無料会員募集中
.国際  投稿日:2022/12/14

エネ不足で寒さに震える欧州


村上直久(時事総研客員研究員、学術博士/東京外国語大学)

【まとめ】

・ロシアへの経済制裁で原油と天然ガスの輸入をほぼ停止した欧州諸国は、エネルギー不足の状態で冬に突入しようとしている。

・ロシア産のガス・石油への依存を断ち切り、自立できるかどうか欧州の“強靭性”が試される。

・欧州諸国は不足分を米国やアフリカなどからのLNG輸入で埋めようとしているが天候次第では各国で停電が頻発し厳しい冬となる

 

ウクライナに侵攻したロシアへの経済制裁で原油と天然ガスの輸入をほぼ全面的に停止した欧州諸国の市民は深刻なエネルギー不足から、寒くて暗い冬に突入しようとしている。

欧州連合(EU)加盟国の中では、フランスやスウェーデン、フィンランドなどは全国的な停電のリスクにさらされている。欧州各国政府はこうした事態に備えてガス在庫の積み増し電力節約の推進、石炭火力発電所の再稼働などを進めてきたが、寒波の程度によっては不十分になる恐れがある。こうした中で、EUは先進7カ国(G7)およびオーストラリアと協調してロシア産原油の取引価格の上限を1バレル当たり60ドルに設定することで合意。EUはガス価格の上限設定も模索している。

 悲惨なシナリオ

この冬、欧州諸国での市民生活は以下のように悲惨なものとなる可能性がある。エネルギー節約のために輪番停電や緊急停電が実施され、携帯電話やインターネットのサービスが一時的に中断され、学校は暖房と電気の不足のために閉鎖され、交通信号さえ消えるという事態だ。

米紙ニューヨーク・タイムズによると、フランス政府は全国の当局者に輪番停電実施の可能性に向けた計画を立案し始めるよう指示。英電力会社は電力生産のためのガスが不足するようになれば午後4時から7時までの停電に踏み切ることもあると各家庭に警告した。ドイツではろうそくが飛ぶように売れているという。

しかし、ロシアによるエネルギー関連施設への執拗な爆撃で数百万人の市民が暖房や電気、水がない状況下で凍り付く寒さに直面しているウクライナの人々の悲惨さに比較すれば、一日数時間の停電はそれ程厳しいことではないとの見方もある。

欧州で一般家庭や学校、会社で人々が暗くて寒い冬を迎えることになれば、それは欧州が安価で豊富に供給されていたロシア産のガス・石油への依存を断ち切り、自立できるかどうか欧州の”強靭性”を試されることになる。

ガス価格の上限設定も

対ロシア制裁の一環としての今回の措置は海上輸送が対象でパイプライン輸送は含まれない。保健会社に対し、上限価格を上回って取引されるロシア産原油を輸送する船舶に保健を提供しないよう義務付ける。世界の船舶保健を実質的に支配する欧米が実施に踏み切ることで、ロシアが頼りとするエネルギー収入に打撃を与えることが狙いだ。

エストニア政府の発表によると、上限価格は定期的に見直され、初回は来年1月中旬の予定。その際、上限は原油の市場平均価格より5%低くすることも条件に含まれた。

ただ、ロシアは欧米の制裁に直面し、代替輸出先としての中国やインドへの販売を増やしており、今回の制裁が効果を発揮するのかどうか注目される。

一方、EUはガス市場価格の上限設定も模索している。EU欧州委員会は10月18日、エネルギー危機対策の一環で、指標となる「オランダ・ガス価格(TTF)」を補完する新たな指標の策定や、ガス共同調達の一部義務化などを提案。11月22日には指標策定までの緊急措置としてオランダTTFの先物を対象に、一定の条件下で市場介入する案を示した。

加盟国はこの日、欧州委が示した10月の提案には政治的合意に達した。しかし、市場介入の条件として示された上限価格の設定については、ドイツやオランダなど一部の加盟国が供給に支障が出かねないと反発。本稿執筆時点で加盟国間の協議が続いている。

EUではバルト海を経由してロシアとドイツを結ぶノルドストリーム1」パイプラインなどによる供給がストップし、ロシアによるガス供給は同国のウクライナ侵攻前の約10%にまで落ち込んでいる。欧州諸国は不足分を米国やアフリカなどからの液化天然ガス(LNG)輸入を大幅に増やすことによって埋めようとしている。しかし、天候次第では各国で停電が頻発する厳しい冬となるかもしれない。

(了)

トップ写真:ウクライナで市民が雪の中を歩く市民。重要なインフラがロシアの標的にされ、首都キエフを含む大規模な断水と停電が引き起こされている。 (2022年12月7日 ウクライナ・ボロジャンカ) 出典:Photo by Jeff J Mitchell/Getty Images




この記事を書いた人
村上直久時事総研客員研究員/学術博士(東京外国語大学)

1949年生まれ。東京外国語大学フランス語学科卒業。時事通信社で海外畑を歩き、欧州激動期の1989~1994年、ブリュッセル特派員。その後,長岡技術科学大学で教鞭を執る。


時事総研客員研究員。東京外国語大学学術博士。

村上直久

copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."