生成AIの出現をテクノロジーの進化、インターネットの進化の中で考える
小寺昇二(株式会社ターンアラウンド研究所 共同代表 主席研究員)
小寺昇二の「人財育成+経営改革」
【まとめ】
・生成AI出現は、インターネットの新たな『イノベーションの飛躍』の時代の始まりを予感させるもの。
・企業が生成AIの担い手となりうる実感を伴った共通認識を持ち出した。
・社会課題の解決や、豊かな社会の構築など、高い視点で生成AIの歴史的、社会的な意味を考えるべき。
Chat GPTに代表される「生成AI」の出現は、その使い勝手の良さと、従来の常識を圧倒的に超えたアウトプットの質の高さによって、今やお茶の間の話題にすらなっています。
そもそもAIについては、「今後人間は急速にAIに仕事を奪われていくだろう」といった悲観的な意見や、逆に「AIのお蔭で、人間は今後今のようにアクセク働かなくても良い時代になるかもしれない」といった楽観的な観測も広がっており、そうした議論がさらに増えるものと思われます。
本稿では、「生成AIの出現」あるいは、「(一般の人が活用できる内容での)AIの出現」について、
・戦後進歩してきた「情報化の時代」あるいは「テクノロジーの発展」に拍車をかけた「インターネットの進歩の歴史」の中で、どう位置づけられるか
を考察してみました。
そもそも1970年代に軍事目的で発明されたインターネットについては、商用目的として開放された80年代以降、サービス=ビジネスの進歩と共に発展してきた歴史があります。
▲図(筆者作成)
例えば、Google検索というサービスは、通信速度の飛躍的なスピードアップというハード面での進歩がなければ使えるものにはならなかったでしょうし、同時にGoogleが検索技術、検索履歴を活用したソフト開発を行って広告ビジネスを展開していなければ、Googleが売上、利益を出し、さらに永続的に検索エンジンを改良し続けるということもなかったというわけです。
このように、ハード、ソフトの進歩とサービス=ビジネスの発達が一体となり、相互に影響を与えながら進んでいったことがインターネットの発展の特徴と言えるのです。
こうしたインターネットの発展というものは、ほんの60年足らずの間に本当にいくつものエポックメイキングとなる発明が起こっているのですが、とりわけ象徴的と筆者が考えているのは、
1.PCの発明、普及
2.iPhoneの発明、普及
の2点ではないかと考えています。
PCについては、コンピューターという「高級な」デバイスが個人の使用への道を開いたという意味で極めて画期的、特にマウスを使ってウインドウをクリックするといった使い勝手の良いアップルコンピュータ―と、WindowsというOSやofficeの標準化によって、劇的にオフィースワークの効率化を進めたマイクロソフトはインターネットの活用、進歩に多大な貢献をしたと筆者は考えています。
一般の人がコンピューターを使えるようになったという意味で、「コンピューターの民主化」を達成したのです。
さて、長い前置きとなりましたが、ここからが今日の本題です。
では、生成AIの出現は、インターネットの進歩の歴史において、どのような意味があるのか?
それは、
「iPhoneの登場以後15年の時を経て、インターネットの新たな『イノベーションの飛躍』の時代の始まりを予感させるものに他ならない」
ということなのです。
もっと具体的に言うと、PCというものが、それまでに開発されてきたハードの技術を結集し、新たにソフトの革新を加えて、「個人がコンピューターを普段使いする」というデバイスとして、その後の飛躍的なイノベーションの「源」となり、またiPhoneが、それまで開発されてきたタッチパネル技術や携帯電話やその他アプリケーションを結集して屋内だけではなく生活の全シーンで活用できるサービスの起点となったことによって、やはりその後の飛躍的なイノベーションの「源」となったのと同じことが起こる、正にそうした出発点に我々はいるのです。
今回のイノベーションの「源」は、実は2つあって、もう一つは「Web3」(ブロックチェーン、NFT、DAO、メタバースなど)なのですが、今回はもう一つの「源」である「進化したAI」に限定して記します。
「進化したAI」は、これまでの社会の仕組みや制度、慣習に対してオルターナティブ(違った選択肢)を提供しうる、そういう意味で新たなイノベーションの「源」となりうるものだと筆者は考えているのです。
AIというものは、構想されてからそれなりの長い時間が経過しており、特に碁や将棋の世界での進化が人間を凌駕してしまった2010年代半ば以降、自動運転、IoT(すべてがインターネットに繋がる)を始め、着々と進化を遂げ、「シンギュラリティ(AIの能力が人間を超えること)はいつか?」が真面目に語られるような時代にさえなっているのは、皆さんもご存知の通りです。
