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.社会  投稿日:2023/12/11

ネットは毒だが役に立つ(上)年末年始に備えて その1


林信吾(作家・ジャーナリスト

林信吾の「西方見聞録」

【まとめ】

・空き時間はニュースサイトを主に見ている。

・マスメディアも含め特定の発信者からの情報を鵜呑みにしてはいけない。

・なんとか系の動画でも、様々な角度から見る習慣を付けることこそ、メディア・リテラシーを育む王道だ。

 

今は昔、英吉利紳士といふ者ありけり……というほどまでには「時代を遡らないが、わが国の元号が昭和から平成へと変った頃、英国ロンドンでこんな話を聞いた。

「本物のイングリッシュ・ジェントルマンとは『タイムズ』が3日遅れで郵送されてくるようなところで暮らしているものだ」

自身もスコットランドの城で暮らしているという、ダグラス・サザーランド氏の『英国紳士』(邦訳は秀文インターナショナル)という本にも、同様のことが書かれていた。

ジェントルマンの語源とであるジェントリーとは、地方に広大な領地を持つ地主階級のことであるから、私には無縁の世界ながら、おそらくそんなことも言えるのだろう。もちろん21世紀の今、様相は大いに異なっているはずだが。

「古き楽しきイングランド」においても、今や携帯電話の普及率は118.6%。全国民が1人1台以上持っていることになる。タブレットなどインターネットに接続しているモバイル機器の普及率も99.4%で、こちらも1人1回線状態と言ってよい(いずれも2021年の統計)。

これは私の偏見かも知れないが、かの国は頑固者と変わり者の宝庫であるから、今もって3日遅れの『タイムズ』紙にこだわる御仁(そもそも、郵送しているのか?)も、絶無ではないのかも知れぬ笑。しかし実際問題としては、ネットに取って代わられているのだろう。

私のように長きにわたって活字を愛し、活字の世界で働いてきた者としては、一抹の寂しさがないと言えば嘘になるのだが、反面、世界中どこにいても、パソコンで原稿を書いてメールで送れば仕事として成立する。やはり便利な時代になった事は否めない。

さて、本題。

本連載でも幾度か述べさせていただいた通り、私は「空き時間の友」としてYouTubeを楽しんでいるが、いわゆる有名YouTuberの動画はほとんど見ない。理由は簡単で、赤の他人の金満ぶりや、グルメ自慢に付き合っているほどヒマではないからだ。

ではどのようなサイトを登録しているのかというと、一番多いのはニュースサイトだ。

まずNHKは、アプリまで入れてある。なんとか党に頼らずとも、これならば受信料を取り立てられることもない……という話ではなくて、TVニュースを見るためには、定時に在宅していなければならないが、ネットで見るなら、一定の時間に一定の場所にいなくてもよく、興味のあるニュースだけ「つまみ食い」のように視聴することができる。なので、民放各局もほとんど入っている。

「日テレNEWS」と「読売テレビニュース」、「tvasahi」と「ANNnewsCH」はどれも登録しているが、これはどういうことかと言うと、同じ4チャンネルなら4チャンネルでも、制作局の系列が違うことを反映しているらしい。

日本のサイトだけではない。と言うより「BBC News Japan」を忘れてはいけない。

ジャニーズ事務所の創立者による性加害問題と、日本の放送業界が長きにわたって、事務所との関係がこじれることを怖れて「見て見ぬ振り」を決め込んでいたことは、このサイトによって満天下に明らかとなった。他にも突っ込んだ報道がなされていり、このあたりのことについて私は、本誌にも『受信料ならBBCに払いたい』と題した記事を寄せている。

その後も複数回この問題に言及したが、最後まで及び腰になるのはおそらくNHKであろう、との観測も開陳した。今年の大河ドラマの主演を、同事務所に所属するビッグネームが務めていたからであるが、どうやら私の見立てが甘かったようだ。

11月13日に、紅白歌合戦の出場者が発表されたが、なんと旧ジャニーズ事務所に所属する歌手はゼロだったのである。1979年以来、44年ぶりのことだとか。

補償問題などが先行き不透明、という理由だと言われているが、罪を憎んで人を憎まず、という考え方もあるではないか。被害者側であるところのタレントが仕事を奪われるのは、やはり理不尽ではないだろうか。

芸能界ならずとも、ここまで露骨な掌返しは、なかなかできるものではない。さすが「皆様のNHK」は考えつくことが違う。

さらには、前シリーズでお伝えした「私人逮捕系YouTuber」の案件にからんでも、こんなことがあった。複数のニュースサイトが、過去に問題視された動画を流したのだが、ガッツchと称するサイトの中で、私人逮捕の際「容疑者」を払い腰で投げ飛ばしていた。

(こいつ、もしかして格闘技経験者か?)

などと、つい思わされたのは、武道有段者の私が見ても、堂に入った投げ技だったからである。まあ私なら不意打ちでもくらわない限り、そう簡単に「制圧」されはしないだろうが……という話ではなくて、ニュースサイトではそのあたりの情報が全然得られなかったので、いわゆるアウトロー系のサイトに当たってみた。

果たせるかな「丸山ゴンザレスの裏社会ジャーニー」というサイトに、当人が出演していて、暴力団の構成員だった過去がある、と語っているではないか。なんだ、そっち系のケンカ上等だったのか。想定の範囲内と言おうか、さほど違和感もなかったが。

言うまでもないことだが、過去に反社会的勢力に属していた者は一生涯「正義」を口にしてはならない、などという法はない。ただし、本当に反省し更生しているのならば、という前提を外すわけには行かない。

当人は、こうした動画をアップし続けるのは収益目的ではない、と繰り返し強調していたが、YouTubeの運営側に問題視され収益が止められてしまったとして、クラウドファンディングを呼びかける動画も、やはりニュースサイトで再放送されていた。

もはや明々白々であろう。当人がいくら「正義」を掲げていようとも、その実は収益目的の新たなシノギ(ヤクザの資金活動)であったということが。

『ヤクザに学ぶ交渉術』(山平重樹・著 幻冬舎アウトロー文庫)という本にも書かれていたが、正義は我にあり、と信じ込むことによって恐喝もしくは恐喝まがいの「交渉」も正当化される。これが彼らの論理なのだ。

同時に、アウトロー系のサイトも、情報源としては捨てたものでないな、とも思わされた。

餅は餅屋と昔から言うように、やはり当事者や近い立場の人から話を聞かないと見えてこないものもある。

空き時間の友だ、などと言いながら、しっかりネタを集めているではないか、などという声も聞こえてきそうだが、実はそれこそ本稿で私が強調したかったことである。

ネットで情報を集めるのはよいが、マスメディアも含めて、特定の発信者からの情報を鵜呑みにしてはいけない。同じなんとか系についての情報でも、様々な角度から見る、という習慣を付けることこそ、メディア・リテラシーを育む王道だ。

もちろん、純粋に娯楽のために見るというサイトもいくつかある。それについでは、次回。

トップ写真:イメージ(本文とは関係ありません)出典:Tero Vesalainen/GettyImages




この記事を書いた人
林信吾作家・ジャーナリスト

1958年東京生まれ。神奈川大学中退。1983年より10年間、英国ロンドン在住。現地発行週刊日本語新聞の編集・発行に携わる。また『地球の歩き方・ロンドン編』の企画・執筆の中心となる。帰国後はフリーで活躍を続け、著書50冊以上。ヨーロッパ事情から政治・軍事・歴史・サッカーまで、引き出しの多さで知られる。少林寺拳法5段。

林信吾

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