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.国際  投稿日:2022/9/5

フランス バスの運転手不足


Ulala(著述家)

フランスUlalaの視点」

 

【まとめ】

・フランス全土でバス運転手約4000人弱が不足し、新学期に通学バスを運行できない自治体があった。

・コロナ禍の影響を受けやすく、低賃金・厳しい労働環境の職種は、人材が流出し、コロナ収束後も元の職には戻らず。

・人手不足は他の欧米諸国も同じだが、同時に失業率が高いことがフランスの特徴。労働条件の良し悪しが鍵。

 

9月1日と言えば新年度がはじまり、意気揚々意気揚々とした子供たちが学校に行く日でもあるが、フランスの今年の9月1日は、学校に行く子供たちが乗るバスを出せない自治体がでてきた。というのも、現在、フランス全土で約4000人弱のバスの運転手が不足しており、学校に行くために必要なバスが運休の危機に陥ったからである。

中には子供たちを学校に行かせるために軍へ助けを求めた町まであったものの、軍側もこの要請に対応するための資格を持った人員がおらず、結局、その町は、新学年の当日になっても解決策は見つけられぬままとなった。

 

バスの運転手不足で子供たちが学校に行けない危機

フランスは、特に地方に小さい村などが点在している。そのため、歩いていくには遠すぎる距離にある中学校や高校などに通う子供たちも多いため、各市町村では学校に通うためのバス路線が必ず用意されている。おかげで、基本的には子供たちは親の送り迎えなしに学校に通えるようになっている。だが、バスが用意されているのにもかかわらず、そのバスを運転する運転手が見つからないのだ。

今、こういった問題がフランス各地で起こっている。フランス南東部のイゼール県のルシヨンでも、バスの運転手不足で3路線が運休した。しかも、保護者たちはなんと新学年の開始前日にこのニュースを知らされたのである。

4人の子供がいるジェローム・グリボラさんの場合、このバスの運休で二人の子供が影響を受けた。幸いなことに、二人のうち一人は、他の生徒の保護者が一緒に子供たちを連れて行ってくれることになった。そして、10時から学校が始まるもう一人のお子さんは、月曜日の朝は仕事が入っていないグリボラさんが送り届けることでなんとかしのいだのである。しかし、リボラさんはこう続ける。

「これが毎日続くとなったらちょっと難しいですね。子供1人につき1日2回往復するとすれば、約50キロメートル走ることになります。現在の燃料の価格高騰を考えても実現不可能です。仕事もあるのでこちらの都合がつかない場合、子供たちは学校に行けません。」

ルシヨン市長自身も、この事態を新学年が始まる前日に知った。しかも、運転手不足が3日で解決できるのか、長期で続くのか、今後の予測がつかない状況だ。

 

バスの運転手不足は新型コロナウイルスの流行で悪化

今までにもバスの運転手不足はあった。しかしながら、問題があればその都度、運転手が見つかるまでのあいだ町の消防隊などに助けを頼むなどしてどうにかできる程度の問題であった。しかし、今年は相当の人数の運転手が不足となり、まったく対応しきれなくなったのである。その大きな要因となったのは、新型コロナウイルスの流行である。

新型コロナウイルスの流行中に外出制限が行われたり、学校が遠隔授業になったりした結果、スクールバスの運転手の仕事が激減した。それにプラスして、コロナに感染するリスクも高いことなどもあり転職する運転手が相次いだのだ。さらに、マクロン政権になってから職業訓練のシステムも充実し、転職しやすい環境が整ったという背景もある。

そこで、レストランやホテル従業員やバスの運転手らをはじめ、外出制限で仕事ができずに家に閉じ込められている間にオンラインで勉強して転職活動を始める人が増加した。また、家にいる時間が長くなり家族と過ごす時間の大切さに気づいて転職活動を始めた人もおり、新型コロナウイルスの流行中に、前例がないほどの数の人が離職したのだ。

レストラン業界だけでも15万人の従業員が転職した。2021年7月には、2019年7月と比較して20%以上多くの退職が記録され、同期間の早期退職の数は25%増加。だが、一度離れたらそれが最後。

レストラン従業員やホームヘルパー、教師、バスの運転手といったような、低賃金だったり、厳しい労働条件だったり、非難を受ける可能性があるような職についていた人は、コロナの流行が収束しても元の仕事には戻ってこなかったのである。その結果、今年のフランスの第2四半期の求人数は355400人となり、前年最終四半期と比較して約75%増加する結果となった。

低賃金で魅力的ではない仕事に人員が集まらないという問題に直面しているのはフランスだけではもちろんない。ドイツ、オランダ、米国などのすべての西側諸国は、採用の問題に直面している。しかし、フランスが突出しているのは、これだけ人手不足で求人が増えても失業率が依然として高いことだ。

写真)マクロン政権が取り組む職業訓練の整備も低賃金の職の人手不足に拍車をかけている。

出典)Photo by Chesnot/Getty Images

フランス政府は9月の「新学期から」労働力不足に取り組むことを表明しているが、雇用の流動性を促すためにも、再訓練のサポートをさらに充実させ、次の段階に進むと表明している。

決められた道で働くしかなかった時代には、きつい仕事であってもそこに残っていた労働者もいただろうが、時代は変わってきており、転職がしやすくなってきた現在、労働条件の悪い職場に労働者は集まりにくくなってきている。今後は、雇用主が、職業生活と私生活、仕事と余暇とのより良いバランスを提供できるかが重要になってくることは間違いない。賃金はもちろんのこと、どれだけ仕事に価値を持たせることができるかが鍵となってくるのではないだろうか。

 

<参考リンク>

“On demande l’aide de l’armée”: face à la pénurie de chauffeurs de cars, l’appel à l’aide d’un maire 

<”軍隊の力を借りたい “バス運転手不足に悩む市長の呼びかけ>

Pénurie de chauffeurs dans les transports scolaires : le désarroi du maire de Gundershoffen, assailli par des parents excédés

<通学の運転手不足:グンダーホーフェン市長の落胆、怒る保護者に襲撃される>

Pénurie de chauffeurs de bus : il manque des trajets dès la rentrée à Roussillon en Isère

<バス運転手不足:ルシヨン、イゼールのバス路線欠航>

フランス、深刻な教師不足 | “Japan In-depth”[ジャパン・インデプス]

 

トップ写真:フランスではバス運転手不足が深刻。写真はイメージ。

出典:Photo by Robert Nickelsberg/Getty Images




この記事を書いた人
Ulalaライター・ブロガー

日本では大手メーカーでエンジニアとして勤務後、フランスに渡り、パリでWEB関係でプログラマー、システム管理者として勤務。現在は二人の子育ての傍ら、ブログの運営、著述家として活動中。ほとんど日本人がいない町で、フランス人社会にどっぷり入って生活している体験をふまえたフランスの生活、子育て、教育に関することを中心に書いてます。

Ulala

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