今から「次の震災」に備えよ・続【2024年を占う!】その1
林信吾の「西方見聞録」
【まとめ】
・災害のたびにデマが拡散する。
・一般市民は地震発生後72時間は現地に行かず、人命救助の邪魔をしないこと。
・首都直下地震は明日起きるかも知れない。物理的にも精神的にも準備を整えておくこと。
正月元旦から、大変なことになってしまった。
1日16時10分、能登半島沖でマグニチュード7.6の地震が発生。石川県で最大震度7を観測した。
多数の建物が倒壊し、津波にも襲われ、被害は日本海沿岸の幾多の街に及んだ。
地震発生後72時間(これについては、後述)を目前にした、4日16時の報道によれば、81人の死亡が確認された他、18時の時点で179人の安否が不明となっている。
まずは安否不明とされている方々のご無事と、全ての被災者が1日も早く日常を取り戻せることを願う他はないが、同時に、看過できない事態も発生している。
震災直後から、SOSと称して具体的な住所氏名に加え、
「家の下敷きになっています」
といったSNS上での発信が多数見られるようになったが、メディアが検証したところ、実在しない住所が書かれていたり、要するに偽情報が多かったという。これを真に受けて拡散した結果、救助活動の足を引っ張る結果を招いた例も少なくない上、募金詐欺と見られる投稿も相次いだ。
専門家の見立てによると、こうしたことが起きる背景には、愉快犯だけでなく、ツイッターがXに変ったことで、投稿の表示数に応じて収益が得られるシステムになったことも関係していることが疑われるそうだ(朝日新聞デジタルなどによる)。
岸田首相も2日の記者会見で、
「被害状況などについての虚偽情報の流布は決して許されるものではない」
「こうした行為は厳に慎んで欲しい」
などと語った(日本経済新聞電子版による)。
女優の広瀬アリスも、3日までに自身のX(フォロワー145万人とか)を更新。彼女は地震発生直後から、
「今の私にできることは、情報を拡散させることしか出来ないから、みんな一端拡散してほしい!お願い!」(原文ママ)
と呼びかけて、避難場所や避難所で役立つ情報を転載し続けているが、中には偽情報もあったとのことで、
「こんな時にデマ流すヤツ、ヤツって扱いで良いよね?人としてちゃんと軽蔑するからしっかりブロックする。以上」
と怒りを露わにしていた。
「増税メガネ」と美人女優と、どちらの言葉が心に響いたかは、まあ人それぞれであろうが、私が看過できない事態と述べたのも、このことである。
このところ、災害のたびにこうしたデマが流される。今次も、偽SOSだけではなく、被害を伝えると称して、東日本大震災の津波映像を流したり、ひどいのになると「外国人窃盗団が現地に向かった」などというデマまであった。中には、くだんのフェイク津波映像を自身のXに引用し、
「人間のやることじゃない。国籍はどこだろう」
などと書き添えている者もいた。
人間のやることでないとしたら、どうして国籍が問題になるのか。こういう愚かな人が、もし関東大震災の当時(1923年)に生きていたとしたら、
「朝鮮人が各地で暴動を起こしている」「井戸に毒を投げ込んだ」
などというデマに乗せられて、何の罪もない人を虐殺する側に回ったのではないか。いつの時代も「真面目なアホ」が世の中にとって一番迷惑なのだが、人の命が失われた事態は、アホで片付けられるものではない。
それは少々言い過ぎではないか、との批判は甘受するけれども、デマや無責任な拡散は、なんとかしてこれを最後にしたいものだ。
前述のように、Xでの注目度が高まれば収益にも結びつくシステムが、デマ拡散の「原動力」になっているのだとしたら、デマを流したら運営元から巨額の賠償請求がなされる、というシステムを構築しておけば、かなりの抑止力になるのではあるまいか。
そうかと思えば、元迷惑系YouTuberと称する人物が、トラックにトイレットペーパーやミネラルウォーターを積み込み、現地に届けたと報じられた。報じられたと言っても、もっぱら自でSNSに自撮り写真などを立て続けに投稿し、一部メディアが後追いしているだけの話だが。
あらかじめ述べておくが、私はこの人物の善意を疑うことはよしとしない。
