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.社会  投稿日:2023/4/8

大阪市長選に出てきた維新の若手実力派? 【統一地方選特集その2】


西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)

【まとめ】

・大阪市長選、大阪府議の横山英幸さん(大阪維新の会)、大阪市議の北野妙子さん(アップデートおおさか、無所属)らが立候補。

・横山候補、IRをどう進めて、どう経済発展につなげるのかが残念ながら見えない。

・北野候補、不登校・いじめ解消というが、具体的な問題解決策を提示しないと不十分。

 

統一地方選挙、恒例の「公約分析」をしていこうと思う。まずは、大阪市長選から。大阪府議の横山英幸さん(大阪維新の会、41歳)、大阪市議の北野妙子さん(アップデートおおさか、無所属、63歳)、荒巻靖彦さん(58歳)、ネペンサさん(48歳)、山崎敏彦さん(44歳)が出馬した。今回の市長選は維新の候補者である横山英幸さんと北野妙子さんに焦点をあてることにする。人としても、政策としても、注目が必要であるからだ。

 

□横山さんってそもそも誰?どういう人?

横山ひでゆきん、1981年5月13日、香川県三豊市出身。41歳。大平正芳元首相の秘書、香川県議会議員、旧詫間町長、三豊市長をつとめた横山忠始さんの長男として生まれる。ちなみに母も河本敏夫元通産相の秘書とのこと。

そのため、政治は幼い時から身近にあったそうである。香川県立丸亀高等学校卒業(硬式テニス部で活動)、関西学院大学経済学部でマクロ経済学を学び、サークルは英語研究部で活動し、ディベート力を鍛えた。卒業後、大阪府庁に入庁。政治家になることを考えていて、行政を知らないといけないと考えたと自身で語っている。

大阪府議会事務局、池田土木事務所、都市整備部総務課に所属して仕事をしていた。その後、維新の公募に募集し、政治家への道に。29歳で大阪府議会議員に初当選。その後、淀川区を起点に活動し、3期を務めた。維新内部でも着々としてキャリアを重ねてきて、2020年には大阪維新の会幹事長を務めた。そして、今回、市長選の予備選を勝ち抜いて市長選の候補者になったのだ。

座右の銘は「臥薪嘗胆」、将来の成功のため、長い間あらゆる苦しみに堪えると言う意味であり、大切にする価値観がうかがえる。「悪口を言う人がいない」と言われるほど、非常に人望があるようだ。大阪の政治ウオッチャーに聞くと「若い世代の維新を支えいていた」人だとのこと。我慢しながら周りに配慮し、人望を集め、行政の経験もあり、行政の実情もわかり、さらに政策も語れるという、まさに政治家になることを決めて行動しただけある。これまで目立ってはいなかったが、組織を支える若手実力者がついに表舞台に出てきたという印象である。

 

□横山さんの公約とは?

さて政策はどういった点を主張しているのか。2つの柱は財政改革と成長戦略ということで、維新の伝統を引き継いでいる。

第一に、「行政改革」の旗を改めて明確にしていること。事務の共同実施による効率化、ごみ処理や上下水道、消防、港湾などにおける近隣各市で共同実施することで、行政コストを圧縮すること、などはさすがと言える。

第二に、経済政策。「成長」と言うだけあって、淀川左岸線延伸、なにわ筋線などの交通インフラ整備や港湾機能の再整理、万博跡地のインフラなど経済活動を支えるインフラに着目している。古いインフラが多いことを踏まえたものになっていると言える。また、大阪「らしさ」を活かした観光戦略・「宿泊・エンタメ」拠点としての可能性を提起している。

第三に、ウェルビーイングなど新しい視点である。ヤングケアラー、子どもの貧困、重大な児童虐待事案などにも言及するなど、維新と相性がいいわけではない「福祉政策」にも最大限配慮してる。さすが政権を担ってきただけあって、行政改革だけの政策になっていない。さらに、言いたいことを絞っており、優先順位も明確化されていて、わかりやすい。また、ブログでの大阪市政の取組みについての意見を見ていると理解力が深いことがわかる。

あえて言うことは2点ある。第一に、経済政策。IRをどう進めていくのか、どう経済発展につなげるのかが残念ながら、見えない。世論調査でIRへの支持が不支持を上回った中、もっと胸を張ってIRの可能性や経済効果をアピールしても良かったのではと思う。また、経済インフラは整えるが、どのように起業やイノベーションを促していくのか、大阪のデジタルの活用や創造性についての言及があるとよかっただろう。

第二に、将来的な大きな絵、ビジョンが見えない。「命輝く未来社会のデザイン」をテーマとする万博の後に、その万博での健康寿命の延伸を図り、ヘルスケア産業などをどう発展させ、住民の健康とウェルビーイングに貢献していくのかまで昇華させてほしかった。ウェルビーイングという価値観をもとに新たな理念を打ち立て、「こんな大阪市にしたい」というイメージをプレゼンして欲しかったというのは期待しすぎか。「商人のまち」「東洋のマンチェスター」から「副首都」なのか。東京一極集中を緩和し、新たな価値・サービスを創造する都市として、アジアやグローバルを見据えて、魅力とらしさを明確にし、どう発展していくのか、あるべき「大阪らしさあふれる未来」像を語れる能力はあると思われる。

 

□北野さんってそもそも誰?どういう人?

