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.社会  投稿日:2023/12/12

ネットは毒だが役に立つ(下)年末年始に備えて その2


林信吾(作家・ジャーナリスト

林信吾の「西方見聞録」

【まとめ】

・新奇な知識を得ようとする本能を働かせないと、ジャーナリズムの世界で書き手にはなれない。

・メディアでもネットでも、分かりやすい、ことは大事。

・動画サイトのよいところは、長くても20分、1曲聞くだけならば5分も要しない。

 

 前回の最後の方で、純粋に娯楽として見るYouTubeのチャンネルもある、と述べたが、本稿の執筆に取りかかる前にパソコンとスマホを見直してみたところ、やはり教養系のそれが多いことに、あらためて気づかされた。

 隠しても教養はにじみ出てしまうもので……と言いたいところだが、我ながらオンとオフのけじめがついていないのかな、などと思わされたことも、また事実である。

 少しだけ自己弁護させていただくと(そもそも外野にとやかく言われる筋合いはないが)、仕事を終えて、堅い本を読む気分ではないな、というような時でも、なにかしら新奇な知識を得ようとする本能を働かせるようでないと、ジャーナリズムの世界でプロとして通用する書き手にはなれないのである。

 ヒマさえあればゲームをする、という人はいくらでもいるが、私の場合、ヒマさえあればなにかしら検索している。先日、期せずしてとんでもない「情報」に出くわした。

 いわゆるエゴサーチは滅多にしないが(どうせ悪く書かれることが多いので笑)、自著の出版年度を確認する必要があったので、自分の名前で検索してみたところ「林信吾 死刑」というのがヒットしたではないか。

 死刑になるようなことをした覚えはないので、さてはネトウヨが処刑宣告でもしてきたか(上等じゃねーか)、はたまた、死刑廃止論者であることを公言しているので、それが問題になったか……などと思いつつアクセスしてみたところ、全然違った。

 台湾で、そういう名前の人物が警察官殺しの罪に問われ、死刑を求刑されている、ということであるらしい。おいおいおい……

 林という姓は中国大陸、朝鮮半島、そして日本列島にまたがって比較的ポピュラーだが、中国語圏にも信吾という名前があったとは知らなかった。

 私の信吾という名前は、大学で哲学を専攻した母親が、デカルトの「我思う故に我あり」から想を得て付けたのだと聞いている。台湾の林信吾の命名の経緯は知らないが、いずれにしても警察官殺しとは、親の顔が見たい、では済まされない話だ。

本棚から自著を出してきて奥付を見る、という選択肢もあったのだが、それでは前記の情報に出会うことなど、生涯なかったかも知れない。ネットもバカにしたものではない。

話を戻して、私がチャンネル登録して、新しい動画がアップされるのを楽しみにしているものを、いくつか紹介させていただこう。あくまでも私の個人的な好みで、読者諸賢にそれを押しつけようとの意図はまったくないことは明記しておく。

 まず教養系では「世界ミステリーch」がとにかく面白い。

 考古学や人類学などの分野における学説のトレンドを紹介してくれるのだが、いわゆる都市伝説の類いについては、物証や研究機関によるデータを示しつつ反論して行くところが特によい。それも、

「まあ、何を信じるかは自由なのですが……」「今後の研究を待たないといけませんが……」

 と終始穏やかな口調で解説して行く。年齢を重ねても喧嘩っ早いのがなかなか治らない私など、少し見習うべきなのかも知れない笑。

「ほーりーとお江戸、いいね!」というチャンネルも楽しい。毎度、

「三度の飯より江戸が好き。お江戸系YouTuberほーりーこと堀口茉純です」

 という決まり文句から始まる。

 なんでもこの人、江戸文化歴史検定1級に史上最年少(25歳)で合格したそうで、かつては女優・歌手活動もこなす「お江戸ル」として活躍していたとか。

 私とて『武士道の真実 〈読み直す〉日本史』(アドレナライズより配信中)の著者であるから、江戸時代にもそこそこ詳しいと自負しているが、浮世絵とか庶民の風俗とか、あらためて教えられることも多かった。

