外国人が理解不能な旧統一教会問題
宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
「宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2022#35」
2022年9月5-11日
【まとめ】
・多くの外国人が、長く日本を見てきた熟練の外交官も含め、日本において「統一教会」問題が如何に深刻かを正確に理解していない。
・「何が如何なる理由でおかしい」のか、「問題を解決するには何をすれば良いのか」などについて、国民的コンセンサスは未だない。
・関係各国が日本の内政に注目し始めたことだけは間違いなさそうだ。
9月5日は米国のLabor Day休日だ。Labor Dayは毎年9月の第一月曜日だから、当然週末は土日月の3連休。米国ではこれをLabor Day週末と呼び、事実上夏休みの終わりを象徴する連休となっている。ちなみに、外務省を辞めた直後、ワシントン出張は友人たちがオフィスに戻るLabor Day weekend明け以降と決めていた。
このLabor Day、実は比較的新しい休日だ。1894年イリノイ州で大規模ストライキが発生した際に陸軍と連邦保安官が多数の労働者を殺害する事件が起き、労働者と治安当局の衝突激化が懸念される中、和解の象徴として1882年からニューヨークで祝われていたLabor dayを連邦の祝日とする法案が全会一致で成立したそうだ。
さて米国史の蘊蓄はこのくらいにして本題に入ろう。
レイバーデイ週末は「ニュース枯れ」の時期だ。9.11は来週だし、中国の共産党大会を取り上げるには早すぎる。ちなみに、中国といえば、次回のCIGS外交安保TVではゲストとして東大の高原明生教授にご登場願った。いい加減なことは言わない数少ない中国専門家の一人だ。
それはさておき、という訳で、今回は大いに悩んだ末、誤解を恐れず、外国から見た日本の「旧統一教会」事件を取り上げることにした。実はこの数日、在京外交団や外国の友人から「今東京では一体何が起きているのか」「自民党は大丈夫なのか」といった質問を多く受けるようになったからだ。
「統一教会」は基本的に内政問題であり、筆者はコメントしないのが原則だ。しかし、これだけ多く質問を受けるとある程度答えざるを得ない。彼らと意見交換して分かったことは、多くの外国人が、長く日本を見てきた熟練の外交官も含め、日本において「旧統一教会」問題が如何に深刻かを正確に理解していない、らしいことだった。
多くは筆者より年齢が若い。彼らには1960年代、70年代の日本の大学キャンパスで「原理研」や「勝共連合」のサークルが「革マル」や「中核派」と軒を並べて新入生勧誘キャンペーンをやっていたことなど知る由もない。あれから50年、日本では「変わったこと」と「変わらなかったこと」があることを、今更ながら、痛感する。
ある友好国の外交官に至っては、「旧統一教会の信者は殺人など重い犯罪を犯したのか」「自民党に旧統一教会と無関係な議員はいないのか」といった、初歩的ながら極めて本質的な質問を繰り返していた。
うーん、これでは彼らに今の東京の雰囲気を正確に理解することは難しいかもしれないな、と思った。
更に、日本をよく知る外国人は、「これは自民党の一部が言う『魔女狩り』ではないのか、最終的には『そして誰もいなくなった』となるのではないか、『旧統一教会』以外の宗教団体は事態をどう見ているのか、これが日本の内政に及ぼす影響はどの程度か、そして、そもそもこの『事件』はいつ終わるのか」といった質問を連発する。
勿論、筆者に明確な答えはない。「何かがおかしい」ことは間違いないのだが、「何が如何なる理由でおかしい」のか、「問題を解決するには何をすれば良いのか」などについて、国民的コンセンサスは未だない。今も状況は星雲状態、この状況は当分続くだろう。関係各国が日本の内政に注目し始めたことだけは間違いなさそうだ。
〇アジア
5日から始まるウラジオストクの「東方経済フォーラム」に中国全人代の栗戦書常務委員長が出席するという。7日にはプーチン大統領も参加するので、中露会談もあるのだろうか。内容的には中国がロシア傾斜を深めるかどうかが焦点だが、少なくとも、中国がロシアと「縁を切る」ことは当分なさそうだ。
〇欧州・ロシア
ジョンソン英保守党党首の後任にトラス外相が選ばれた。党首選挙は全国党員が郵送やオンラインで投票し、トラス外相が8万1326票、対抗馬のスナク前財務相が6万399票だったそうだ。うーん、投票総数は15万票以上だが、自民党と比べれば「非常に多く」、米大統領予備選に比べれば「まだまだ少ない」。どちらが良いのか?
〇中東
先週「アフガニスタンに再び『力の真空』が生まれることは必至」と書いたが、5日スタン首都のロシア大使館前で自爆テロ事件が起き二人の大使館職員を含む 6人が死亡したという。原因は未解明、稚拙な憶測は慎みたいが、こうしてロシアが狙われるのには何か必ず理由があるはずだ。米軍撤退後、ロシアは何をしてきたのだろう?
〇南北アメリカ
ペンシルベニアの上院議員選挙でバイデンとトランプが火花を飛ばしている。バイデンは同州フィラデルフィアで行った演説でトランプ氏を「過激主義者であり、米国の脅威だ」と攻撃。トランプは同州ウィルクスバリで「『国家の敵』はバイデン氏と彼を操っている取り巻き連中だ」と反論。ペンシルベニアの結果は次期上院の帰趨を決める。
〇インド亜大陸
インド初の国産空母「ヴィクラント」の就役式典にモディ首相も出席、「インドは独自技術で巨大空母を国産化できる国のひとつになった」と胸を張ったそうだ。インドも中国に続き、今頃複数空母保有に動いているが、今の空母は昔の「戦艦大和・武蔵」と同じはずなのだが・・・。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
トップ写真:統一教会本部で行われた合同結婚式前日のオリエンテーションの様子(2016年2月19日、韓国・加平) 出典:Photo by Chung Sung-Jun/Getty Images
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この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表
1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。
2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。
2006年立命館大学客員教授。
2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。
2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)
言語:英語、中国語、アラビア語。
特技:サックス、ベースギター。
趣味:バンド活動。
各種メディアで評論活動。