政治家の情けないプレゼンテーションスキル
安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)
【まとめ】
・自民党新4役会見で小渕優子選対委員長が質問に声を震わす。
・岸田総理は相変わらず単調な会見で、何がメッセージか伝わらず。
・政治家として「国民に訴えかける力」を持ってもらいたい。
きょう自民党新四役の会見とその後の岸田総理の会見を見て、2つ感じたことを記す。
1つ目は、小渕優子新選挙対策委員長の会見の対応のまずさだ。
驚いたのは、小渕氏が2014年に「政治とカネ」の問題で経済産業相を辞任した経緯を問われた時だ。「心に反省をもち、決して忘れることのない傷だ。私自身の今後の歩みをみてご判断いただきたい」と述べたが、その後、説明責任を果たしたと思うか、と畳みかけられると、言葉を詰まらせ、「十分に伝わっていない部分があれば私自身の不徳の致すところだ」と声を震わせた。新聞の中には「涙目で」とか「涙ぐむ」と見出しをとっているところもあった。
写真)少子化問題を担当する副大臣に任命された小渕優子氏は、2008年9月24日 東京 首相官邸
出典)Photo by Koichi Kamoshida/Getty Images
新人議員でもあるまいし、中堅どころか、次期総理を狙えるのではとの呼び声も出ている、と質問の中で話している記者もいた中での一幕だった。
この質問は100%記者から出ることはわかっていたはずだ。事前に想定問答のトレーニングを受けなかったのだろうか。
通常、民間で、新しくしかるべきポジションについた人は、インタビューのトレーニングを受けることが多い。聞かれたくない質問、想定外の質問、苦手な質問などに対して簡潔かつ適切に答えることが出来るまで模擬会見を行って練習するのだ。
茂木幹事長や萩生田政調会長は、よどみなく質問をさばききっていただけに、余計小渕氏の回答の稚拙さが際だった。
疑惑について改めて記者会見を開く考えがあるかを問われると、「必要な話があれば言って頂ければと思う」と小渕氏は答えたが、それまでにしっかりトレーニングを受けることをお勧めする。
ふたつめは、岸田総理の会見が相も変わらず国民の心を打たないものだったことだ。
そのわけは、彼の話し方の特徴にある。それは、
①棒読み=抑揚がない
②言葉をやたら区切る
③「ん~」、「え~」、などという間投詞が多い
の3点に尽きる。
①と②だが、なぜそうなるかというと、官僚の作文をただ読んでいるだけだからだ。官僚の書く文章は「霞ヶ関文学(話法)」と揶揄されるが、その特徴は、臆面もなく官僚にしか通じない表現をちりばめることで、当たり障りのない内容にし、決して相手に言質を取らせないことだ。
そうした例は枚挙に暇が無いが、「喫緊の課題として」とか「緊張感(スピード感)を持って」とか「あらゆる可能性を排除せず」とか「関係省庁(各国)と緊密に連携をとって」とかいうやつだ。そう思ってないでしょ、と相手に思わせるに十分な、心のこもってない表現だが、書いている霞ヶ関の人達はそんなことはおかまいなしなのだろう。
総理だけではなく、官房長官、大臣、あらゆる政府関係者がこうした表現を乱発するものだからどの答弁も同じに聞こえてくる。それがそもそもの目的なのかもしれないが、それで国民の心を打つことは出来ない。
まして総理大臣である。何のための会見か。今日の会見はこれからの政策課題と内閣改造・党役員人事の意図の説明の場だったが、平坦な話しぶりが延々と続き、全く頭に入ってこなかった。強調すべき所は強調し、抑揚をつけてくれないと、人間は何が大事なのかわからない。延々と同じ調子で話されては一体この人は何を伝えたいのか、と人は感じてしまうものなのだ。
さらに、岸田総理の話が国民の心を打たない理由は、その話し方に加え、国民の実感と乖離している内容をえんえんと話すからだ。
岸田総理は、政権発足からの2年間を振り返り「新しい時代の息吹が確実に生まれつつある」と述べ、「経済でも外交でも世界での日本の存在感を高められた」と評価したが、「新しい時代の息吹」や「世界での日本の存在感」を感じている人がどこにいるのだろう?
新内閣を「変化を力にする内閣」と表現したが、お年寄りばかりでとても変化とはほど遠い陣容にしか見えない。代わり映えしなく、現状維持がせいぜいのところだろう。
極めつけは、「我々の前に流れている変化の大河はまさに100年に1回ともいえる時代を画するものだ」と述べたことだ。「大河(たいが)」と耳で聞いたときはすぐには分からなかった。あまりにこの言葉を繰り返すのでまさか「大河」ではないだろうな、と思って後で他社の記事を見たら本当に「大河」だった。私だったら、こんな誰も使わないような大仰な言葉を総理の演説には選ばない。
国民が今感じている変化は、食料品の値上げであり、電気・ガス・ガソリンの高騰であり、税金や社会保障費の重さである。つまり生活が苦しくなっているという負の変化だ。生活費を切り詰め、遊興費を減らし、日々を暮らしている。「変化の大河」などという陳腐な言葉は、庶民の感情を逆なでこそすれ、共感を得られるものではない。
自分の言葉で語らない、官僚の書いた作文を読まされているから必然的に棒読みになる。そして、目でプロンプターの文字を追っているから、時折変なところで区切って読むことになる。それが聞いている人に、ああ、自分で書いた文章じゃないんだな、と分からせてしまうのだ。
③は岸田総理のもともとのくせだ。考える時に口を一文字に結んで天を仰ぎ、「ん~」とか「え~」とかやる、あれだ。これを多発されると、聞いているほうは、どうしてもイライラしてくる。これも、質問に間髪入れずに答えるためのトレーニングをしていないからだろう。こうしたくせは直すことが出来るものなのだ。
官僚が総理や大臣に、「もう少し話す練習した方がいいですよ」、などというわけはない。政治家は自ら「話す力」=「国民に訴えかける力」を養ってもらいたい。
まさに、「言葉に権威あらしめよ」、だ。
トップ写真:記者会見する岸田総理 2023年3月17日、東京 首相官邸
出典:Photo by Yoshikazu Tsuno – Pool/Getty Images
あわせて読みたい
この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員
1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。
1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。
1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。
2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。
