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.社会  投稿日:2022/10/23

取り戻せるかワイドショーの信頼性


安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)

【まとめ】

「羽鳥慎一モーニングショー」のコメンテーター玉川徹氏が19日に番組に復帰した。

「番組が政治的意図を持って作られていたかどうか」についての言及が全くなかった。

「玉川発言」を一過性のものとせず、ワイドショー全体の問題として各局はとらえるべき。

 

羽鳥慎一モーニングショー」(以下、モーニングショー)のコメンテーター玉川徹氏が、10日間の謹慎が明けた19日、番組に復帰した。今後、現場に出て取材をし、それを番組で報告するという。早速、20日の番組では現場でインタビューしていた。

前回の記事、「玉川発言で問われるワイドショーの役割」で書いたが、今回の騒動の核心は、テレビ朝日がワイドショーを「政治的意図を持って番組を作っていたのかどうか」だ。しかし、玉川氏、並びに「モーニングショー」はその問題について全く触れていない。

玉川氏が19日、「モーニングショー」の放送時間内に行った謝罪会見の全文はこちら。

『おはようございます。今回の私の、事実誤認のコメントによりご迷惑をおかけした、電通及び菅前総理大臣に対し、改めてお詫び申し上げます。このような事実に基づかない発言をテレビでしてしまったということ、それは私の慢心とおごりがあったからだと反省いたしました。申し訳ございませんでした。

謹慎の10日間、私は事実確認の大切さ、テレビで発言することの責任の重さを考え続けました。そして事実確認こそが報道の根幹であると、その原点に立ち返るべきだと考えました。これまで私はスタジオで様々なニュースに対しコメントを続けてきましたが、これからは現場に足を運び取材をし、事実確認をして報告する。その基本にもう一度立ち返るべきだと考えました。そしてその結果は、この羽鳥慎一モーニングショーでお伝えする。そういう風な考えに私は今回至りました。

この間、報道局幹部とも話し合いを続け、このような私の考えを理解してもらいました。視聴者の皆様にもご理解いただけるとありがたく存じます。今後、このような形で仕事を続けて参りますが、ご支援のほどよろしくお願いいたします』。

謝罪を行ったのが番組のスタジオではなく、報道フロアだったのはなぜかわからないが、映っていたのは玉川氏1人だけで、他にはだれもいなかったのは私には奇異に映った。

なぜなら、報道フロアはいわゆる24/7(Twety four seven)、すなわち年中無休なので、局員が誰もいない時間帯はないからだ。たとえ、夜中の2時だろうが3時だろうが局員の誰かが走り回っている。ニュースは世界中で起きているし、夜中は早朝から始まるニュースの準備に追われている。玉川氏1人の謝罪を収録するために報道フロアの一角を人払いでもしないかぎり、背景に人が誰も映ってないのは妙だ。まさかCGでは無いと思うが。

それはともかく、この謝罪は突っ込みどころ満載だ。

まず、玉川氏は、「事実確認こそが報道の根幹であると、その原点に立ち返るべきだと考え」、「これからは現場に足を運び取材をし、事実確認をして報告する。その基本にもう一度立ち返るべきだ」と考えるに至ったというのだ。

これでは、これまで現場で事実確認しないでコメントしていたと認めたことになる。これまでのコメントの信頼性を自ら否定したようなものだ。本当にそれでいいんですか?と聞きたくなる。

さらに、冒頭でも述べたように、「番組が政治的意図を持って作られていたかどうか」についての言及が全くなかった。しかし、この問題にほっかむりしていていいはずはない。

なにせ、番組のメインコメンテーターであり、かつテレビ朝日の局員の発言だ。もし、玉川氏が言った「政治的意図」を持った番組制作がなされていないのなら、番組が正々堂々と否定してしかるべきだろう。なぜそれをしないのか?視聴者の疑問は深まるばかりだ。「第2の椿事件」との批判を払拭するには、説明責任を果たすしかないと思うのだが。

玉川氏をバッシングするのは違う、という意見が少なからずネット上にあるようだが、問題の本質はそこではない。これはワイドショー全体のクレディビリティ(信頼性)に関わる問題だ。

最近のワイドショーは、政治経済外交などのテーマを積極的に取り上げるようになっており、視聴者がそうしたニュースの背景や解決策などを理解する重要な場となっている。だからこそ、綿密な取材にもとづき、偏らない多様な意見を紹介する場でなくてはならない。

今回の「玉川発言」を一過性のものとせず、ワイドショー全体の問題として各局はとらえるべきだ。全てのテレビ局のワイドショーが取り上げてもいいのではないか。

トップ写真:イメージ 出典:photoAC




この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員

1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。

1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。

1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。

2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。

安倍宏行

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