北野たえこさん。1959年10月29日、大阪市淀川区生まれ・育ちの63歳。大阪市議会議員を務めた北野禎三は父親である。地元の大阪市立塚本小学校、大阪市立新北野中学校、大阪府立北野高等学校を卒業。大阪大学人間科学部を卒業。2005年、元市議の父親の地盤を引き継ぐ形で淀川区補欠選挙において大阪市会議員に初当選。その後も5期連続当選。自民党大阪市会議員団副幹事長なども務めた。PTAや社会福祉協議会、体育厚生協会などの地域活動を進めてきた。日本ホッケー協会の副会長も務めている。地域に根差して、地道に活動してきた北野さんは「市民を分断するのではなく、協調を目指すリーダーとして役に立ちたい」と語る。

 

□北野さんの公約とは?

北野さんの政策はアップデート大阪のHPに載っている。北野さんの特徴は第一に、「大阪の先端的なテクノロジーを駆使」「先端医療×IOTを加速」「デジタルアート、e-スポーツ」などの文言が掲げられ、未来志向であることが特徴的である。かなり積極的である。第二に、「女性が活躍する都市の実現に向け、女性給与格差を是正し、女性管理職比率30%以上を目指す」など女性の視点での問題提起も行っている。

ただし専門家からすると、疑問も多い。「不登校・いじめなどの解消を図る」といっているが、解消できるのか?今までの違いは何なのか?と思ってしまった。市は平成27年「大阪市いじめ対策基本方針」を策定し、「いじめを受けた子どもの救済と尊厳」を最優先するという大阪市の基本理念で「いじめの未然防止や早期発見、いじめ事案の調査や早期対応、いじめによる重大事態への対処等に関するルール等の明確化に努めて」きたのだが、何が課題であり、どういったアプローチが必要なのか、具体的な問題解決策を提示しないと不十分であろう。

「減少」はできても、「解消」するといっているのだから、それだけのことは言及してもらいたい。解消を図る、は、解消に向けて頑張りますという解釈しかできない。

また、専門家として厳しい言い方をさせてもらうと、総合計画やゆめしまビジョンを策定するという公約については、計画やプラン作りで何が変わるのかという疑問を感じた。

「政令指定都市では唯一「総合計画」を策定していない大阪市」というが、総合計画があまりに効果的なものではなくなっているわけで、そこは地方行政の専門家ならわかるはずである。

似たようなものは、「第 2期大阪市まち・ひと・しごと創生総合戦略」があり、十分代替えできるものである。総合計画がいかに機能しているのか、全国的にも自治体の皆さんが悩んでいるかがわかっていないのだろうか。

問題点、例えば、(お金をかけて)コンサルに発注してしまうこと、相変わらず漠然とした抽象的な記述の羅列になってしまうこと、住民意識調査の回答率が低いなか重要度や満足度をもとに作り上げること、具体的な内容がないので住民参画が進まないことなどを踏まえると、わざわざ作る必要があるのだろうか。計画、プランを作る事よりも、「実行」に力を入れる維新とは対照的である。

 

□どちらが大阪の未来を拓くリーダーになるか?

横山さんはブログで、聞かれたくない疑問・質問に対して1つづつ丁寧に対応しているのは、なかなか凄い。華やかさはないが、落ち着いた話しっぷりで謙虚に仕事を進める印象だ。対談や演説などでも、大阪市政について「いつでも過去に戻るリスクもある」と語っているように、橋下改革の事情にも詳しく、名前は知られていないが、次代のリーダー候補、維新の新しい「顏」といってもよいだろう。吉村さんとのコンビで、「大阪維新2.0」の新たな時代を開ける存在になれるか。

これに対して、IRの世論調査で賛成派が増えている状況で、各党相乗りの北野さんも追い上げているがどうなるか。自民党、立憲民主党、共産党が相乗るという奇妙な形だが、維新嫌いの票を掘り起こすかもしれない。北野さんが大阪維新の府市一体化にくさびを打ち込むのか。

大阪市長選挙は4月9日に行われる。

トップ写真:大阪市役所)筆者撮影




この記事を書いた人
西村健人材育成コンサルタント/未来学者

経営コンサルタント/政策アナリスト/社会起業家


NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、株式会社ターンアラウンド研究所代表取締役社長。


慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア株式会社入社。その後、株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)にて地方自治体の行財政改革、行政評価や人事評価の導入・運用、業務改善を支援。独立後、企業の組織改革、人的資本、人事評価、SDGs、新規事業企画の支援を進めている。


専門は、公共政策、人事評価やリーダーシップ、SDGs。

西村健

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