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.社会  投稿日:2024/2/26

「日本代表」の資格とはなにか 失敗から学ぶことは多い 最終回


林信吾(作家・ジャーナリスト

林信吾の「西方見聞録」

【まとめ】

・「ミス日本コンテスト2024」グランプリはウクライナ出身の女性。

・ミス日本運営事務局、当人の辞退の申し出を受理し「ミス日本2024」は空位に。

・「芸能界のしきたり」も「体育会系のノリ」も、命脈絶たれて久しいことに気づくべき。

 

1月22日に行われた「ミス日本コンテスト2024」と、その後の一連の騒動は、すでに大きく報じられた通りだが、私としても、色々と考えさせられた。

まず、今年の受賞者すなわち56回目のグランプリに輝いたのは、ウクライナ出身の女性

ハーフではなく両親ともにウクライナ人で、5歳の時に一家で日本に移り住み、日本国籍は1年ほど前に取得したそうだ。

発表された直後から、ネットには賛否両論の投稿が殺到し、いくつかのニュース番組では特集まで組まれていた。否定派の意見の中でも、

「やまとなでしこの遺伝子を尊重すべきである」

などというのは、低レベルの排外主義に過ぎないので、相手にする気にもなれないのだが、ひとつひっかかったのは、

「ロシアにルーツを持つ女性だったら、選ばれなかったのではないか」「政治利用では?」

といった投稿が見受けられたことだ。ネット民だけではなく、著名な作家までが同様の見方を開陳していた。

ウクライナは昔から美人が多いことで知られている。歴史的・地理的条件から、ロシアや北欧と、南欧及び中近東の血を共に引く人が多いから、という理由であると聞く。

だが、政治利用とはいくらなんでも……と半信半疑であったところへ、当の女性が授賞式のスピーチで「日本人として認められた」喜びのみを語って、目下かの国で起きている事態に対して一言もコメントしなかったと、在日ウクライナ人の間からは非難がましい声が聞かれる、との報道に接することとなった。政治利用などとは考えにくい。

もうひとつ、あるインフルエンサーが、

「ミス日本は、ミス・ユニバースやミス・ワールドの日本予選ではないのだから、これが日本の美だ、という価値観を発信して欲しかった」

「金髪の白人を美の基準にされたのでは、生粋の日本人女性に勝ち目はない」

と発信したこと。この人は「人種差別は断じてあってはならないが」と前置きして語っていたので、私の方でも、言いたいことは分からないでもないが、と前置きして私見をのべさせていただくとしよう。

時代を超えて普遍的な「これが日本の美だ」という価値観など、存在するのだろうか。

いささか極端な例ではあるが、今年の大河ドラマでは吉高由里子が紫式部を演じている。

しかし彼女は、と言うよりドラマの中の紫式部は、眉毛を全部抜いたり、歯を黒く染めたりなどしていないではないか。

肉親以外の男性に素顔を見せることも含めて、平安時代の美意識や価値観には、まるっきり則していないのである。美人はなにをしても許されるから、私はいちいちツッコミを入れなかっただけで。

顔かたちもまた然りで、主人公の宿命のライバルとも言える清少納言(紫式部の側が、一方的に彼女をライバル視して悪口雑言を並べただけだと見る人も多いが笑)を演じるファーストサマーウイカなど、芸名のせいもあってか、ハーフだと思っている人が多いほどだ。

その彼女が従前のイメージと違う清楚系メイクで登場したところ、

「平安美人でおじゃるな」

などという賞賛の声が数多く寄せられたとか。だから、違うんだってば笑。

後段について言えば、これこそ今時流行らない、白人コンプレックスの発露に過ぎないのではあるまいか。

昨今の日本の芸能界には、身長170㎝以上で9頭身とか、欧米でも滅多に見かけないようなプロポーションの持ち主が散見されるし、本当に「金髪の白人が美の基準」だったなら、他のファイナリストたちは、なぜファイナリストたり得たのか、という話である。