過去にしょうもないことばかりやってきたわけだが、と言って、これまで悪行を重ねてきたから、今次の善行も善行と認めないというのは(実際、またまた目立ちたいだけ、といった反応も少なからずあったらしい)、それこそ暴論に過ぎるだろう。百歩譲ってこの行動が承認欲求のなせるわざだとしても「やらない善よりやる偽善」という言葉もある。
ただ、タイミング的にどうであったか、という疑問は残る。
3日の朝には石川県内に到着したとのことだが、その時点では警察や消防が倒壊した家屋を一軒ずつ調べて、生存者を救出する活動の最中であった。
1995年の阪神淡路大震災に際しては、今のようなネット社会ではなかったという事情もあって、友人知人の安否を確かめたい、と考えた人たちが、大勢マイカーで現地に向かった。結果、高速道路が寸断されていたところにもってきて、一般道までが大渋滞となり、救急車両の運行に支障を来したのである。
さらに言えば、倒壊した家屋の中に被災者がいた場合、72時間を過ぎると生存率が大きく低下するという話は、すでに広く知られてきている。
こうしたことを総合的に考えると、
「一般市民は、地震発生後72時間は現地に近寄らず、消防・警察・自衛隊などが人命救助に全力を傾注できる環境を作ること」
これが本当の意味での善意であり、一人でも多くの人を助ける行為と呼べるのではないか。
翌2日には、羽田空港で大変な事故が起きた。
17時50分頃、C滑走路に着陸した日航機(新千歳空港発516便)が、なぜか滑走路上にいた海上保安庁の小型機に追突。火災が発生したのである。
海保機の乗員6名うち5名が殉職したが、日航機の方は乗員12名・乗客367名全員が脱出し、14名が病院に搬送されたものの、命に別状はなかった。
詳細な経緯については、4日の段階では、業務上過失致死傷の容疑ありとして、警視庁が捜査に乗り出したばかりで、よく分からない部分が多いのだが、報じられたところでは、海保機が管制塔からの「滑走路脇で待機せよ」との指示を、離陸許可と誤認した可能性が高いようだ。
いずれにせよ、乗務員たちの的確な対応が乗客の命を救ったのだが、それもこれも、彼らが日頃から訓練を積み、プロ意識を育んで来たからに他ならない。乗客であった小学生くらいの男の子が、取材のマイクを向けられた際、
「JALの人たちと神様にお礼を言いたいです」
と語っていたが、私も同じように思う。いや、これは私一人の感想にとどまるものではなく、CNNも燃え上がる機体の映像を流し、
「この映像を見る限り、多くの人が無傷で脱出できたとは、奇跡としか思えない」
と述べていた。殉職した海保の隊員は本当に気の毒だが、もしも日航機の乗客多数が巻き添えになってしまったら……と思うと、不幸中の幸いとはこのことではあるまいか。
震災に話を戻すと、首都直下型地震について、
「30年以内に起きる確率70%」
という予測値が発表されたのが、2014年のことである。すでに10年以上経つわけだが、ひとつ忘れていただきたくないのは、この予測値は、
「今後30年間は地震が起きないかも知れないが、明日起きるかも知れない」
という意味だということである。南海トラフ地震についても、同じようなことが言える。
天災は人知をもって防ぎ得ないかも知れないが、備えあれば憂いなし、と昔から言うではないか。物理的にも精神的にも準備を整えておくことで、大事を小事で食い止めることは十分可能だと私は考える。
トップ写真: 石川県輪島市で起きた地震による火災事故の後の朝市横丁(輪島朝市)エリア(2024年1月5日)提供:Tomohiro Ohsumi /Getty Images
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この記事を書いた人
林信吾作家・ジャーナリスト
1958年東京生まれ。神奈川大学中退。1983年より10年間、英国ロンドン在住。現地発行週刊日本語新聞の編集・発行に携わる。また『地球の歩き方・ロンドン編』の企画・執筆の中心となる。帰国後はフリーで活躍を続け、著書50冊以上。ヨーロッパ事情から政治・軍事・歴史・サッカーまで、引き出しの多さで知られる。少林寺拳法5段。