国連安保理での議長国日本の役割
植木安弘(上智大学大学院グローバル・スタディーズ研究科教授)
「植木安弘のグローバルイシュー考察」
【まとめ】
・日本は1月から国連安全保障理事会の議長国として活動している。
・日本が議長国として最初に采配を振るい、シリアへの人道回廊の6ヶ月更新が採択された。
・日本とUAEが呼びかけたアフガニスタンにおける女性の権利制限に関する私的会合では、タリバンの政策を非難した。
間も無くロシアのウクライナ戦争が始まってから1年が経とうとしている。そんな中で、日本は、国連安全保障理事会(安保理)の2023-24年任期の非常任理事国となり、1月には早くも議長国として活動している。
安保理の機能不全が指摘されているが、これはウクライナ戦争に象徴されるもので、確かに戦争を回避あるいは止めることは出来ていないが、まるっきり機能していないというわけではない。
日本が議長国として最初に采配を振るったのは、1月9日に採択されたシリアへの人道回廊の6ヶ月更新だった。シリアの北西部に位置するイドリブ地方へのトルコからの人道回廊がババルハワ(Bab Al-Hawa)一つになってしまったことにより、410万人とされる民間人への人道支援の道が絶たれる可能性があった。
昨年7月にはロシアの抵抗により、それまでの6ヶ月の安保理の許可更新が3ヶ月に短縮され、10月の更新時には、ロシアはウクライナを支援している西側諸国への反発から一時更新に反対することを表明したが、国際社会の大きな批判に晒され、これを撤回した。
今回もロシアの抵抗が予想されたが、関係国の説得もあって、6ヶ月の更新となった。
1月12日には、日本が提案した「国際平和と安全保障の維持のための法の支配促進と強化:国家間における法の支配」と題した公開討論を林芳正外相が議長となって主催した。
林外相は、国連憲章の原則に違反してウクライナの政治的独立と領土保全原則を一方的な武力の行使で侵害しているロシアや、台湾統一のために武力の行使も辞さない姿勢を示している中国などを念頭に、法の支配を守るのは安保理の責任でもあり、国境の一方的な変更はこれに反するものであることを主張した。
これに対して、ロシアは「ルールに基づいた国際秩序」は西側諸国が作り上げたものだとして反発し、中国もこのような表現は国連憲章には書かれていないとして対抗した。
ただ、公開討論に参加した77カ国の多くが、国連憲章の原則の尊重と法の支配の重要性を訴えた。グテーレス国連事務総長も、ロシアのウクライナでの軍事行動は国連憲章や国際法違反だと指摘した。
日本とUAEが呼びかけたアフガニスタンにおける女性の権利制限に関する私的会合では、オトゥンバエヤ事務総長特別代表(UNAMA)が、タリバンの政策は、女性の基本的人権の深刻な侵害であると非難した。
タリバンは当初の公約に反して、女性の中等・高等教育だけでなく、国際社会の人道支援に関わることさえ禁止し、国連や国際NGOの人道支援が一時中断に追い込まれている。
安保理は現地調査のための派遣団を送るべきだとの声もあるが、当面は国連による説得の行方次第となりそうである。
トップ写真:国連安保理公開討論「国家間の法の支配」において、「法の支配のための結集」のステートメントを読み上げる林芳正外務行う。出典:外務省・国際連合日本政府代表部
あわせて読みたい
この記事を書いた人
植木安弘上智大学大学院グローバル・スタディーズ研究科教授
国連広報官、イラク国連大量破壊兵器査察団バグダッド報道官、東ティモール国連派遣団政務官兼副報道官などを歴任。主な著書に「国際連合ーその役割と機能」(日本評論社 2018年)など。