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.国際  投稿日:2023/5/10

シンガポール 不動産投機規制に動く


中村悦二(フリージャーナリスト)

【まとめ】

・シンガポール不動産は2021年に価格上昇。政府が投機規制強化。

・同国は国民融和の「装置」として公団住宅を建造してきた。

・国民の48%が金利上昇の影響を受けるとし、安い物件志向が見られる。

 

シンガポール政府が不動産絡みの投機規制を強めている。先月末には、中国などの外国人によるシンガポール不動産購買時の印紙税を従来の30%から60%へと倍にした。国民がHDB(住宅開発庁)フラットの「二軒目」を購入する場合は同税を17%から20%へ、「3軒目」購入の場合は同税を25%から30%へと引き上げた。

国民融和の「装置」としての公団住宅

シンガポールは1965年にマレーシアに袖にされる形で独立を余儀なくされた。その後、建国の父であるリー・クアンユー首相による独裁政権下、目覚ましい経済発展を遂げた。その際考案されたのが、国民の多数を占める華人、マレー人それにタミル系主体のインド人の「融和に向けた装置」としてのHDB公団住宅の建造だった。

同国発展の原動力の一翼を担った全国労働組合評議会(NTUC)が1981年に、リー・クアンユー首相(当時)やデバン・ナイア大統領(同)ら政府関係者、学者などの論文をまとめた『シンガポールの知恵』(斎藤志郎訳、サイマル出版会1984年刊)の中で、リュー・タイカHDB長官は、「公共住宅建設は、その規模とスピードの点で大胆な環境実験」とし、「世界にあまり類のない高密度の人口の大半を高層建築物に住まわせる、という決意の点で、大胆な社会実験」と述べている。ちなみに、NTUCはタクシー会社、スーパーマーケットを経営していることでも知られる。

同国の土地のほとんどは国有地。最大99年などの使用期間を一定期間に区切って貸し出す方式もあるが、HDBは99年リースが一般的という。

国民の8割がHDBに居住

民間開発のコンドミニアムの場合、プールやジム付きのタワーマンションが多く、そこに住むのは外国人や裕福な国民、永住権取得者が多い。シンガポール人の8割方はHDBフラットに住む。

シンガポール都市再開発庁 2023年第一四半期データ

Property Price Index of private residential properties

図1 民間住居不動産の価格指数の推移(出所:同国政府資料)

同国の不動産市況は、コロナウイルス感染の影響故か2020年頃までは安定していた(図1参照)。2021年に入ると価格上昇が始まり、同国政府は2021年末、印紙税率の引き上げや頭金の増額、住宅ローンの融資基準厳格化など過熱化防止策を採った。2022年9月にも同様の措置を講じたが、「今年になっても投機熱は高まっている」として、4月26日に前述の措置を発表、翌日実施に移した。具体的な措置内容はほかに、永住権所持者の場合、1軒目取得での印紙税なしは変わらないが、二軒目の場合は25%から30%へ、三軒目の場合は30%から35%へと引き上げなどとなっている。

安い物件志向の高まり

シンガポールに本社を置く不動産動向調査のPropertyGuruは、四半期ごとの市況動向、地区ごとの状況、新規物件の紹介、賃貸物件状況、住宅ローンなどに関する情報をネット上に載せている。

同社によると、国民の48%が政府の先月末の投機過熱化防止策による金利上昇の影響を受けるとし、安い物件志向が見られるという。

トップ写真:シンガポール HDB(住宅開発庁)の住宅群 出典:Kokkai Ng/GettyImages




この記事を書いた人
中村悦二フリージャーナリスト

1971年3月東京外国語大学ヒンディー語科卒。同年4月日刊工業新聞社入社。編集局国際部、政経部などを経て、ロサンゼルス支局長、シンガポール支局長。経済企画庁(現内閣府)、外務省を担当。国連・世界食糧計画(WFP)日本事務所広報アドバイザー、月刊誌「原子力eye」編集長、同「工業材料」編集長などを歴任。共著に『マイクロソフトの真実』、『マルチメディアが教育を変える-米国情報産業の狙うもの』(いずれも日刊工業新聞社刊)


 

中村悦二

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