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.社会  投稿日:2022/12/10

オンライン診療、普及させよ【2023年を占う!】医療


上昌広(医療ガバナンス研究所理事長)

「上昌広と福島県浜通り便り」

【まとめ】

・パンデミックが始まり、世界でオンライン診療が普及した一方で、日本の医療におけるオンライン化は出遅れた。

・オンライン診療は精神科やプライマリケア、中絶医療で特に相性がいい。

・国と日本医師会がオンライン診療に反対しているため、普及が進まない。国民を優先しないこの国をどうすればいいか、考えるべき。

 

コロナパンデミックが始まり、4年目に入ろうとしている。この間、米国を中心に世界は大きく変わった。その原動力はオンライン技術の発展だ。新たな技術の発展・普及が、社会の選択肢を増やした。この点で、日本は大きく出遅れた。果たしてキャッチアップできるのか。私が考える2023年の課題だ。

私が専門とする医療分野で特記すべきは、オンライン診療の進歩だ。

2020年の流行当初、コロナを恐れた世界中の医師と患者は対面したくないと希望した。この要望に応える形で、世界の多くの国でオンライン診療が解禁された。発熱外来、訪問診療を推進した日本とは対照的だ。

それから3年。オンライン診療は様々な状況で試された。そして、どうやら精神科医療とプライマリケアとの相性がよさそうだということが分かってきた。

精神科については、対面診療を嫌がる引きこもりの若者でも、オンラインなら診療を受けるという感じだろうか。幻覚剤LSDの心的外傷ストレス障害(PTSD)への応用など、かつては想像もつかなかった治療が開発された。

PTSD対策は帰還兵の健康問題を抱える米国にとって重大だ。2021年末、米サイエンス誌は、同年の重大ニュースの一つとして、この分野での研究の進展を取り上げている。翌2022年には英ネイチャー誌も特集を組んだ。世界の科学界が大きな関心を寄せていることがわかる。

プライマリケアも同様だ。この領域では、すでに実用化が進み、営利企業も進出している。ユナイテッドヘルスケア社などが、オンラインに限定したプライマリケアを提供する保険の販売を開始した。同社によると、利用者の4人に1人は主治医と直接会うより、オンライン診療の方が良いと回答している。

アマゾンも進出した。同社は米ワンメディ カル社を約39億ドルで買収している。

ワンメディカル社は、利用者が年間199ドル支払え ば、プライマリケアをオンライン診療と対面診療で提供するサブスクリプションモデルで提供する企業だ。2022年3月時点で約77万人と 契約し、188の診療所と提携している。

オンライン診療の発展は中絶医療にも影響している。米連邦最高裁判所は、妊娠中絶の権利を認めた1973年の「ロー対ウェイド判決」を覆したが、中絶難民は大きな問題とはなっていない。

それは、米国では内服薬を用いた中絶が主流で、オンラインで処方できるからだ。米国在住の大西睦子医師は「私が住んでいるマサチューセッツ州では、7月29日、州外に住む患者に中絶サービスを提供する医療従事者を強力に保護する法律を可決しました」という。

この結果、中絶が禁止されている州に住んでいる人も、オンライン医療で中絶を認める州で開業している医師の診察を受け、薬を処方してもらえるようになった。

日本の状況は対照的だ。オンライン診療の普及は遅い。開業医の地域独占が崩れる日本医師会は猛反対しているが、本当の抵抗勢力は彼らではない。私は、厚労省医系技官を筆頭とした医師偏在対策関係者と考えている。

医師不足を認めなかった厚労省は、医師偏在こそ医師不足の原因と主張してきた。地方を嫌い、都心に住みたがる若手医師を問題視し、後期研修制度、医学部入学地域枠制度など、様々な制度を作り、若手医師を地方に縛りつけてきた。そして、そのために設置された組織に多くの関係者がポストを得た。医師の強制配置が利権と化しているのだ。彼らにとり、オンライン診療の普及は悪夢だ。

彼らは抵抗に余念がない。年末になって、かかりつけ医の登録制を打ち出した。オンライン診療が発展した現在、昔ながらのかかりつけ医モデルに固執する合理的理由はない。

この件は、元は財務省が医療費カットのために仕掛けたものだろうが、厚労省と日本医師会が便乗した。この登録制を進めることで、医師会の診療所は、患者を縛り付けることが可能となり、オンライン診療や顧客サービスの向上を図っている新興の医療機関との競争から守られる。このやり方をやっている限り、医師偏在は永久に解決しないため、厚労省にとってもありがたい。

我が国では、既得権者が拒否権を持っている。様々な理由をつけて抵抗する。ツケを払うのは国民だ。オンライン診療の発展で、僻地に住んでいても名医の診察を受けることができるようになったのに、そのような機会は閉ざされている。アマゾンが急成長して、僻地に住んでいても、あらゆる本を購入できるようになったのに、医療ではそうはいかない。書店の倒産はやむを得ないが、日本医師会に加盟する医師を「倒産」させるわけにはいかないのだろう。

この状況は問題だ。ただ、容易には変わらないだろう。与党議員の過半数が世襲で、彼らは利権でがんじがらめだからだ。それでも選挙のたびに自民党が勝利する。これで、日本は議会制民主主義の国と言えるのだろうか。政治家が、国民でなく、家と支援者の都合を最優先するメンタリティは、江戸時代の殿様と変わらない。なんで、こんなことが21世紀の先進国で許されるのか。こんなことをしていたら、日本は衰退を続けるしかない。

これは現在の選挙体制のなせる技だ。この問題を解決するには、オンライン投票を解禁すればいい。万機公論に決するはずだ。これは技術的には容易だ。なぜ、野党はマニフェストで打ち出さないのだろう。多くの国民が支援するだろう。

日本を、どうすればまともな国にできるか、2023年は国民が本気で考え、行動すべきである。

トップ写真:遠隔医療の医師と患者(日本・東京) 出典:Yoshiyoshi Hirokaw/getty images




この記事を書いた人
上昌広医療ガバナンス研究所 理事長

1968年生まれ。兵庫県出身。灘中学校・高等学校を経て、1993年(平成5年)東京大学医学部医学科卒業。東京大学医学部附属病院で内科研修の後、1995年(平成7年)から東京都立駒込病院血液内科医員。1999年(平成11年)、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。専門は血液・腫瘍内科学、真菌感染症学、メディカルネットワーク論、医療ガバナンス論。東京大学医科学研究所特任教授、帝京大学医療情報システム研究センター客員教授。2016年3月東京大学医科学研究所退任、医療ガバナンス研究所設立、理事長就任。

上昌広

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