在外の駐在防衛官は外交官?防衛省から外務省に出向してから派遣する奇妙なシステム
清谷信一(軍事ジャーナリスト)
防衛省は来年度概算要求で駐在防衛官を大幅に強化するための予算を要求している。これは今年発生したアルジェリアでの人質事件が契機になっているようだ。自衛隊の情報収集の能力、特にアフリカ大陸における能力は極めて低い。
現在アフリカで駐在防衛官が派遣されている、エジプト、スーダンに加えて、モロッコ、アルジェリア、ジプチ、ケニア、ナイジェリア、南アフリカの7カ国で防衛駐在官が置かれることになった。またフランス、英国、ドイツにおいても防衛駐在が増員されるが、これもアフリカ諸国と関係が深いこれら諸国に増員してアフリカの情報収集を強化するためだ。これまで南米にも防衛駐在官は派遣されていなかったが、ブラジルも派遣される予定だ。
筆者は20年近く前からアフリカ(特にサブサハラ)における中国の進出の状況、そして紛争情報の収集のために防衛駐在官の派遣を訴えてきたが、やっと実現したかという思いが強い。アルジェリアの件がなければ実現しなかっただろう。かつてペルー大使公邸事件でも外務省はまったく蚊帳の外で、ペルー政府に相手にされなかった。だが当時の自民党政権は中南米への防衛駐在官の派遣を行わなかった。それから見れば大きな進歩だ。
また同時に防衛政策局調査課に「調査研究室(仮称)」が新設され、防衛駐在官を含む人的情報収集機能に関する基本的な政策の企画・立案体制、防衛駐在官の支援体制を強化する。更に防衛駐在官候補に対する研修の強化、地理空間情報の強化(特にアフリカ)などの予算も要求されている。これまた大きな進歩と言えよう。
だが防衛駐在官の根源的な欠陥が是正されない。それは防衛駐在官が防衛省から外務省に出向し、外務省の所属となっていることだ。これは諸外国の駐在武官と大きく異なる点だ。身分は外交官なのに軍服を着ているのでコスプレだともいえる。今回の防衛省の予算でも手当されるのは人件費のみだ。
防衛駐在官は外交官であるために、駐在防衛官は自由に防衛省に報告ができない。また外務省は安全保障の主管官庁であるにもかかわらず、軍事を嫌うお公家体質が強いので、防衛駐在官に十分な活動予算が与えていない。極端に言えば新聞の切り抜きに終始しているのが現状だ。
例えばサウジの防衛駐在官がUAE(アラブ首長国連邦)で行われる軍事見本市、IDEXにすら出席できない。IDEXは世界最大級の見本市であり、中東は勿論世界中から代表団が集まる。人脈形成にはまたとない機会なのだが、そのような予算が、僅か10万円以下の旅費すら出ないのだ。
また駐在防衛官が出席するイベントの多くは夫人同伴が多いのだが、外務省は本人分しか出さない。このため気の利いた防衛大臣は、機密費から活動費用を渡したりするのだが、そのような気遣いができる大臣は少数派だ。現地の通訳兼運転手ぐらいにしか思っていない大臣のほうが多いようだ。
また某事務次官は現地で、日本で転売する目的で高級絨毯を買おうとして、防衛駐在官からカネを借りようとしたという情けない話もある(その時は事務官が貸したそうだが)。こんなことでまともな情報収集ができるわけがない。
現状を打破するためには政治が力を発揮して、駐在防衛官を他国の駐在武官同様に外務省に出向することなく、自衛官の身分のまま派遣するように改め、活動予算を潤沢に与えるべきだ。
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