各国成長鈍化でもバングラデシュ好調「2022年を占う!」アジア経済
中村悦二(フリージャーナリスト)
【まとめ】
・アジア開発銀行「アジア開発途上国の成長予測」によると、実質成長率は2021年が7.0%、2022年が5.3%。
・東アジア経済(中国、香港、韓国、台湾)の成長率予測、従来予測よりそれぞれ0.1ポイント引き下げて、7.5%、5.0%と下方修正。
・注目はバングラデシュ。
マニラに本拠を置くアジア開発銀行(ADB)が毎年12月に発表している「アジア開発途上国の成長予測」によると、実質成長率(以下、成長率)は2021年が7.0%、2022年が5.3%となっている。
コロナウイルスの感染拡大で、2021年第3四半期の成長率が鈍化したのを踏まえ、2021年9月に出した「アジア経済見通し2021年版」の改訂版予測より、それぞれ0.1ポイント引き下げている。
ADBのチーフエコノミスト代理であるジョセフ・ズべグリッチJr氏は「アジア開発途上国では、ワクチン接種の継続や封じ込め策の一層の戦略的適用を通じて、新型コロナウイルス感染症への対応が進み、年初の成長予測は押し上げられた」としながらも、「第3四半期に発生した新たな感染拡大がGDP(国内総生産)の成長を鈍化させ、オミクロン株の出現が新たな不確実性をもたらしている」とし、経済復興を図る上で新型コロナウイルス感染者の再拡大が主要リスクと見ている。
ADBの「アジア経済見通し」は例年4月に出され、9月に「改訂版」が、7月と12月に補足版が出されている。ADBのいう「アジア開発途上国」は、46の域内加盟国・地域を指し、大洋州、中央アジアも含まれている。
地域別ではまず東南アジア。インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムのASEAN(東南アジア諸国連合)主要6カ国の経済に関し、ADBは2021年12月の補足版で、2021年の成長予測を2021年9月の改訂版より0.1ポイント引き下げ3.0%に、2022年の成長予測を0.1ポイント引き上げて5.1%とした。
国別では、ADBはインドネシアの2021年と2022年の経済成長率はそれぞれ3.5%、5.0%と見ている。中央銀行であるインドネシア銀行は2022年、4.7-5.5%の経済成長を見込んでいる。同国では、行動規制の緩和による民間消費の回復が見込まれ、石炭、加工ニッケル、銅、パーム油などの輸出が増加している。国内でも景気回復の見方が強まっている。
マレーシア経済は、2021年の厳しい行動規制やその影響下での電機製品・電子部品の輸出減少などで同年第3四半期はマイナス成長に陥った。ADBは2021年の成長予測を4.7%から3.8%に引き下げ、2022年は政情不安定を考慮し、従来予測の6.1%成長から5.9%成長に下方修正した。ただ、民間消費の回復と同時に、国内のサプライチェーン回復で世界的に不足している半導体輸出増などが見込まれている。
フィリピンでは5月に大統領選が予定されている。今のところ、マルコス元大統領の長男のフェルディナンド・マルコス元上院議員に対する支持率が高い。行動規制が緩和され、それに同国にとって重要な外貨獲得源となっている出稼ぎ労働者からの送金は順調で、「Build Build Build」政策の下でインフラ投資も旺盛。リスクは、政治の不安定、それにインフレ。利上げの観測もある。ADBは2021年と2022年のフィリピン経済成長率はそれぞれ、5.1%、6.0%と予測している。
都市国家シンガポールのワクチン接種率は80%を超えており、行動規制も緩和された。個人消費、投資、輸出とも増加が見込まれる。ADBは2021年の成長予測を6.5%から6.9%に引き上げ、2022年は4.1%成長としている。
タイ経済は、2021年の9月以降、行動制限の緩和がなされ、経済回復がなされつつある。とはいえ、家計債務負担増による個人消費の力不足、輸出に対する半導体不足などの影響、観光業界の復活時期の不透明感が指摘されている。ADBは、2021年のタイの経済成長率を0.8%から1.0%に、2022年のそれは3.9%から4.0%に上方修正した。
