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.国際  投稿日:2023/1/15

クロアチア、ユーロ導入


村上直久(時事総研客員研究員、学術博士/東京外国語大学)

「村上直久のEUフォーカス」

【まとめ】

・クロアチアが1月1日、欧州単一通貨ユーロを導入。ユーロ圏は20カ国体制となった。

・クロアチアの観光産業を後押しし、貿易や投資の拡大が期待される。

・経済安全保障の観点からも東欧5カ国の存在感が高まる。

 

旧ユーゴスラビアの構成国のクロアチアが2023年1月1日、欧州単一通貨ユーロを導入し、欧州連合(EU)の大半の加盟国が属するユーロ圏は20カ国体制となった。

ユーロは欧州諸国が第二次世界大戦後、様々な曲折を経ながら進めてきた欧州統合の象徴的存在だ。EUは新型コロナウイルス禍や隣接するウクライナへのロシアによる軍事侵攻にもかかわらず、欧州統合を粘り強く進めていると言えよう。そのユーロ圏では、ウクライナ戦争に伴うエネルギー不足による大幅な物価上昇に見舞われ、厳しい冬に直面するのではないかと懸念されてきたが、これまでの暖冬や消費者の節約が進んだことなどもあって、足元ではインフレ懸念は幾分和らいでいる。

 観光産業を後押し

クロアチアのプレンコビッチ首相は、22年12月24日付けの地元紙のインタビューで「クロアチアは(ユーロ導入によって)金融危機や混乱から一層守られる」とユーロ圏入りの意義を強調した。

クロアチアは2013年にEUに加盟。ドブロブニクの旧市街などの世界遺産で知られ、観光業が国内総生産(GDP)の約2割を占めている。輸出の約7割はEU域内向けだ。ユーロ圏内では通貨交換は不要で観光などで利便性が飛躍的に高まるとみられる。さらに、ユ―ロ導入で為替変動リスクが無くなり、貿易や投資の拡大が期待される。

ユーロ圏はマーストリヒト条約(欧州連合条約)に基づき、1999年にドイツ、フランス、イタリア、スペイン、ポルトガル、オーストリア、フィンランド、ベルギー、オランダ、ルクセンブルク、アイルランドの11カ国で発足した。その後、ギリシャ、スロベニア、キプロス、マルタ、スロバキア、エストニア、ラトビア、リトアニアの順に加わった。クロアチアが20番目の加盟国だ。

マ条約はEU構成国にユーロ圏加盟を義務付けているが、ポーランド、チェコ、ハンガリー、ルーマニア、ブルガリアの東欧5カ国は財政収支や累積債務、インフレ率などの加盟基準を満たしていない。スウェーデンとデンマークは加盟基準に達しているが、国内事情から加盟を見送っている。

■ シェンゲン協定

また、22年12月8日にはEU域内で移動の自由を認める「シェンゲン協定」にクロアチアが加盟することが決まった。国境を越える移動の際に出入国管理が不要となる。クロアチアへのシェンゲン協定加盟国からの観光客は全体の75%を占めており、プレンコビッチ首相は「我が国経済にとって有益であることは明白だ」と力説した。

EUはロシアのウクライナ侵攻もあり、バルカン半島重視の姿勢を強めている。東欧5カ国のうちブルガリアは24年のユーロ導入を目指しており、経済安全保障の観点からもこの地域の存在感が高まるものとみられる。

■ 暖冬の恩恵

ウクライナ危機が続く中、ユーロ圏では昨年秋、冬を控えてエネルギー供給不足が懸念されていたが、1月中旬の本稿執筆時点では予想外の暖冬や米国および中東・北アフリカからの液化天然ガス(LNG)輸入の拡大、消費者の節約志向の徹底などを背景に「暗くて寒い冬」という最悪のシナリオはどうやら回避できそうな見込みだ。

ユーロ圏主要国のフランスでは、停止していた原子力発電所2基の稼働再開や市民のエネルギー消費の節約率がEU目標の15%を超え、20%台に達したことから、エネルギー供給に余裕が生じ、余った分を近隣諸国に輸出している。

また、ユーロ圏全体で天然ガスの在庫が予想以上に増えていることも安心材料と言えよう。こうした中でガス供給の割り当てという事態は避けられそうだ。

ただ、冬はまだ終わっておらず、厳しい寒波が押し寄せれば、暖房用のエネルギー不足が生じる可能性も否定できず、予断を許さない状況だ。

ユーロ圏ではエネルギー供給への根強い懸念を背景としたサプライサイドが主因のインフレ圧力が続きそうだ。

ユーロ圏のインフレ率は昨年10月、過去最高を更新し、10.7%に達した後、22年中にピークを付けたもようで、今後、緩やかに低下するとみられる。

(了)

トップ写真:クロアチアのユーロ導入を歓迎するバナー(2022年7月12日、ベルギー・ブリュッセル)出典:Photo by Thierry Monasse/Getty Images




この記事を書いた人
村上直久時事総研客員研究員/学術博士(東京外国語大学)

1949年生まれ。東京外国語大学フランス語学科卒業。時事通信社で海外畑を歩き、欧州激動期の1989~1994年、ブリュッセル特派員。その後,長岡技術科学大学で教鞭を執る。


時事総研客員研究員。東京外国語大学学術博士。

村上直久

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