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.政治  投稿日:2023/12/15

派閥解体が最善策 問われる岸田首相の決意


安積明子(政治ジャーナリスト)

「安積明子の永田町通信」

【まとめ】

・自民党派閥パーティー券「裏金」問題、「令和のリクルート事件」と呼ぶ人も。

・内閣支持率は17.1%にまで下がり、今後も減少傾向は続くと予想される。

・派閥を解体することが、国民の納得を得られる最善策では。

 

時に永田町は一瞬で空気が変わることがある。政治資金パーティー券をめぐる問題が発覚した第212回臨時国会の終盤は、まさにそうした局面だった。

きっかけは昨年11月にしんぶん赤旗日曜版による「パー券収入 脱法的隠ぺい2500万円分不記載」の記事だった。政治資金規正法は政治資金パーティー券を20万円超購入した大口購入者の氏名を収支報告書に記載しなければならないとしているが、自民党の5つの派閥で不記載が発覚。その金額は2018年から2020年までの3年間で少なくとも59件、額面で計2422万円にのぼることを報じている。

そしてその金額はさらに膨れていった。2023年11月22日付けの赤旗電子版では、2018年から2021年までの自民党の5つの派閥による不記載の金額は1952万円の清和政策研究会をはじめとして、志帥会の974万円、平成研究会の620万円、志公会の410万円、宏池政策研究会の212万円の計4168万円にのぼっている。

12月1日には朝日新聞や毎日新聞など一般紙が一斉に、「1億円の不記載問題」を報じた。その金額には政治資金収支報告書で確認できる政治団体からのパーティー券購入金額だけでなく、私企業などによるパーティー券の購入金額も含まれていたようだ。さらに共同通信は12月12日、清和会の「裏金」の総額が5億円を上回る可能性を報じた。そして産経新聞は清和研を除く4つの派閥の議員への還流総額を約9億9000万円と推計。自民党にとんでもない金額の「裏金」が存在していたのだ。

これら派閥のパーティー券をめぐる「裏金」問題を「令和のリクルート事件」と呼ぶ人がいる。1998年に発覚したリクルート事件は、値上がり確実のリクルートコスモス社の未公開株が政界や官界、マスコミにもばらまかれ、受領者側は66億7000万円の不当な利益を得た。その金額は、田中角栄元首相の逮捕にまで発展した国際的な疑獄事件であるロッキード事件の3倍にも上り、戦後最大の汚職事件となった。

もっとも今回のパーティー券問題による「裏金」の金額は、今のところこれよりもはるかに少なく、またきちんと収支報告書に記載していれば問題はなく、リクルート事件と異なり刑法上の犯罪に該当するものではない。

だが国民の信頼が失墜したという点では、リクルート事件と十分に肩を並べるものだろう。実際に、12月11日に公表されたNHKの世論調査では、内閣支持率は前回比6ポイント減の23%で、自民党の政党支持率に至っては、8.2ポイント減の29.5%となっている。

12月14日に公表された時事通信の世論調査では、内閣支持率は17.1%と、とうとう20%を割ってしまった。しかもその凋落ぶりは、およそとどまる様子はない。

12月13日に開かれた国会会期末の記者会見では、岸田文雄首相の表情は非常に硬く、発言した際に涙ぐんでいるようにも見えた。なお岸田首相は6日前に会長を務めていた宏池会を離脱した時、まるで“禊”をすませたようなすっきりした表情だったが、ようやく問題の深刻さを痛感したのかもしれない。実はひたひたと危機が迫っている。

ひとつは当初は5つの派閥の中で最も「裏金」が少ないと思われていた宏池会だったが、その金額が急激に増えていたことだろう。前述の産経新聞の調査によれば、宏池会の「裏金」の金額は1億6000万円で、1億3000万円の平成研よりも多かった。また資金の還流に関与したとみられる議員の数は15人から26人で、派閥の3割から5割を占めている。

もうひとつは、清和会のメンバーを大臣や党の要職から一掃するのはいいとして、その代わりがなかなか見つからないことだ。全く新たなメンバーを閣内に入れるのはリスクが高い。スキャンダルが発覚すれば、岸田政権の命運はそれで尽きてしまいかねない。

たとえば浜田靖一前防衛大臣は、官房長官を打診されたが断り、外務副大臣を打診された阿達雅志元首相補佐官も、「体力がもたない」と就任を固辞。いずれも本音は「貧乏くじを引きたくない」ということだが、岸田首相の求心力の低下に直結する。

岸田首相はやむなく、宏池会の座長を務める林芳正前外務大臣を官房長官に起用したが、こうした背景から鑑みると、「信頼できる側近を官邸の要に置いた」というわけではないことは推測できる。

岸田首相としては一刻も早くこの問題を解決し、下降し続ける内閣支持率を反転させ、政権の安定を図りたいところだが、その前途は非常に難しい。というのも、岸田首相自身が解決方法として「しっかり調査」「事実を確認」「丁寧に説明」を繰り返すのみで、それで国民が納得できるのかという視点がないからだ。そもそも今回の問題の原因は何なのか。派閥という組織が「裏金作りマシーン」と化し、一部の議員の利権の巣窟になっていたからではないのか。

ならば根本原因を取り除くために派閥を解体することこそが、国民の納得を得られる最善策ではないのか。それにはまず、岸田首相自身が会長を務めていた宏池会を解体した上で、他の派閥にも解消を求めていくべきではないか―。

13日の総理会見で、筆者はそう質問したが、果たして岸田首相に伝わったかどうか……。永田町の空気が変わったとしても、岸田首相の「鈍感力」は変わらないのかもしれない。

トップ写真:東京の首相官邸で記者会見する岸田文雄首相(2023年12月13日 首相官邸)出典:Photo by Franck Robichon – Pool/Getty Images




この記事を書いた人
安積明子政治ジャーナリスト

兵庫県出身。姫路西高校、慶應義塾大学経済学部卒。国会議員政策担当秘書資格試験に合格後、政策担当秘書として勤務。テレビやラジオに出演の他、「野党共闘(泣)。」「“小池”にはまって、さあ大変!ー希望の党の凋落と突然の代表辞任」(ワニブックスPLUS新書)を執筆。「記者会見」の現場で見た永田町の懲りない人々」(青林堂)に続き、「『新聞記者』という欺瞞ー『国民の代表』発言の意味をあらためて問う」(ワニブックス)が咢堂ブックオブイヤー大賞(メディア部門)を連続受賞。2021年に「新聞・テレビではわからない永田町のリアル」(青林堂)と「眞子内親王の危険な選択」(ビジネス社)を刊行。姫路ふるさと大使

安積明子

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