筆者がAIの進化、特に今回の生成AIの出現というイベントを重要視するのは、上記PC、iPhone、Web3と同様に、人々、とりわけ産業界の人々、企業が、今回「使い勝手が良く、自らのビジネス、サービスに活用することによって大きなイノベーションが起こること」を「自分も使い、担い手となりうるという実感を伴った共通認識」として持ち出している、ということなのです。
どのような技術も、人々が注目し、それを活用しようと懸命に努力することが必要です。インターネットの歴史では、とりわけビジネス、つまり企業が、自社のイノベーションのための「源」としてはっきり「進化したAI」を認知し、開発を進めていくことが必要だからです。
生成AIについては、chat GPTというテキスト情報についてのAIアプリが脚光を浴びているわけなのですが、その機能を共有する仕組み(API・・・Application Programming Interface)があるので、ここ数か月いう短期間に、音声、画像、動画、音楽、他言語のプログラム、他のテクノロジーと合わせることによって、システムのプロだけでなく一般の人によって、比較的簡単に素晴らしいコンテンツやプログラムが作成されてきています。
チャットという人間とのインターフェイスを使って、たくさんの人々がAIにアクセスし、世界中の様々な情報を加工し、創造的な作業を行っているのです。
生成AIは、AIについての「民主化」を私たちに見せてくれています。
また、こうしたここ何か月間の生成AIに関する人々の熱狂は、世の中の今後の「イノベーション」というものがとてつもないスピードと範囲で進んでいく可能性が「明確になった」ということです。
今後のAI進化、そしてAIを活用した「イノベーション」もまた同様にもの凄いスピードで進んでいくことは想像に難くありません。
日本企業は、「失われた30年」にインターネットやイノベーションといった領域ではっきり劣後してしまったということがあります。中にはそうした状況の反省の下に、リアルな世界ではまだまだ競争力のある自社製品のIoT化を推進することによって、インターネットでの劣勢を一挙に挽回しようと意図している会社も存在します。
IoTというもの自体がAIの活用を前提としている面もあるわけで、こうした良い流れをさらに加速し、またそうした企業でなくとも、今の局面が「イノベーション」という面では、大きな「源」が見えてきて拍車をかけて進んでいく必要があるのだという認識を日本企業全体で共有していって欲しいと希望します。
シンギュラリティ、すなわちAIが人間を超えるのはいつか?とか、人間の仕事をAIが奪うのかといった、AIに関する部分的な興味、AI単体の可能性への興味だけではなく、今後は、現代社会が抱える全ての社会課題についてAIを活用して解決し、豊かな社会を構築するにはどうするのか?といったより高い視点で今の生成AIの歴史的、社会的な意味を考えるべきではないかと思うのです。
筆者は、前回の連載にて、「HR3.0」という命名によって、企業の屋台骨であるHR(人事)に関して大変革が起こり、企業が変わっていくこと・・・それを皆が認識することが重要であると強調しました。(賃上げ、商品値上げ、そして日本企業再生に繋がる『HR3.0』 | “Japan In-depth”[ジャパン・インデプス] )
それだけでなく、いままで解決できずに放置されていた全てのことに対して、今解決の「源」が目の前に現れたと言いたいと思います。
トップ写真:コンピュータスマートインテリジェンスでチャットボットを使用するビジネスマン(イメージ)出典:Champpixs/Getty Images
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この記事を書いた人
小寺昇二
1955年生まれ、都立西高校、東京大学経済学部を経て、1979年第一生命入社。企業分析、ファンドマネジャー、為替チーフディーラー、マーケットエコノミスト、金融/保険商品開発、運用資産全体のリストラクチャリング、営業体制革新、年金営業などを経験。2000年ドイチェ・アセットマネジメントを皮切りに、事業再生ファンド、CSRコンサルティング会社(SRI担当執行役員)、千葉ロッテマリーンズ(経営企画室長として球団改革実行)、ITベンチャー(取締役CFO)、外資系金融評価会社(アカウントエグゼクティブ)、IT系金融ベンチャー(執行役員)、旅行会社(JTB)と転職を重ね、様々な業務を経験し、2015年より2022年まで埼玉工業大学情報社会学科教授
この間、多摩大学社会人大学院客員准教授、日本バスケットボール協会アドバイザー、一般社団法人横河武蔵野スポーツクラブ理事も経験(兼務)。
現在:ターンアラウンド研究所 共同代表 主席研究員、埼玉工業大学情報社会学科非常勤講師、公益社団法人日本証券アナリスト協会認定アナリスト、国際公認アナリスト
著作:「実践スポーツビジネスマネジメント~劇的に収益性を高めるターンアラウンドモデル~(2009年、日本経済新聞出版)、「徹底研究!!GAFA」(2018年 洋泉社MOOK 共著)など多数
専門:人財育成、経営コンサルティング、スポーツマネジメント、ターンアラウンドマネジメント、経済、コーポレートファイナンス