ベトナム経済は、2021年第3四半期に新型コロナウイルス感染者拡大に伴う行動規制でマイナス6.2%と落ち込み、同年1-9月の成長率は1.4%と「歴史的な低さ」(ADB)を記録した。行動規制で南部のホーチミン市を中心とする経済圏では労働力不足に陥った。同年10月以降、行動規制は緩和されてきているが、ADBは2021年の経済成長率を従来予測の3.8%から2.0%に下方修正した。2022年は、ワクチン接種の進展を見込み、6.5%成長としている。
東南アジアと関係が深い、東アジア経済(中国、香港、韓国、台湾)に関し、ADBは2021年と2022年の成長率予測を、従来予測よりそれぞれ0.1ポイント引き下げて、7.5%、5.0%と下方修正した。中国の両年の経済成長率をそれぞれ8.0%、5.3%へと下方修正したことが響いた。
中国経済は減速傾向が強く、中央銀行である中国人民銀行は2021年12月20日に最優遇貸出金利を引き下げ、事実上の利下げに踏み切った。中国恒大集団の経営危機などで不動産市況は悪化している。また、IT企業への統制も強化し、香港の「中国化」も進む。利益に敏感な東南アジアの華僑系企業などへの影響が懸念される。
写真)中国湖北省武漢の恒大集団長青地区 2021年9月26日
出典)Photo by Getty Images
南アジア経済について、ADBは2021年の成長率を従来予測の8.8%から8.6%に下方修正する一方、2022年は7.0%に据え置いた。南アジアの大国、インドの経済は2021年央にデルタ株を中心とするコロナウイルス感染者拡大に見舞われ、悪化を余儀なくされたが、その後、感染の低下に伴い、経済活動は復活してきている。しかし、祝祭シーズン時の11月の乗用車販売は前年同月比18.6%減と過去7年間で最低を記録した。世界的な半導体不足、資源価格上昇の影響も懸念されている。
ADBは、インドの2021会計年度(2021年4月-2022年3月)の経済成長率は9.7%、2022年の経済成長率は7.5%と予測している。ただ、米国のFRB(連邦準備制度理事会)が2021年12月15日に決定した利上げ方針が実施されると、インドからの資金流失が懸念されるといったリスク要因はある。
アジアの「ラストフロンティア」と見られていたミヤンマ―で2021年2月に国軍によるクーデターが起きて以来、同国の中国に替わるサプライチェーンの構築先として魅力は消失した。
そこで注目されそうなのがバングラデシュ。世界銀行は2021年10月6日、2021年-2022年度(2021年7月-2022年6月)のバングラデシュのGDP成長率を6.4%と予測した。2021年10月の輸出額は47億2753万ドルと単月での過去最高額を記録。ユニクロ向けなどの衣料品輸出は好調で、駐日バングラデシュ大使館によると、日本の自動車メーカーなども同国への進出に興味を示しているという。同国はフィリピンと同様に、38万人とされる海外出稼ぎ労働者からの送金の多さで知られ、外貨準備高は2021年9月末時点で輸入額の11.4カ月分に相当する約462億ドルにのぼっている。
写真)バングラデシュ首都ダッカの旧市街 2015年6月17日
出典)Photo by Frédéric Soltan /Corbis via Getty Images
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この記事を書いた人
中村悦二フリージャーナリスト
1971年3月東京外国語大学ヒンディー語科卒。同年4月日刊工業新聞社入社。編集局国際部、政経部などを経て、ロサンゼルス支局長、シンガポール支局長。経済企画庁(現内閣府)、外務省を担当。国連・世界食糧計画(WFP)日本事務所広報アドバイザー、月刊誌「原子力eye」編集長、同「工業材料」編集長などを歴任。共著に『マイクロソフトの真実』、『マルチメディアが教育を変える-米国情報産業の狙うもの』(いずれも日刊工業新聞社刊)