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.国際  投稿日:2023/10/27

ハマスーイスラエル戦争、韓国に危機感


朴斗鎮(コリア国際研究所所長)

 

【まとめ】

・中東駐留米軍に対するイスラム武装勢力の攻撃が相次いでいる。

・米国は、ウクライナ、台湾朝鮮半島・中東を同時に相手にしなければならない。

・この局面を利用した北朝鮮の韓国への挑発に対し、米韓日は空軍合同訓練実施。

 

 パレスチナのイスラム武装組織ハマスのイスラエル奇襲以来、中東に駐留している米軍に対するイスラム武装勢力の攻撃が相次いでいる。米国がウクライナと台湾・朝鮮半島に続く「新たな戦線」に巻き込まれる可能性が出てきた。

 

■ 反米戦線の拡大で苦悩するバイデン政権

 米国防総省のパット・ライダー報道官は、イラクとシリアにある米軍施設が10月17日から24日までに、ドローンとロケット弾によって少なくとも13回攻撃を受けたと明らかにした。米国はこの攻撃の背後にイランがいるとみている。

米国家安全保障会議(NSC)のジョン・カービー米NSC戦略広報調整官は23日の記者会見で、「イラクやシリアの米軍基地に対する親イラン武装勢力のロケットや無人機攻撃を、イランが積極的に手助けしているケースが幾つかあると指摘し、バイデン大統領が国防総省に対応強化を指示したと明らかにした。

カービー氏は、過去1週間、特にここ数日でそうした攻撃が増えていると説明。背後ではイラン政府とイラン革命防衛隊が支援しているとの米国側の分析を示した上で、攻撃がエスカレートする可能性を深く懸念していると述べた(ロイター2023/10/24)。

 

 イスラム武装勢力の米軍基地への相次ぐ攻撃は、バイデン政権に苦悩をもたらしている。

読売新聞は10月24日付で、「緊迫するパレスチナ情勢を受け、米国が米軍部隊の増派などで中東重視への回帰を強いられている。米国がイスラエル支持の姿勢を強く打ち出し、親イラン系イスラム武装勢力による駐留米軍への攻撃を招いているためだ。『対中国』に軸足を移す安全保障戦略に狂いが生じている」と指摘した。

またイスラエル軍のガザ空爆で数千人が死亡し、イスラエルが期待した世界の共感は予期せぬ方向に変わってきたこともバイデン政権を悩ませている。

米国が、抜け出そうとしていた中東に再び引き込まれれば、米国は、ウクライナと台湾・朝鮮半島に加え、中東での敵までも同時に相手にしなければならない状況に追い込まれることになる。

 

■ 中東での反米戦線拡大で米韓日が北朝鮮を牽制

 そうなれば、当然北朝鮮が、この局面を利用して韓国への挑発を仕掛けてくることは十分に考えられる。北朝鮮は最近、韓国に対して軍事挑発を行う可能性を何度も示唆してきた。今年4月に北朝鮮は金正恩総書記が韓国の地図を掲げ、平沢の在韓米軍基地とみられる首都圏周辺を指さす様子を撮影した写真を公開した。その際に金正恩は「戦争抑止力をさらに実用的・攻勢的に拡大し、効果的に運用しなければならない」と述べたという。 

こうしたことから米韓は、北朝鮮への牽制を強めている。韓国空軍は10月22日にも、朝鮮半島南側で、米軍のB52戦略爆撃機と日本の戦闘機とともに合同訓練を行った。合同訓練には、B52の他、韓国軍のF15戦闘機、航空自衛隊のF2戦闘機などが参加した。

米韓、米日で合同訓練を行ったことはあるが、3カ国の航空戦力が同時に空中訓練を行うのは初めてだ。ロシアと北朝鮮の軍事協力強化、ロ・朝両国とイランの支援を受けるハマスのイスラエルへの奇襲攻撃事態を受け、米韓日の安全保障協力が一段と緊密化した形だ。

   

■ 韓国軍、北朝鮮―ハマスの軍事協力を異例に公開

韓国軍の合同参謀本部(合参)は10月17日、「イスラエルの防御網を突破して奇襲攻撃したパレスチナ武装勢力ハマス』は、武器取引、戦術規範、訓練など幾つかの分野で北朝鮮と連携していると判断される」と発表した

