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.国際  投稿日:2023/5/10

SHEIN旋風 仏で議論


Ulala(著述家)

フランスUlalaの視点」

【まとめ】

・仏でオンラインファッションブランドSHEINが人気を博している。

・SHEINの服の素材や、劣悪な労働環境が問題となっている。

・メディアが伝えるSHEINの問題点を巡り世論と若者の感覚が乖離。

 

若者に人気のオンラインファッションブランド「SHEIN(シーイン)」が、5月5日(金)から8日(月)までフランスのパリのマレ地区にポップアップストア(一時的な店舗)をオープンした。昨年3月にトゥールーズ、モンペリエ、リヨンで行われたが、当時も開店する前から長蛇の列ができた大盛況ぶりで、今年は、リヨン、パリ、リール、ストラスブール、マルセイユなどすくなくとも6つの都市で開催される予定になっている。

しかしながら、多くの顧客たちから大人気を集めている一方で、SHEINの経営方法やその商品に意義を唱える人々も多く、テレビを中心にフランスのメディアでは連日SHEINに対する批判が流された。

■ SHEINは、健康、環境への脅威であり人を軽視

SHEINが批判される要因は、主に次の3つだ。まず、使用素材が有害なこと、低価格で使い捨ての服で環境によくないうえ、その低価格製品を作るために過酷労働させられている人々がいるということだ。

独立した調査組織の報告の中には、靴には非常に高いフタル酸エステル類が検出され、子ども用の衣類には発がん性のあるホルムアルデヒドが含まれるなど、EU規制値を超える有害化学物質が検出されたという。

また、SHEINの衣服には自然素材をほとんど使用されておらず、しかもその使用しているポリエステルの主要メーカー2社はロシアから石油を調達しているため、この依存関係がウクライナでの戦争に拍車をかけているというのだ。

さらに、労働者の大規模な搾取と途方もない環境悪化を犠牲にして低品質で低コストの衣料品を過剰に流通させている。これらの衣類は一度も着用されず、リサイクルすることもできずに廃棄される場合も多く、環境のことがまったく考えられていない。労働者は、1日11時間、1カ月に29日間働くことが頻繁にあり、休日は月にたった1日だけ、うち2件の縫製工場では1日18時間勤務という長時間労働を強制されており、その中には、ウイグル族、未成年者などが、無賃金で働かされているケースもあるという。

また、こういった安さを追求した会社モデルは、フランスの企業を衰退させる原因にもなっている。現にカマイユ(Camaïeu)、クーカイ(Kookaï)、ピンキー(Pimkie)など、フランスの歴史ある企業が次々と窮地に追いやられていることからもわかるだろうと、フランスのメディアは警告を発しているところもあった。

しかしながら、連日のそのようなネガティブなニュースが流れていたのにもかかわらず、SHEINのパリのポップアップストアの開幕日には店の前に長蛇の列が並んだ。それもそのはずである。SHEINで買い物する層は興味ないニュースばかりを流すオールドメディアなど見ることもない10代の若者、いわゆるZ世代がほとんどだからでもある。

■ 実店舗持たずSNSで人気を獲得し世界を圧倒

Z世代に絶大な人気を誇るプチプライスを中心としたオンライン通販ブランドSHEINは、この10年で世界的なファッションブランドに成長した。現在、100カ国以上で製品を販売しており、特にアメリカとヨーロッパで人気が高い。中国人である起業家のChris Xu氏によって設立され、100%中国で製品を作っているのにもかかわらず、中国内で製品は流通しておらず、本社も中国にはないという企業だ。これは、中国での流通価格で海外に売ることで世界に圧倒的な安さの商品を提供するが、中国で流通している製品という印象を与えないようにするためだと言われている。それでも、フランスでははっきりと「中国企業」と紹介しているが、ほとんどはアメリカでの売り上げが占めており、2014年にSHEINと名前を改めてアメリカで販売されたことが影響しているのか、日本では「アメリカ企業」として紹介している記事もある。

SHEINは、アメリカでも2020年ごろから急激な人気を博して一気にECサイトの上位にランクインしはじめた。2020年秋には、大手ECサイトのAmazonに次いで第2位にまで急上昇。フランスでも2015年から知られるようになっていたが、コロナで人々がネットで買い物をすることが多くなってから、爆発的に人気が伸びた形だ。

SHEINの人気の秘密は、ソーシャルネットワーク、特にTikTokのパワーを利用してマーケティングしていることと、デザインがおしゃれなのに圧倒的に値段が安いことだ。毎日、最先端の製品を紹介しているインフルエンサーが積極的にSHEINの洋服を宣伝し、フランスの町には売っていないようなおしゃれなデザインを、しかも低価格で買えるとあれば若者が熱狂するのも当然のことだろう。

それまでのフランスと言えば、「こんなものがほしい!」と思っても近所に売っているお店があるのは稀で、「ならば大きな町に行こう!」と思っても交通機関がそこまで整っていないので車をもっていない若者が容易に行ける場所ではなかった。そんな中、フランス企業の実店舗重視のカマイユが売り上げを伸ばした。カマイユは1984年創業。かつて繊維業で栄えたフランス北部の町、ルーベに拠点を置いており、婦人服に特化した品ぞろえを提供。そしてフランス全土に650店展開し、2600人ほどの従業員を抱え、どこかの大型スーパーに行けば、必ずカマイユがあるような状態で自然にフランス人たちはカマイユで洋服を買っていたのである。

2018年にはフランスで売られた婦人用既製服のうち10%以上がカマイユ製の服だったほどである。しかし、コロナの影響もあり店舗にやってくる客が2019年から2022年にかけて15%減少した。その結果、店舗を大量に所有していたカマイユは売り上げも落ち、店舗の利用料を払うことも難しくなり倒産においやられたのである。そして、同時期、他のフランスの歴史ある店も同様な道筋をたどった。

