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.国際  投稿日:2023/5/23

アメリカはいま――内政と外交・ワシントン最新報告 その3 トランプ氏起訴が意外な現象を


古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・検察は34件の重罪でトランプ氏起訴するも根拠あいまい。トランプ氏は全面無罪主張。

・トランプ氏支持率急上昇。バイデン大統領を逆転で上回り、デサンティス知事との差を広げた。

・世論調査会社ラスムセンは、今回もトランプ支持率急上昇を報じた。

 

トランプ氏を起訴した検察側が何を問題にしてきたかというと、13万ドルあるいは15万ドルの支出が、口止め料ということでは申告できないので、選挙の記録あるいはビジネスの記録のなかの一部を改竄して、そこに入れ込んだ点が不正だと指摘しました。そうすると、その文書改竄はニューヨークの州法でも、ミスディミーナー(misdemeanor)という言葉があって、軽犯罪、微罪なわけです。

一方、フェロニー(felony)というのは重罪という意味です。今回は34件の重罪で起訴したという。重罪ということを主張する根拠はどこから出てくるかというと、微罪である文書改竄はもっと重大な犯罪のためにやったんだ、と検察側は主張したのです。その主張がぜんぶの罪状に適用されたのです。そうするとそれが重罪のほうになる。しかし、そのもっと「重大な犯罪」は何なんだというと、そこのところは起訴状には何も出てこないのです。だからこのへんは曖昧すぎるとして法律の専門家などが突っ込んできているのです。

トランプ氏は、4月3日にフロリダのマー・ア・ラゴという別宅から専用機に乗ってニューヨークに行きました。次の日の4日にマンハッタンの裁判所に出頭して、検察に対して罪状認否をやって、34項目全部、私は無罪だと主張しました。この動きをめぐっても、事前に、ソシアルメディアでいろいろなところから映像その他が流れて、これから起きることというのは、トランプが検察庁へ行って手錠をかけられる。おたずね者みたいな人相写真を撮られるとか、そういうものが合成映像でずいぶん流されました。しかし現実にはそういうふうには全くならなかった。

そして、3日ぐらいたってみたら、意外な出来事が幾つか起きたのです。

まず第一の意外な現象は、トランプ氏の支持率が急上昇したことでした。一つの世論調査では、バイデンとトランプがもう一度、2020年の大統領選挙と同じように2024年にもし1対1で対決したらどっちを支持しますか、という問いに、それまでは42対40ぐらいの差でバイデンのほうがちょっとリードしていましたが、トランプ氏起訴という事態の直後にはそれが逆転してしまった。

それよりも顕著なのは共和党の候補者のなかでトランプ氏がリードしてきたのだけれども、そのリードの幅が大きくなった。いま共和党で有力候補と目されているフロリダ州の若手、44歳の知事でロン・デサンティスという州知事がいます。この人は保守陣営でかなり人気がある。まだ公式な出馬宣言はしていません。公式の出馬宣言をしている女性でサウスキャロライナ州の知事をやって国連の大使をやったニッキー・ヘイリーという51才の女性がいます。この人はインド系の人で、なかなか人気がある。もう一人、あまり知られていない州知事が出ています。

とにかくそのデサンティス知事とトランプ前大統領の支持率の差が、起訴される前はトランプが47%、デサンティスが39%でしたが、起訴されたという報道が広がった直後の世論調査でトランプが57%までになり、デサンティスが31%となってしまいました。8ポイントの差が26ポイントにまで広がってしまったのです。

▲写真:起訴されたトランプ氏が全面無罪主張後、デサンティス・フロリダ州知事(右)との支持率の差は拡大。写真は2018年中間選挙でのキャンペーン時。(2018年11月3日 フロリダ州)

出典:Photo by Mark Wallheiser/Getty Images

世論調査にもいろいろな種類があります。トランプ氏はたいしたことないんだという前提で決めていると、それを証明するようなリベラル系のニューヨーク・タイムスとかCNNなどが実施した世論調査からはそういう結果が得られる。

私は、ラスムセンという名前の世論調査を一番、多く使っています。ギャラップという名を聞いたことがあると思いますが、ラスムセンとギャラップというのは、長い年月、現職の大統領に対しての支持、不支持の世論調査を毎日毎日、ずっと実施してきました。毎日は2社だけでした。ところが、ギャラップのほうが景気が悪くなって、それを2年ぐらい前にやめてしまったのです。いま、毎日、大統領の世論調査をやっているのはラスムセンという会社だけです。ここ数年の大統領選挙の世論調査ではこのラスムセンが結果の予測では一番正しかったといえます。だからラスムセンというのを覚えていただくとよい。

今回のトランプ氏への支持率急上昇もラスムセンは的確に報じました。それ以外の世論調査機関でも、トランプ人気が急上昇したという結果はみんな一致しています。いろんな世論調査を全部集めて足して平均値を出す、リアル・クリア・ポリティクスという日本のメディアがよく使うところでも、トランプ氏の支持率はわずか1日ほどで3ポイントぐらい上がりました。

(その4につづく。その1その2

*この記事は鉄鋼関連企業の関係者の集い「アイアン・クラブ」(日本橋・茅場町の鉄鋼会館内所在)の総会でこの4月中旬に古森義久氏が「アメリカの内政、対中政策――ワシントン最新報告」というタイトルで講演した内容の紹介です。

トップ写真:ニューヨーク・マンハッタンの裁判所に弁護団を伴い出廷し、罪状認否に臨むトランプ前大統領(2023年4月4日)

出典:Photo by Seth Wenig-Pool/Getty Images




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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