韓国軍の調査によると、ハマスの武器の一部は北朝鮮の輸出品であることが明らかにされた。「合参」は「メディアで報じられたハマスの対戦車兵器F7は、北朝鮮がRPG7を輸出する際に用いている名称」と説明した。

ハマスの占領地であるガザ地区や、レバノンの親イラン武装勢力「ヒズボラ」の活動地に近いイスラエル北部国境一帯では最近、信管にハングルで「パン-122」と表記された北朝鮮製122ミリ放射砲弾(多連装ロケット砲弾)と推定されるロケット弾も見つかった。合参関係者は「北朝鮮がさまざまな武器を中東地域の国や武装集団に輸出している状況が引き続き明らかになっている」と語った。

 

 韓国軍「合参」が「現在進行中」の国際問題について情報分析結果を公開するのは異例のことだ。韓国政府と韓国軍は、今回のイスラエル・ハマス紛争が北朝鮮の対南戦略、韓国国内世論など韓国の国家安全保障にも影響を及ぼしかねないと判断し、緊急に一部の事項を発表したのである。

■ 北朝鮮、ハマスに武器だけでなく戦術も供与か

 武器の供与だけでなく、戦術規範の面でも北朝鮮と類似点が多いと分析された。

合同参謀本部(合参)は、今回のハマスによる攻撃が▲休日早朝の奇襲攻撃であること▲大規模なロケット発射で「アイアンドーム」(ロケット砲防御システム)を無力化していること▲分離障壁に設置された各種の監視・通信・射撃コントロールシステムを無人機攻撃で破壊した後に侵入していることなどを上げ、韓国側が予想する北朝鮮の「非対称攻撃の様相」とそっくりだと評価した(朝鮮日報2023/10/18 )。

特に、今回のハマスのパラグライダー侵入は、北朝鮮が伝授した可能性が高いという。2010年代中盤に、韓国は新たな警戒システムを構築したが、北朝鮮はこれに対抗してパラグライダーを利用した空中潜入訓練を強化したといわれている。2016年12月には、金正恩総書記の指示のもとで、パラグライダーなどを活用した青瓦台襲撃訓練が公開されたが、こうしたノウハウや戦術規範などがハマスに伝授されたと見られている。

韓国「合参」は、ハマスによる攻撃時にイスラエル側の早期警報システムがしっかりと作動しなかった問題などを教訓として、今後は、韓米連合偵察監視資産を一層効果的に活用し、北朝鮮の異常兆候を監視するとともに、北朝鮮の長射程砲に備えた新たな遂行方法や迎撃システムの戦力化を推進する(「韓国型アイアンドーム」と呼ばれる長射程砲迎撃システム(LAMD)を2026年までに開発する計画)。一方、フェイクニュースなどで恐怖と混乱を造成する心理戦にも対応できる軍事対備態勢を強化することとしたという。

トップ写真:米国、日本、韓国の戦闘機は、インド太平洋で活動する米軍B-52Hストラトフォートレス爆撃機の三国間護衛飛行を実施した。第80戦闘飛行隊所属の米軍F-16。同航空団は、第8航空団の航空自衛隊(JASDF) F-2と第11航空団の韓国空軍(ROKAF) F-15Kと並んで飛行した。2023年10月22日

出典:U.S. Air Force photo by Senior Airman Karrla Parra




この記事を書いた人
朴斗鎮コリア国際研究所 所長

1941年大阪市生まれ。1966年朝鮮大学校政治経済学部卒業。朝鮮問題研究所所員を経て1968年より1975年まで朝鮮大学校政治経済学部教員。その後(株)ソフトバンクを経て、経営コンサルタントとなり、2006年から現職。デイリーNK顧問。朝鮮半島問題、在日朝鮮人問題を研究。テレビ、新聞、雑誌で言論活動。著書に『揺れる北朝鮮 金正恩のゆくえ』(花伝社)、「金正恩ー恐怖と不条理の統治構造ー」(新潮社)など。

朴斗鎮

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