G20「ロシア非難、昨年と比べトーンが後退」していない
宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2023#37
2023年9月11-17日
【まとめ】
・G20、「ニューデリー首脳宣言はロシアを名指し非難しておらず、昨年と比べトーンが後退した」と報道。
・昨年の首脳宣言でも、決してロシアを「名指し非難」していない。
・今年は内容的により踏み込んでいるのではないか。
今週は先週末インドで開かれたG20ニューデリーサミットを取り上げるが、その前に重要なことを。モロッコでの地震の犠牲者が2800人を超えたことに、元中東屋として、特に心を痛めており、この場をお借りして、モロッコ国王、政府、国民に対し衷心よりお見舞いと哀悼の意を表したい。
さて、続いては2週間お休みしてしまったが、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを筆者が勝手に選んでご紹介している。欧米の専門家たちの今週の関心は次の通りだ。
9月12日火曜日 金正恩がウラジオストクを訪問しプーチンと会談(13日まで)
【エネルギーと武器技術が欲しい北朝鮮と、武器・弾薬(と兵士?)が欲しいロシアの思惑が一致したということかね。以前ならプーチンは北朝鮮など歯牙にもかけなかったろうに、ロシアも落ちるところまで落ちたものだ。「貧すれば鈍する」の典型か?】
9月13日水曜日 ロシア主催の「東方経済フォーラム」が4日の日程を終え閉幕
【今年は、金正恩以外に、一体誰がロシアに来るのだろう。その点が最も興味深い】
EU委員長が年次演説
【彼女はウクライナについて何というのか、EU内に亀裂はないのか、が気になる】
岸田首相、内閣改造
【以前なら、欧米のメディアの関心が日本の内閣改造に向くことはあまりなかったと思う。時代は変わったのだ。】
9月14日木曜日 ベネズエラ大統領、訪中終える
【中国が中南米の反米政権を取り込もうとする一環だろうが、世界最大の原油確認埋蔵国を自称するネズエラは「中国の支援を得てBRICSに加わりたい」のだそうだ。昔ベネズエラはこんな国ではなかったのだが・・・。】
9月15日金曜日 クリミア併合を受けたEUの対露高官制裁が失効
【2014年のクリミア併合でEUはロシア政府高官などに対し渡航禁止と資産凍結などの制裁を課したが、その期限が15日にやってくるそうだ。当然延長だろうが、問題はあれから既に9年も経ったということ。日米欧豪などは露政府関係者やオリガルヒらへの制裁を強化すべく事務レベル作業部会を開いた。戦争はまだまだ続くのだ。】
キューバ、G77+中国首脳会合を主催(16日まで)
【今回、新興国中心の国連の枠組「77カ国グループ(G77)プラス中国」の首脳会議を主催するのはこれまた反米のキューバだ。中国はBRICsやG77などを使い、着々と反欧米陣営作りを進めているが、今回のキューバ会合に具体的成果はあるかね。】
9月16日土曜日 NATO国防相会合(オスロ)
9月18日月曜日 インド議会の特別会合始まる(一週間)
トルコとギリシャの首脳が国連総会の前にニューヨークで会談
【両国は同じNATO加盟国ながら、歴史的には宿敵同士。だが、米国務長官は本年2月、対立するギリシャとトルコに対し「相違を克服し、緊張を高めかねない一方的な行動を避ける」よう求めていた。米外交の努力が実ったのか、それとも、いつものエルドアンの気紛れなのか。いずれにせよ要注意である。】
さて話をG20サミットに戻そう。内外報道では「ニューデリー首脳宣言はロシアを名指し非難しておらず、昨年と比べトーンが後退した」などと報じられたが、本当にそうなのか。記事を書いた記者たちは昨年分も含め、首脳宣言を全文精読したのか。英文で34ページ、83パラグラフもある今回の宣言を丹念に読めば答えは明瞭だ。
昨年の首脳宣言だって、精読すれば、決してロシアを「名指し非難」などはしていない。一時は採択すら危ぶまれた宣言だが、実際には会合初日に採択されている。さすがはインドだが、筆者は今回の宣言も内容的に「決して悪くはなかった」と考えている。その理由は以下の通りだ。
ニューデリー宣言中「ウクライナ部分」はわずか1ページ弱。中国はもちろん、台湾への言及もなく、宣言の大半は経済関連だ。そもそもG20は経済サミットで、基本的に政治問題は取り扱ってこなかった。今年の宣言でもG20は「地政学的及び安全保障問題を解決するためのものではない」とわざわざ述べている。
確かに、今年の宣言は、ロシアを名指しで言及せず、関連する国連決議を再確認するのみだ。しかし、「領土取得を追求するための武力による威嚇又は武力の行使」を「慎む」とされた「全ての国」の中には当然ロシアや中国も含まれる。今年は内容的により踏み込んでいるのではないか。
逆に、昨年の宣言は必ずしも「ロシアを名指しで非難」していない。多くの参加国が「ロシアのウクライナ侵略を遺憾」と決議した国連総会などの場で「自国の立場を改めて表明」したが、ロシアは反論した、と説明しているだけ。ウクライナ戦争を「強く非難」したのも「ほとんどのG20メンバー」とある。G20の意見は一致していないのだ。
むしろ、筆者が最も感心したのはバイデン米政権の絶妙なインド・中東外交と、日本の動きだ。米CNNの解説者は、G20首脳会合中に外相をウクライナに派遣した日本外交を高く評価していた。詳細は今週の日経ビジネスに寄稿した小論をご一読願いたい。
今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
トップ写真:G20ニューデリー・サミット及び出席国との首脳会談1日目、ナレンドラ・モディ・インド首相による出迎えを受ける岸田総理 出典:首相官邸
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この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表
1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。
2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。
2006年立命館大学客員教授。
2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。
2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)
言語:英語、中国語、アラビア語。
特技:サックス、ベースギター。
趣味:バンド活動。
各種メディアで評論活動。