 科学系では「サイエンスドリーム」というチャンネルもよい。

当方なにぶん「ド文系」なので、バナナは種がないのにどうやって栽培しているのか、とか、恥ずかしながら初めて知ったことも多々ある。

 軍事系のサイトも割とよく見る方だが、まあ情報量の点で専門誌には太刀打ちできない。紙のメディアでは、実際に銃砲を撃つ場面や戦車が走っている映像を見ることができないので、YouTubeが重宝するというだけだ。

例外的に「ミリタリーチャンネル ミリレポ」だけは登録している。

自衛隊の制式装備である高機動車(四輪駆動車の横綱みたいな車)が、なぜだかロシア軍の空挺部隊で使われていて、どうやら退役した車輌を東南アジアの中古車市場で買い漁ったらしい、といった話題など、マスメディアが取り上げるよりずっと早かった。映像資料が豊富で、海外メディアが扱うデータなども、よく見ている事が分かる。

軍事にさほど深い関心はなくとも、ウクライナやパレスチナの状況は気になる、という向きは、決して少なくないであろう。このチャンネルはオススメできる。

一方こちらは、将棋が好きな人限定ということになるが「【観る将】将棋チャンネル」も登録している。解説者の棋力はアマ5段。将棋サイトは元奨励会員とか、プロ級の人たちが運営しているものも結構たくさんあるが、この人の解説が一番分かりやすい。メディアでもネットでも、分かりやすい、というのは大事なことだ。

エンターテインメント系では、最近「MOS」にはまっている。

女の子の4人組で、サックスなどブラスバンドとダンスパフォーマンスを同時に見せてくれる(ブラダンと称している)のだが、私のような門外漢でも、演奏の技術が素晴らしいことは分かる。踊りながの演奏で、音が少しもぶれないのだから。

ダンスもうまい。スタイル抜群の子とガチでアイドル顔の子もいて……これ以上書くと、自分の歳を考えろ、みたいな言われ方をしそうなので控えるが。

昭和世代としては「矢沢永吉 Eikichi Yazawa Channel」を外すわけには行かない。

当年取って74歳。身も蓋もなく言えば、まもなく後期高齢者と位置づけられる人が、現役バリバリのロックンローラーなのだから、勇気づけられる。

同じく昭和世代にとっては。ロカビリーも忘れがたい音楽シーン

だが、令和の世にそれをよみがえらせようと頑張っている人たちもいる。

The Biscatsというバンドがそれで。ヴォーカルの女性と、バックはギター、ウッドベース、スネアドラムという必要最小限の編成。昭和・平成のヒット曲をロカビリー・アレンジでカバーする動画を毎週アップしているが、とにかく楽しい。つい一緒に

「がんばロカビリー!」

と言って盛り上がってしまう。

専業YouTuberの動画はまず見ない、と前回述べたが、ほとんど唯一の例外は「散歩するアンドロイド」というチャンネル。

本名(?)はSAORIさんと言うらしいが、もともとモデルで、アンドロイドのパフォーマンスで有名になった人。いわゆる旅動画が多く、最長片道切符の旅というのをシリーズでアップしていた。「アンドロイドのお姉さん」なので、動画の中ではまったく口をきかないが、ナレーションは本人の声である。

他愛もないと言えばそれまでだが、美人はなにをしても許されるので、チャンネル登録した。

こうした動画サイトのよいところは、長くてもせいぜい20分、1曲聞くだけならば5分も要しないということ。空き時間どころか、ちょっと一息、くらいのスキマ時間に、新奇な知識が得られたり美人さんに出会えたりするのだから尊い。

ただ、年末年始の空き時間は、もっと腰を据えてドラマや映画を観たい、という向きもあるやも知れぬ。映画については以前に幾度か書かせていただいているので、次回は見逃し配信されているドラマの中から、個人的なオススメを紹介させていただこう。

トップ写真:イメージ(本文とは関係ありません)

出典:Nanci Santos/GettyImages




この記事を書いた人
林信吾作家・ジャーナリスト

1958年東京生まれ。神奈川大学中退。1983年より10年間、英国ロンドン在住。現地発行週刊日本語新聞の編集・発行に携わる。また『地球の歩き方・ロンドン編』の企画・執筆の中心となる。帰国後はフリーで活躍を続け、著書50冊以上。ヨーロッパ事情から政治・軍事・歴史・サッカーまで、引き出しの多さで知られる。少林寺拳法5段。

林信吾

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