制捜索した。

 韓国検察は続けて8月19日に世宗市の大統領記録館に家宅捜索に入り、午前中は文在寅前政権による「月城(ウォルソン)原発1号機早期閉鎖のための経済性ねつ造」捜査、午後には「北朝鮮脱北漁民強制送還」事件の捜査を行った。捜査チームは22日から、原発早期閉鎖に関する記録物の確認手続きに本格的に着手する。また「北朝鮮脱北漁民強制送還」に対しても、事件関係者の弁護人立ち会いのもと、大統領府国家安保室などから移管された資料を確認する予定だ。

尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権発足から3カ月余りで文在寅前政権の大統領府・安保ラインの中心人物のほとんどが検察捜査を受ける状況となったが、捜査の最終目標は文在寅逮捕にあると見られる。

 

■ 北朝鮮軍による韓国公務員射殺事件

韓国検察は、今回の強制捜査に先立つ8月16日、北朝鮮兵による黄海(西海)での韓国海洋水産部公務員銃殺事件と関連し、国防部隷下部隊と海洋警察庁、前国家情報院長朴智元氏の自宅など約10カ所を同時に家宅捜索を行った。このため鄭義溶(チョン・ウィヨン)元安保室長(前外相)、徐薫元国家情報院長(前安保室長)、金錬鉄(キム・ヨンチョル)元統一部長官などの召喚調査も近づいているという。検察は押収した当時の捜査資料などを分析し、文在寅前政権や大統領府による介入有無を調べる方針だ。

 2020年9月に起こったこの事件では、海洋水産部公務員が射殺されてから1週間後に海洋警察庁が中間捜査の結果を発表し、自らの意思で北朝鮮に渡ったと判断されると明らかにしていた。その根拠として、軍当局が北朝鮮の通信を傍受した内容や専門機関が分析した海上漂流予測結果とともにギャンブルによる借金があったことを挙げた。

 だが、海洋警察庁はそれから1年9カ月後の今年6月に記者会見を開き、海洋水産部公務員が自ら越境したと断定できる根拠は見つからなかったとして中間捜査の結果を覆している。

写真)ソウルの大統領府で就任100日を記念して演説を行った尹錫悦大統領

(2022.8.17)

出典)Photo by Chung Sung-Jun/Getty Images

 

■ 月城原発1号機早期閉鎖のための経済性ねつ造

19日午前に行われた「月城原発1号機早期閉鎖の経済性ねつ造」容疑家宅捜査は、この事件を捜査中の大田(テジョン)地検刑事4部(金泰勲=キム・テフン=部長検事)が行った。この捜査では、当時文在寅政権が月城原発を早期閉鎖する過程でどのような意思決定を下し、この過程に違法な点がなかったかどうか、誰が決定したかを明らかにすることに焦点を合わせている。

この疑惑の発端は、2018年4月2日に文美玉(ムン・ミオク)元大統領府科学技術補佐官が「月城1号機外壁の鉄筋が露出しているので整備期間を延長する」という趣旨の報告書を大統領府内部システムに載せたところ、文大統領が当日「月城1号機の永久稼働中断はいつ決定するのか」と督促したことにある。これを受け大統領府産業政策秘書官室は、原発早期閉鎖を産業通商資源部長官に指示、それに基づいて産業通商資源部が経済性ねつ造文書を作成し「即時中断」を韓国水力原子力発電会社に指示した。

この問題に関係した産業通商資源部職員はすでに逮捕され裁判中であるが、検察は今回の家宅捜索を通じて、この疑惑の中心にある任鍾晳(イム・ジョンソク)元大統領秘書室長、金秀顕(キム・スヒョン)元社会首席秘書官、文美玉元科学技術補佐官、朴原住(パク・ウォンジュ)元経済首席秘書官が意思決定に関与したかなどを捜査するとみられる。当然文大統領にも捜査が及ぶ可能性がある。

 

■ 脱北漁民強制送還事件

19日午後に家宅捜査に入った「脱北漁民強制送還事件」は、ソウル中央地検公共捜査3部(李俊範=イ・ジュンボム〉部長検事)が担当し捜査を進めている。

 韓国検察は、2019年11月に当時の国家情報院(国情院)などが脱北漁民2人の合同調査を法的根拠なく早期に終了させ、亡命の意思があったにもかかわらず北朝鮮へ強制送還した疑いがあるとして捜査している。

 韓国検察は7月13日、国情院を家宅捜索して関連資料を確保し、最近国情院職員の事情聴取で「漁民たちに対する合同調査が進んでいる途中、強制送還の指示が突然下されて戸惑った」という趣旨の供述を確保したといわれている。

この事件では、大統領府が脱北民を拿捕する前からあらかじめ重大犯罪脱北者追放事例を国家情報院に問い合わせていため、「すでに北への送還との結論を出しておいて(状況を)合わせたのでは」という疑惑がある。さらに拿捕2日後の2019年11月4日に盧元秘書室長が開いた会議で北送方針が決定され、北送当日の7日には大統領府が法務部に北送に関する法理検討を要請し、「法的根拠がない」という判断まで受けたという状況が確認されている。

強制送還から約1週間後の2019年11月15日の国会外交統一委員会の緊急懸案報告では、千正培(チョン・ジョンベ)元議員の「今回の脱北住民の送還処分を誰がしたのか」という質問に対し、金錬鉄(キム・ヨンチョル)元統一部長官が「コントロールタワーは(大統領府)安保室」と答えた。

今回の家宅捜索を通じて当時の大統領府の意思決定プロセスが記録された文書を選別・閲覧し、これを通じて盧英敏(ノ・ヨンミン)元大統領府秘書室長、鄭義溶元国家安保室長をはじめ、金有根(キム・ユグン)元国家安保室第1次長、金鉉宗(キム・ヒョンジョン)第2次長ら文在寅政権の核心関係者らが北朝鮮強制送還を主導したかどうかを確認するものと思われる。これら大統領府関係者の主な容疑は刑法上の職権乱用などだ。北朝鮮住民は憲法第3条などに基づく韓国国民だが、彼らの意思に反して北朝鮮に送還したのは職権乱用に該当するという内容だ。

 

■ 捜査の最終目標は文在寅前大統領の逮捕

 検察の捜査方向と告発内容を見ると、3つの事件とも捜査の最終目標は文在寅前大統領逮捕に向かっている。文前大統領の秘書室長3人を含め、30人近い人物が告発され、主要人物はすでに家宅捜索など強制捜査を受けている。韓国大統領の悲劇的末路が再び繰り返される可能性が高くなってきた。

 

トップ写真:第103回独立運動記念日の式典で講演した文在寅大統領

(2022.3.1)

出典:Photo by Jeon Heon-Kyun – Pool/Getty Images

 




この記事を書いた人
朴斗鎮コリア国際研究所 所長

1941年大阪市生まれ。1966年朝鮮大学校政治経済学部卒業。朝鮮問題研究所所員を経て1968年より1975年まで朝鮮大学校政治経済学部教員。その後(株)ソフトバンクを経て、経営コンサルタントとなり、2006年から現職。デイリーNK顧問。朝鮮半島問題、在日朝鮮人問題を研究。テレビ、新聞、雑誌で言論活動。著書に『揺れる北朝鮮 金正恩のゆくえ』(花伝社)、「金正恩ー恐怖と不条理の統治構造ー」(新潮社)など。

朴斗鎮

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