日本、NATO・EUと関係強化
村上直久(時事総研客員研究員、学術博士/東京外国語大学)
「村上直久のEUフォーカス」
【まとめ】
・日本とNATO、今後4年間の「パートナーシップ・プログラム」で合意。
・東京におけるNATO連絡事務所の開設は、合意に至らず。
・EU側、水産物など日本産食料品に対する残存輸入規制の撤廃を発表。
ロシアのウクライナへの軍事侵攻と中国の強引な海洋進出や台湾への威嚇が続く中で、日本は欧米の軍事機構である北大西洋条約機構(NATO)との関係を一層強化している。
岸田文雄首相は7月中旬にリトアニアの首都ビリニュスで開かれたNATO首脳会議に「パートナー国」の首脳として参加。日本はNATOと今後4年間の新たな「パートナーシップ・プログラム」で合意。従来の海洋安全保障に加えて、サイバー防衛や宇宙安全保障、偽情報対策、人工知能(AI)などを新たな協力対象にすることにした。
ただ、インド太平洋地域では初めてとなる東京におけるNATO連絡事務所の開設では、中国の懸念に配慮したとみられフランスの反対で合意に至らなかった。岸田首相はビリニュスからブリュッセルに移動し、欧州連合【EU】との首脳会談に臨み、サイバー攻撃対策やエネルギー、偽情報対策などの分野で協力を深化することで意見が一致した。
■ 東京事務所には中国も反発
NATO関係者は、東京事事務所構想について、まずスタッフ数人の小規模な態勢が検討されており、パートナーシップ・プログラムの推進が目的であり、軍事基地ではないと強調した。
ストルテンベルグNATO事務総長は首脳会議後の記者会見で、東京事務所問題は「依然として協議対象である」と指摘、継続審議となったことをうかがわせた。日本政府は既にブリュッセルにNATO代表部(事実上の大使館)を設置してNATO本部との連携、情報収集などに当たらせている。
フランスがNATOの東京事務所に反対するのは、NATOの創設条約に明記されているように、NATOのカバーする領域は北大西洋地域に限定されているからだ。
ただ、フランスのマクロン大統領は「NATOがインド太平洋地域や中東、北アフリカにおいて安全保障問題に対応するためにパートナーを持つことには反対しない」と言明。日韓豪ニュージーランドのインド太平洋地域4カ国とNATOが連携することには反対しないとのスタンスを明らかにした。
そうした中で、中国は既に日本にNATO事務所ができることはアジア太平洋地域では歓迎されない、と反発している。フランスの立場は経済的結び付きが強い中国の懸念も考慮しているようだ。
ストルテンベルグ事務総長は中国の反発を踏まえて「インド太平洋地域におけるNATOの役割は、グローバルな軍事同盟として存在することではないが、同地域の動向が欧州にインパクトを与えることを考慮する必要がある」と指摘。そのうえで「安全保障はリージョナル(地域的)なものではなく、グローバルなものだ」と強調した。
NATOは昨年6月マドリードで開いた首脳会議で発表した新たな「戦略概念」で中国の脅威に言及したが、NATOの日本などインド太平洋地域のパートナー4カ国との連携強化はこうした認識が背景にあるといえよう。
◇EU、日本産食料品規制を撤廃
日本とEUはブリュッセルの首脳会議で、両者間の戦略的利益が一層重なるようになった中で、関係のさらなる強化で合意。安全保障問題に加えて、新技術、サプライ・チェーン(供給網)、グリーン・エネルギーなどの分野で戦略対話を開始することで合意した。
首脳会議では、EU側が、2011年の東京電力福島第一原発の事故を受けて実施してきた、水産物など日本産食料品に対する残存輸入規制の撤廃を発表。日EU関係強化への追い風となった。
欧州委員会のフォンデアライエン委員長は首脳会議後のブリーフィングで、「EUと日本は安全保障や経済の強靭性の強化でかつてないほどお互いを必要としており、我々はかつてないほど密接な関係にある」と力説した。
日本とEUは、激しい貿易摩擦に揺れた欧州共同体(EC、EUの前身)の時代には想像できなかったほど、現在は良好な関係にあるといってよいだろう。
(了)
トップ写真: オーストラリアのアルバニーズ首相、ニュージーランドのヒプキンス首相と、NATO首脳会議中にアジア太平洋パートナーと北大西洋評議会(NAC)の会合に出席する岸田文雄首相(2023年7月12日 リトアニア・ビリニュス)出典:Photo by Paul Ellis – Pool/Getty Images
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この記事を書いた人
村上直久時事総研客員研究員/学術博士(東京外国語大学)
1949年生まれ。東京外国語大学フランス語学科卒業。時事通信
時事総研客員研究員。東京外国語大学学術博士。