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.政治  投稿日:2024/1/15

「AI内閣」が誕生する日 続【2024年を占う!】その2


林信吾(作家・ジャーナリスト

林信吾の「西方見聞録」

【まとめ】

・近年、様々な職業がAIに奪われるリスクが高まっている。

・年頭の総理記者会見で、1人の記者が原発について質問したが無回答だった。

・権力の監視を放棄する記者も、原稿を棒読みする首相も、いずれAIに取って代わられる。

 

2023年度のM1グランプリは、令和ロマンが制した。

その方面に関心の薄い読者のために簡単に説明させていただくと、吉本興業とTV朝日の共同開催による、若手漫才日本一を決めるイベントである。出場資格は結成10年目までのコンビに限られているが、これは、立ち上げに深く関わった島田紳助氏の、

「10年続けてもタイトルに縁がないようだったら、他の道に進んだ方が本人のため」

という意見によるものと聞く。多くの若手芸人が、このイベントを跳躍台として、人気者の地位を確立している。

令和ロマンは結成5年目。慶應義塾大学のお笑いサークルの先輩後輩という二人組だ。

ツッコミ担当の松井ケムリ(ヘビースモーカーであったことに由来する芸名だと聞く)は、某大手証券会社の副社長を父に持つ。地上波では会社名も明かしていたのだが、そのことで、

「お父さんにメチャクチャ怒られた」

とYouTubeで語っていたので、ここでは武士の情けで会社名は伏せておく笑。

ともあれ父親は年収1億8000万円以上というエグゼクティブで、本人も慶大卒。お笑い芸人になることに家族から反対されなかったのか、との質問が当然なされたが、こういう答えだった。

「母親は反対派でしたけど、父は〈AIに取って代わられる事のない仕事だから、いいんじゃないか〉と言ってくれました」

感動した!……というのは嘘だが、なるほどねえ、と感じ入ったことは事実だ。昨今ではエリート・ビジネスマンの考え方も、そのようになってきているのか、と。

数年前から、いずれ幾多の職業がAIに取って代わられるに違いない、との声を聞くことが多くなった。

これについては私も本連載で取り上げている。原稿料の二重取りだと言われぬよう、概説のみ繰り返させていただくと、世上よく言われていた、警備員やドライバーが真っ先に職を奪われるというのは、ある種の偏見に基づく考え方で、むしろホワイトカラーと称される、銀行員や事務職の方が危ういのではないか、と述べた。

私は株取引(=トレーディング)に関しては門外漢だが、コンピューターを駆使して情報の収集と分析を行うのが仕事の基軸であることくらいは、一般常識として知っている。そうであるなら、トレーダーの仕事もAIに取って代わられる、少なくともそうした危機感を持ったとして、不思議ではないように思える。

先を読む力に加え、必ずしも論理的ではない「勝負勘」が物を言う将棋の世界でも、ここ数年、プロの高段者がAIの前にたじたじとなっているのは、よく知られる通りだ。

さらに言えば、これは私の個人的な感想であることを明記しておくが、真っ先にAIに取って代わられそうな仕事とは、大新聞の記者ではあるまいか

記者クラブを通じての公式発表を、それらしい記事にまとめるというだけの仕事ならば、それこそAIで十分なわけで。

4日、岸田首相は官邸で年頭の記者会見を開いたが、被災地に急行したわけでも、会見後すぐに駆けつけるわけでもないのに作業服姿で、これはまあ毎度のことだとしても、会見の内容自体、いささかひどい。いや、ひどすぎる。

能登半島沖地震への政府の対応について説明した他、自民党派閥のいわゆるパーティー券問題に関して、党総裁直属の「政治刷新本部」を来週発足させると表明した。

質疑応答も含めて40分ほどの短い会見で、しかも「表明」の大部分は原稿棒読み。

そして進行役が

「以上をもちまして……」

と会見終了を告げた時、一人の記者が手を上げて、

「総理!原発について質問させてください」

と大声で呼びかけ、

「地震から3日経過したのに、いまだに総理は原発についてコメントしていません」

とたたみかけたのである。

ニュース映像を見る限り、岸田首相は声の主をまっすぐ見つめ、なにか言いたそうな様子にも思えたのだが、進行役がまたも、

「大変恐縮ではございますが、現在挙手いただいている方につきましては本日中に一問、担当者宛にメールでお送りください。後日書面で回答させていただきます」

と言うやいなや、そそくさと書類を片付け、立ち去っていった。

「総理、原発再稼働はあきらめるべきではありませんか」

「聞く力はどこへ行ったんですか!」

という声が虚しく響く(他の記者は、誰一人同調しなかった!)ところで、中継も終わっている。

この記者の意見については、それぞれの評価があるだろう。

政府が原発再稼働を推進しようとしているのは、日本のエネルギー事情や、脱炭素の問題があると言われる。しかし反面、

活断層だらけの地震大国である日本で、これほど多くの原子炉が稼働していて大丈夫か

という疑問は、古くて新しい問題ではないのか。今次の震災では幸いなことに、日本海側の原発に被害は生じなかったが、再稼働した直後であったなら……と考えたのは私一人ではあるまい。

今では地震・津波への対策もちゃんと講じられている、という声も聞くが、それならば、国民にそのことをわかりやすく伝えるのが為政者の義務だ

そもそも、コスト面の問題も含めて、原発の再稼働が正解なのか、否か。

この点について、内閣総理大臣以外、どこの誰が「担当者」たり得ると言うのか。

誰一人として疑義を呈さなかった時点で、日本の記者クラブ制度は、ジャーナリズムとしての命脈を絶たれたと言って過言ではない。

このレベルのメディアしか存在しないから、いい加減な会見しか行われない。それはすなわち、マスメディアが国家権力を監視する機能を放棄したに等しい。

この意味では、岸田首相もその職責を放棄したも同然ではないか。

原稿を棒読みするだけの会見しかできず、多くの国民にとって重大な関心事である質問から逃げるような首相なら、それこそAIに代わりを任せてよい。

その1こちら

トップ写真:会見する岸田文雄首相(令和6年1月11日 東京・首相官邸)出典:首相官邸




この記事を書いた人
林信吾作家・ジャーナリスト

1958年東京生まれ。神奈川大学中退。1983年より10年間、英国ロンドン在住。現地発行週刊日本語新聞の編集・発行に携わる。また『地球の歩き方・ロンドン編』の企画・執筆の中心となる。帰国後はフリーで活躍を続け、著書50冊以上。ヨーロッパ事情から政治・軍事・歴史・サッカーまで、引き出しの多さで知られる。少林寺拳法5段。

林信吾

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