しかしながら、経営がうまくいかなかった原因は、ネット販売への切り替えがうまくいかなかっただけではない。世界中から情報が発信され、それをネットで見ながら視野を広げ、狭いコミュニティの中だけにいた昔のフランス人とは感覚も大きく変わった現在のフランスの若者たちには、カマイユなどのデザインはやぼったく感じられるようになっていたのも事実だ。

その点、世界のトレンドを追っているSHEINの商品は、若者たちにとっては大変魅力的に映ったのである。

■ 乖離する若者たちの感覚と世論

パリでSHEINのポップアップストアが開催されるにあたり、SHEINの製品を買うべきではないという意見が何度も流され、「フランスでのSHEIN販売を禁止する」という署名活動がChange.orgで展開されたり、ツイッターでも、「うちの子供には、環境に悪いなどの理由でSHEINの服を買うことを禁止しています。」というツイートが人気を博していた。

しかし、店舗のオープンにはほとんど影響もせず、店内に入ることを心まちにして1時間以上列に並んでいる高校生もいたのだ。列に並んでいる彼女たちは口々に言う。「おしゃれな服が着たい」、「うちはそこまで裕福な家庭ではないので、安い服で助かる。でも、裕福な家庭でも買いに来ている人はいますよ」、「SHEINの服はすごい流行っているんです」。

このポップアップストアでは、1日最大1000人の顧客を受け入れ、連日盛況の中、月曜日の夜に閉店した。

この状況は、完全にメディアで発信される世論と、若者たちの感覚が乖離していると言えるかもしれない。

このような乖離は、かつて、日本の電化製品や漫画やアニメがフランスに入ってきた時代のことを彷彿させられる。電化製品は「日本製は安くて粗悪品」と言われ、漫画やアニメは当時、セゴレーヌ・ロワイヤル氏を筆頭に、教育ママを自任する層に大批判を受けていた。子供に悪影響をおよぼすと嫌煙されていたのだ。それが今ではどうだろう。批判にさらされていても日本の漫画やアニメを愛した子供たちが現在では大人になり、自分の子供たちと一緒に楽しみ、フランスでの日本の漫画やアニメの地位はゆるぎないものとなっていったのだ。若者が欲求するものを兼ね備えているということは、いくら世論で反対したとしても若者のその欲求を止めることはできないということなのである。

しかし、SHEINと漫画がアニメでは大きく違う点がある。それは販売サイクルの短さだ。漫画やアニメは一度発表すれば、それは永遠に残り続けるのに対し、ファッションは常に新しいものが望まれる。その流れに乗っていけなくなれば売り上げも下落するのだ。まさしくそれは、日本の電化製品が経験したことある状況だろう。あれだけヒット商品を作り出し、一時は、世界を日本の電化製品で埋め尽くしたのにもかかわらず、現在ではその栄光も他の国に奪われつつある。しかしながら、それでも日本の製品は高品質という信用を獲得した結果、ある一定の分野ではまだまだ日本製品が活躍していることは何よりだ。

今後のSHEINがどのように変化するかはわからないが、現時点、どれだけ環境活動家やメディアがネガティブキャンペーンを繰り広げていたとしても、大多数の若者にはまったく響いていないことは確かである。多くの顧客を魅了するのには、どれだけ顧客の要求に答えられるかが重要なのはどの時代になってもかわらない。いくら批判だけしていても止めることはできないのだ。商売の鉄則を実現できる企業が人気を獲得するのはある意味自然の流れであり、この流れを食い止めたいならば、やはり、それを超える企業を作っていくしかない。

 

<参考リンク>

Paris: malgré les critiques, la boutique éphémère Shein attire de nombreux clients

(パリでは批判にも関わらずSHEINの店舗に多くの人が集まった)

Les jeunes se ruent dans la nouvelle boutique Shein malgré les polémiques – Le Figaro Etudiant

(SHEINをめぐる論争にも関わらず、若者が店舗に殺到)

Shein: une première Creative House à Paris pour mieux véhiculer ses messages

(より良いメッセージを伝えるため、SHEINはパリにクリエイティブハウスを設置)

Consommation : les clients se ruent dans la boutique éphémère de la marque controversée Shein à Paris

(物議を醸すブランドSHEINの店舗に人が殺到)

Shein ouvre un pop-up store à Paris : une pétition lancée pour interdire la marque de fast fashion en France

(パリにSHEINのポップアップストアがオープン、国内でファストファッションブランドの禁止を求める署名活動が開始)

SHEIN : “des vêtements jetables” ou “une mode accessible à tous”, une boutique éphémère à Lyon fait polémique

(SHEIN “使い捨ての服”か、”誰もが手に入れることのできるファッション”か リヨンのポップアップストアが物議を醸す)

SHEIN débarque en France et provoque enthousiasme et manifestations

(SHEINがフランスに進出し、熱狂とデモを引き起こす)

トップ写真:イビザ島にオープンしたポップアップショップで行われたSHEINのファッションショー(2023年5月5日 スペイン・イビザ ※本記事とは直接の関係はありません)出典:Entertainment/Xavi Torrent/Getty Images 




この記事を書いた人
Ulalaライター・ブロガー

日本では大手メーカーでエンジニアとして勤務後、フランスに渡り、パリでWEB関係でプログラマー、システム管理者として勤務。現在は二人の子育ての傍ら、ブログの運営、著述家として活動中。ほとんど日本人がいない町で、フランス人社会にどっぷり入って生活している体験をふまえたフランスの生活、子育て、教育に関することを中心に書いてます。

Ulala

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