さらに言えば、沖縄出身のアイドルや女優など、国籍不明の顔をしている人が、結構見受けられるではないか。この表現が、もしも当人にとって不愉快だといけないので、名前は出さないが。

そうしたわけで、ウクライナ出身の女性がミス日本に選ばれたことに、私はなんら異議をとなえるものではなかったのだが、わずか1週間後に事態が急展開した。

2月1日発売の『週刊文春』が、彼女と既婚者である男性とのデート写真をすっぱ抜いたのである。「国際ロマンス不倫」などというタイトルの記事であったが、彼女は日本国籍だから、これは形容矛盾ではあるまいか。

……というのは問題の本質ではなく、当該記事の中では、双方ともに不倫関係を否定しており、彼女の所属事務所からの、男性が既婚者であることを隠してアプローチしたのは事実だが、男女の関係には至っていない、という主旨のコメントも掲載されている。

ところが5日になって、ミス日本の運営事務局が、当人から「一身上の都合により」辞退の申し出があり、これを受理して「ミス日本2024」は空位とする、と発表した。

報道によれば、最初の「文春砲」に対する彼女の説明は事実でなく、虚偽のコメントをしたことに対する良心の呵責に耐えかねての判断であったらしい。所属事務所との契約も解除したとのこと。

すると今度は、多くの著名人から、彼女に対する同情の声が発せられた。

これもこれで、問題の本質を見誤っているのではないかと、私は考える。彼女の言を信ずるならば「突然の取材で混乱してしまい、本当のことを言えなかった」ことに対する自責の念からの決断だったわけで、しかもタイトルを剥奪されたのでなく辞退したのだ。ミス日本に戻してあげて欲しい、という同情論は、むしろ傷口に塩を塗る行為ではないか。

それにしても今年は、有名人のスキャンダルが年初来、メディアやネットを席巻している。

大御所と言われる芸人や、サッカー日本代表選手など、性加害を受けたとの告発が相次いだ。

言うまでもなく、性加害は許されることではない。しかしこれらの件に関しては、当人と弁護士が真っ向から否定し、訴訟まで提起した。

つまりはこれから裁判で真相を明らかにしようという段階なのだが、多くのメディアはすでに「有罪判定」して、TVに出られなくなったり、代表からの離脱を余儀なくされるといった被害が生じている。これもこれで、問題ではないか。

しかしながら、お笑いもサッカーも大好きで、なおかつメディアで決して短くはない経験を積んできている者としては、果たして性加害の有無だけが問題なのか、と考えざるを得ないのである。

ミス日本の女性にしても、そうしたタイトルがなかったら、不倫スキャンダルなど、そもそも注目されることはなかっただろう。ことに気づくべき。

大御所と呼ばれる芸人や、日本代表クラスのアスリートともなれば、つねにメディアと世間から好奇の目を向けられるのは必定で、なおかつ二人とも既婚者だ。ホテルの部屋に女性を招き入れた時点で「問題行動」ではないか、と私は考える。

このようなことを開陳すると、いかにも旧いと思われるかも知れないが、私に言わせれば、それは逆である。もちろん大前提として、なにを言おうが個人の自由だが。

今の時代、高度情報化社会と言ってもよいが、もはや「芸能界のしきたり」も「体育会系のノリ」も、命脈を絶たれて久しい。このことに気づかなかったことを、彼らはまず反省すべきである。

トップ写真:美容コンテストのイメージ画像 出典:kotijelly/Getty Images




この記事を書いた人
林信吾作家・ジャーナリスト

1958年東京生まれ。神奈川大学中退。1983年より10年間、英国ロンドン在住。現地発行週刊日本語新聞の編集・発行に携わる。また『地球の歩き方・ロンドン編』の企画・執筆の中心となる。帰国後はフリーで活躍を続け、著書50冊以上。ヨーロッパ事情から政治・軍事・歴史・サッカーまで、引き出しの多さで知られる。少林寺拳法5段。

林信吾

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