アメリカはいま――内政と外交・ワシントン最新報告 その4 共和党が団結した
古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)
「古森義久の内外透視」
【まとめ】
・トランプ氏起訴のブラッグ検事は民主党の活動家。
・共和党はトランプ氏起訴の政治的動機を追及している。
・共和党でもっともトランプ嫌いのミット・ロムニーまで民主党側を非難。
トランプ氏に関する今回の起訴の結果の第二の意外な現象というのは、第一と重なりあいますが、トランプ選挙対策本部への献金がドッと増えたことです。
トランプ氏はもう出馬宣言をしていますから選挙対策本部ができています。起訴直後の1日で400万ドルの資金が新しく入ってきたという。3日間で700万ドルになった。そしてそのうちの25%は初めての献金者だったという。こういう結果が出てきたのです。
第三の予想外の現象は一般の世論がトランプ氏の起訴の主役となったブラッグという黒人の検事に批判的な視線を向けたことでした。
ブラッグ検事が純粋な刑事容疑の捜査ではなく、今回の捜査を政治的動機でやっているんじゃないのかという疑問が党派の別を越えて、幅広く提示されたことです。数種類の世論調査によると、共和党支持層で、そうだ、政治的動機からだと答えたのが93%、民主党でも共和党でもない無党派層のほうの調査では70%が 政治的動機がある、と答えたというのです。
民主党の支持者の間では30%でした。起訴をしてもいいのか、悪いのかという問いに対しては、よい、悪いが拮抗していました。起訴してもいいよという人もかなりいるのだけれども、その起訴は政治的動機がどうしてもある、という人が一番多い。こういう世論調査の結果が出てきて、やはり、ブラッグという検事に対する政治的動機ということに焦点がいくわけです。
この認識にはそれなりの根拠があります。
というのは、このブラッグという検事は生粋の民主党の活動家なのです。ニューヨーク州の地方検事は選挙で選ばれるのですが、ブラッグ氏は立候補の際、「とにかくトランプを倒すのだ」、「トランプを倒すことが自分の使命だ」と宣言していました。
選挙で立候補となったときの公約が、自分は必ずトランプをやっつける、と。いろんな表現があるけれど、彼はゲット Getという言葉を使いました。ゲット・トランプという選挙公約です。普通の口語体でいったら「やっつける」という意味です。検事が捜査上の対象をゲットと言えば、有罪にしちゃうぞという意味になります。彼はそういう宣言をしたのです。
その背景として、いまのアメリカではトランプ氏が大嫌いという人も多数います。トランプ大嫌いというなかで一番お金を持っている人はおそらくジョージ・ソロス氏でしょう。彼はトランプ氏をやっつけるためにいろいろなことをやってきました。
そのソロス氏がニューヨーク州検事の選挙の際にブラッグ検事を応援している団体に100万ドルを寄付しました、そのうちの42万ドルがその団体からブラッグ検事に選挙資金として与えられました。巨額の寄付金です。この種の党派がらみの政治的要因が山積しているのです。いま共和党はトランプ氏起訴のその種の政治的動機を追及しています。
4番目に、起訴後に起きた意外な出来事というのは、共和党側が団結してしまったことです。
上下両院議員は、上院では民主党が1人ぐらい多い。下院は中間選挙で共和党が多数派を取りました。こういう問題が出てくると、同じ共和党でもトランプは嫌いとか、あまり好きじゃないという人がいます。
そのなかで共和党でもっともトランプ嫌いとされている大物の上院議員でミット・ロムニーという人がいます。この人は大統領選挙の候補にもなって、オバマ氏と戦い、負けています。モルモン教の人で、演説は上手だし、見かけもすごくいい。ただ、トランプ氏に対しては、2回目の弾劾のときに、弾劾してもいいという賛成票を入れたのです。
トランプ氏はこういうことは絶対に忘れません。だからロムニー上院議員とは対決を続けてきました。・ロムニー氏のほうも、もうトランプ氏は現役から退いたほうがいいんだということを言っていました。ところが今回はこのロムニー氏までがニューヨークの地方検事の起訴は不当である、政治的迫害である、民主党の活動家が司法機関を利用して共和党の大統領候補をつぶそうとしているのだ、ということまで述べて、民主党側を非難しました。
これはかなり意外でした。
*この記事は鉄鋼関連企業の関係者の集い「アイアン・クラブ」(日本橋・茅場町の鉄鋼会館内所在)の総会でこの4月中旬に古森義久氏が「アメリカの内政、対中政策――ワシントン最新報告」というタイトルで講演した内容の紹介です。
トップ写真:トランプ元大統領の罪状認否の記者会見でのマンハッタン地方検事のアルビン・ブラッグ氏(2023年4月4日 アメリカ・ニューヨーク)
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この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授
産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。