「異次元の」花粉症対策を~【日本経済をターンアラウンドする!】その17
西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)
【まとめ】
・岸田政権は花粉症に対する政策のスタートとして「花粉症対策 初期集中対応パッケージ」を発表。
・達成可能で網羅的な目標を明確に、迅速に出した岸田政権。
・予算をさらに増やした上で、花粉症政策の優先度を高めていく必要がある。
岸田政権がやっと日の目を当ててくれた政策、それが花粉症。
筆者は花粉症の政策提言を長くしてきたが、ついに形になったこと、報われたことで嬉しい限りである。最近、岸田政権の支持率が低下しているが、地味ながら着実に政策を進めているのも事実である。その中でも、花粉症対策は凄いのだ。発表した「花粉症対策 初期集中対応パッケージ」、素晴らしい出来なのである。
大きく4つの方向性が提案されている。
(1) スギ人工林の伐採・植替え等の加速化
(2) スギ材需要の拡大
(3) 花粉の少ない苗木の生産拡大
(4) 林業の生産性向上及び労働力の確保
このようなリーダーシップを見ていると、今までの政治家は何をやっていたの?という思いも出てきてしまうほど。誰もできなかったことに本気で取り組む姿勢、素晴らしいのだ。
解説していこう。
□ 様々な政策
▲図【出典】政府の花粉症対策
そもそもの背景であるが、花粉症対策に本腰を入れることを表明して以来、今年5月、今後10年を視野に入れた施策も含め、花粉症解決のための 道筋を示す「花粉症対策の全体像」を明らかにし、年内に「林業活性化・木材利用推進パッケージ」(仮称)を策定していくことが予定されていた。「花粉症対策 初期集中対応パッケージ」はそのスタートとみていいだろう。
中身を見てみると、人工林の伐採・植替えの加速化では、本年度中に重点的に伐採・植替え等を実施する区域を設定する。さらに伐採面積を5万ha/年から10年後には7万ha/年まで増加させるという。その他、スギ人工林の伐採・植替えの一貫作業の推進、伐採・植替えに必要な路網整備の推進、意欲ある林業経営体への森林の集約化の促進などを進める。さらにスギ材を活用した木造建築物の着工の増加、住宅分野におけるスギ材製品への転換促進で、スギ材製品の需要を現行の1,240万㎥から10年後に1,710万㎥に拡大するなど林業の再生までも視野にいれる。また、花粉の少ない苗木の生産拡大として、官民連携で花粉の少ないスギ苗木の生産割合を現行の5割から10年後に9割以上に引き上げることなどが明らかになった。
さらに、それだけではない。飛散対策や発症・曝露対策についても挑戦を進める。精度が高い・分かりやすい花粉飛散予測の提供、舌下免疫療法治療薬の倍増に向けた対策など広範囲にわたっている。
どこが凄いかというと、第一に、まず迅速な着手である。国民の期待に応える回答をしっかり、かなり早く出してきた。第二に、可能な限りの目標とその目標の明確化である。かなり挑戦的の目標値だが、実施に向けた具体的な取り組みで達成の裏付けも可能に見える。第三に考えられることは大方網羅されている内容である。初期対処と中長期的な視点が垣間見られている。公共政策・政策形成の専門家からしても、かなり良い出来だと評価したい。行政はいったん方向性が見えるとしっかり着実にやる。これで花粉症対策は大いに進むだろう。
□ 素晴らしい・・・が、もっともっとできる
▲表 【出典】「花粉症対策の全体像」
しかし、国民の期待を考えると、もっともっとできるはずなのだ。国有林から進めていく姿勢は素晴らしいが、民有林への働きかけもできる。その中でも特に、目標年度と目標値。より前倒し、より目標値の改善をしたほうがいい。
そうしたうえで、問題は予算である。子育て予算、防衛予算の倍増が言われているが、花粉症対策もそれくらい優先度が高い政策と考えていい。予算を可能な限り、さらに増やすべきだろう。よくわからない公共事業、利害関係者への膨大な補助金を政策評価や行政事業レビューなどで見直していけば可能になる(そのほかにも筆者にはアイデアはある)。花粉症対策はある意味、子育て支援の要素もあるし、国土保全と言う意味もある。
・【設定された目標】10年後の令和15年度(2033年度)には花粉の発生源となるスギ人工林を431万haから約2割減少→【筆者希望】7割減少
・【設定された目標】スギ人工林の伐採を現状の約5万ha/年から、10年後には約7万ha/年まで増加→【筆者希望】20万ha/年まで増加などだって可能だと思う。
政策の優先度を上げてもっと進めて欲しい。これだけ国民が被害を受けている、ある意味公害みたいなものでもある。問題解決に向けて実行してほしい。岸田政権に期待したい。
トップ写真:くしゃみをしながら鼻をかむ女性(イメージ※本文とは関係ありません)出典:Oscar Wong/Getty Images
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この記事を書いた人
西村健人材育成コンサルタント/未来学者
経営コンサルタント/政策アナリスト/社会起業家
NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、株式会社ターンアラウンド研究所代表取締役社長。
慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア株式会社入社。その後、株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)にて地方自治体の行財政改革、行政評価や人事評価の導入・運用、業務改善を支援。独立後、企業の組織改革、人的資本、人事評価、SDGs、新規事業企画の支援を進めている。
専門は、公共政策、人事評価やリーダーシップ、SDGs。