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.社会  投稿日:2023/4/17

岸田首相襲撃 脆弱な危機管理見直せ


安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)

【まとめ】

・岸田首相が和歌山で暴漢に襲撃された。

・警備するなら実効性ある「見せる警備」を。

・VIPは群衆の前に出ていかないという選択も。

 

安倍晋三元首相が暗殺された時の記事、「『要人警護、抜本的に変えよ』安倍元首相殺害事件の教訓」でも指摘したが、今回の岸田文雄首相が襲われた事件を見ても、要人警護は全くアップデートされていないことが露見した。

容疑者がいとも簡単に自身のバッグから爆発物を取り出して投げつけることができたことが信じられない。

安倍元首相の暗殺事件以降、警察庁は「警護要則」を約30年ぶりに全面改定し、都道府県警察が作成する「警護計画」について、警察庁が事前にチェックする手続きを導入した。また、計画を作成する際、警察庁と地元県警が合同で現場を確認する「予備審査」を行うことにしているが、今回事件が起きた場所の「予備審査」は行われていなかったという。

何か、毎回このような「言い訳」を聞かされてうんざりしているのは筆者だけだろうか。仮にその「予備審査」とやらを行っていたとしても、現場に十分な警察官を配備していなければ同様なことはいくらでも起きるだろう。いや、いくら警護が完璧だと思っていても、テロは起きるときは起きるのだ。そういう前提で要人警護は考えねばならない。

あのSPが持っている防弾機能があるというカバンも滑稽だ。顔を隠すのが精いっぱいの大きさのもので一体何が守れるというのだろう。特殊部隊(SAT)が使う防弾盾くらい用意してもよさそうなものだ。それでこそ「見せる警備」というものだろう。

▲写真 暴徒に備え、防弾盾を構えて警備に出動する警察(2022年3月2日、ニュージーランド・ウェリントン)出典:Photo by Lynn Grieveson/Getty Images

依然指摘したように、群衆の中にVIPが身をさらすのはいつ襲われてもいい、と言っているのと同義だ。大衆に何かを訴えたいなら建物の中でやる。どうしても外に出たいというなら法王が使う「パパモビル」のような防弾ガラスに囲まれた特殊車両に乗り込むしかない。

▲写真 欧州トヨタがローマ法王に寄贈した燃料電池車MIRAIを架装した「パパモビル」(2020年10月7日、バチカン市国)出典:Photo by Franco Origlia/Getty Images for Toyota

1年に2回も首相が襲われるような危機管理力が無い国に、他国のトップが安心して来れるだろうか。首相含めVIPの警護の在り方を抜本的に考え直すことが急務だ。

危機管理の観点からもう一つ。

陸上自衛隊ヘリコプターが沖縄県の宮古島の周辺で消息を絶った事故。第8師団長ら幹部8人が乗っていたという。民間では出張の時、例えば会長と社長が同じ飛行機に乗ることはない。リスクを分散するためだ。今から36年ほど前、私が某企業の秘書室にいた時、役員の海外出張の航空券を手配するときの常識だった。2機のヘリに分乗していれば今回の惨事で受けるダメージは違ったものになっただろう。残念だ。幹部のみなさんもこれからの任務に真剣に取り組もうと思っていたに違いない。ご冥福をお祈り申し上げる。

このように、日本社会はリスクマネジメントの概念がない。他国に比べ極めて安全な社会を築き上げたのは稀有なことであり、誇るべきことだとは思うが、それとリスク管理は別問題だ。

VIPを取り巻くリスクは多種多様だ。そのリスクをいかに軽減するか、本人は無論のこと、周囲の人、組織も改めて見直す契機としてもらいたい。

トップ写真:統一地方選候補を応援する岸田首相(2023年4月15日、千葉県浦安市)出典: Photo by Tomohiro Ohsumi/Getty Images




この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員

1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。

1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。

1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。

2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。

安倍宏行

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