シンガポール、ソフトウェア・エンジニアの給与アップ続く
中村悦二(フリージャーナリスト)
【まとめ】
・シンガポールでエンジニアの給与アップ続く。
・多くの企業が人件費や若年層の誘致に苦心。
・「ChatGPT」などの分野のエンジニア需要が高まっている。
シンガポールでエンジニアの月額報酬アップが続いている。
中でも目立つのがソフトウエア関連のアップ。エンジニア仲介サイト運営のNodeFlairおよび起業家支援サイト運営のIteractiveが共同で3月初旬に発表した2022年の「エンジニア報酬レポート」によると、シンガポールのソフトウエア・エンジニアの月額報酬の伸び率は前年の22%増より低い7.6%増とはいえ、報酬額は過去最高を記録した。同レポートは16万9千件以上の月額報酬データを基に分析したとしている。
米ドル換算での月額報酬の中央値で見ると、在職2年未満のジュニア・レベルで3,703米ドル(約49万円)、同5年以上のシニア・レベルで5,925米ドル、マネージャー・クラスで1万183米ドルとなっている。
台湾、それに東南アジア諸国連合(アセアン)でシンガポールに次いで高いマレーシアとのジュニア・レベルとシニア・レベルの報酬額比較と、IT人材が豊富なことで知られるインドとのマネージャー・クラスを含めた比較は以下の通り。
台湾がそれぞれ1,953米ドルと2,984米ドルで、シンガポールの方が2倍弱高い。マレーシアの場合はそれぞれ983米ドル、1,900米ドルで、ジュニア・レベルでシンガポールの方が約3.8倍高く、シニア・レベルでも3倍強高い。
インドはジュニア・レベルが654米ドル、シニア・レベルが1,106米ドルで、シンガポールの方が5倍以上となっている。マネージャー・クラスでみると、インドは1,558米ドルで、シンガポールの方が6.5倍となっている。
◼️ 調査対象数上位15社の内、5社が月額報酬の中央値の20%以上で雇用
調査対象企業のソフトウエア・エンジニアの数が多い順および月額報酬の中央値を上回る率は以下の通りだ(いずれもシンガポールでの雇用ケース)。
- TikTok(中国のByteDanceが運営する動画共有サービス、35.2%)
- シンガポール科学技術庁(GOVTECH SINGAPORE、11.2%)
- シンガポール発の電子商取引サイト(Shopee、18.6%)
- 東南アジア最大の仮想通貨取引所(BINANCE、22.5%)
- VISA(10.7%)
- シンガポールを拠点とする配車アプリ運営企業(GRAB、19.5%)
- JPMorganChase&Co.(22.0%)
- Apple(34.9%)
- PayPAL(16.2%)
- ドイツ発のオンラインフード配送サービス(foodpanda、24.9%)
- メタ(Meta 50.6%)
- IBM(6.0%)
- シンガポールを拠点とするポイントが貯まるオンラインショッピング・アプリ(SHOPBACK、13.0%)
- DELL Technologies(11.6%)
- DBS銀行(7.3%)
同国の経済団体であるシンガポール・ビジネス連盟によると、人件費上昇や若年層の誘致・維持に苦心している企業は多い。
1月発表の2022‐2023年度全国ビジネス調査結果によると、人材関連の課題に直面する企業は96%に上り、その課題のうち「人件費の上昇」と答えた割合が75%と最大だった。
◼️ 「ChatGPT」など機械学習モデルにも関心
米国では昨秋からGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック=現メタ、アマゾン・ドット・コム)を中心にして、人員削減が相次いだ。そうしたことに伴い、人口知能(AI)を使って新しいデジタル音声、文章などを自動生成する「ChatGPT」など機械学習モデルが注目され、その分野のエンジニア需要が高まっている。
シンガポール政府は、従来からイノベーション重視を打ち出し、税制優遇策などを講じている。シンガポールでも「ChatGPT」などへの関心が高まっていると報じられている。今後、シンガポール政府・企業がどのようなソフトウエア・エンジニア育成策を展開するか、注目されるところだ。
トップ写真:バグ取りシステムのコーディングチェックのため、夜間もパソコンに向かって作業を続ける開発者プログラマー、ソフトウェアエンジニア、ITサポート(イメージ)
出典:Photo by Nattakorn Maneerat/Getty Image
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この記事を書いた人
中村悦二フリージャーナリスト
1971年3月東京外国語大学ヒンディー語科卒。同年4月日刊工業新聞社入社。編集局国際部、政経部などを経て、ロサンゼルス支局長、シンガポール支局長。経済企画庁(現内閣府)、外務省を担当。国連・世界食糧計画(WFP)日本事務所広報アドバイザー、月刊誌「原子力eye」編集長、同「工業材料」編集長などを歴任。共著に『マイクロソフトの真実』、『マルチメディアが教育を変える-米国情報産業の狙うもの』(いずれも日刊工業新聞社刊)