裏金システムの全貌を明らかにするためには森喜朗元首相の参考人招致が必要
安積明子(政治ジャーナリスト)
「安積明子の永田町通信」
【まとめ】
・内閣支持率、いったん底打ちしたかに見えたが、2月再度下がり始めた。
・岸田首相は、パーティー券をめぐる裏金作りのシステムが、いつ誰によって始められたのか明らかにしなければならない。
・少なくとも森喜朗元首相の参考人招致が必須になる。
戦後の日本を支えてきた自民党が、崩壊しつつあるのかもしれない。政権与党としての責任が全く感じられないからだ。派閥のパーティー券裏金問題をめぐって開かれた衆議院政治倫理審査会では、安倍派の幹部らの「逃げ」が目立った。
「政治とカネ」問題は、自民党にとっての永遠の課題に違いない。約50年前にはロッキード事件が発覚し、約30年前にはリクルート事件、約20年前には日歯連闇献金事件が発生した。そして一昨年にしんぶん赤旗が第一報を報じた安倍派のパーティー券裏金疑惑は、昨年12月に大きな問題に発展。今年1月には池田佳隆衆議院議員とその政策秘書が逮捕され、3000万円以上の還付金を受けた谷川弥一衆議院議員と大野泰正参議院議員は、それぞれ秘書とともに立件された(谷川氏は議員辞職)。
岸田文雄首相は党内に政治刷新本部を設置し、自ら本部長に就任した。また自民党は関係議員から聴き取り調査を行い、時効にかからない過去5年分の還付金の金額を明らかにするとともに、過去3年分の政治資金収支報告書を修正させた。しかしいつ誰がこの仕組みを始めたのかが明らかにされず、根本的な解決に至っていない。
ただ、2022年7月に奈良県で凶弾に倒れた安倍晋三元首相がキックバックの中止を決定したものの、還付金を求める声が強かったために後に再開されたという事実は判明している。その経緯を知るのは安倍派の歴代の事務総長や「5人衆」と呼ばれる幹部たちだが、「原則非公開」という政倫審のルールを逆手にとって、塩谷立元文科相、松野博一前官房長官、高木毅前国対委員長は出席を渋った。そしていったん部分公開が決まった西村康稔前経産相や二階派の武田良太事務総長の政倫審出席まで取りやめにしてしまったのだ。
これに最も焦ったのは、岸田首相に違いない。昨年から下降が止まらなかった内閣支持率は、今年1月にはいったん底打ちしたかに見えたが、2月には再度下がり始めた。4月28日の衆院補選は、自民党候補が決まっている島根1区で事前の予想に反して苦戦が伝わっており、長崎3区は不戦敗となりそうだ。さらに東京15区でも候補者選定が難航。下手すりゃ、全敗になりかねず、これでは政権はもちそうにない。それでも9月の総裁選で再選を果たそうとするならば、求心力を強める必要がある。にもかかわらず、岸田首相の前途には良い材料は全くない。
最悪なのは、2024年度予算案を年度内に確実に成立させるためには3月2日までに衆議院を通過させなければならないのに、政倫審出席をめぐって安倍派の幹部らがごねていることだ。国会では立憲民主党の野田佳彦元首相らが散々「安倍派の幹部に倫審出席を指示しろ」と迫ったが、指示だけですめば苦労しない―。
そこで岸田首相が決断したのは、自ら政倫審に出席することだった。そうすれば、渋っていた幹部らも出席せざるをえないに違いない。現職の首相が政倫審で弁明するという前代未聞の事態になるが、政治生命には代えられない―。
そもそも岸田首相は思い付きで行動する。1月に宏池会の解散をぶち上げた時もそうだった。自ら本部長を務める政治刷新本部はまだ「中間とりまとめ」を作成中で、その発表を待たずしての決断に、あっけにとられた自民党議員は少なくなかった。
岸田首相の「捨て身」の決断に、政倫審への出席を渋っていた塩谷、松野、高木の各氏もしぶしぶ了承。そして2月29日には岸田首相と武田氏が政倫審に出席し、翌3月1日には西村、塩谷、松野、高木の各氏が出席することに決まった。事前に公明党の山口那津男代表には「自分が出席することで、膠着状態を打開したい」と打ち明けていた岸田首相だが、確かに一歩は進んだといえる。だがゴールまではほど遠い。
岸田首相は「国民の信頼を取り戻す」と繰り返すが、まずはパーティー券をめぐる裏金作りのシステムが、いつ誰によって始められたのかを明らかにしなければならない。そのためには少なくとも森喜朗元首相の参考人招致が必須になる。果たして岸田首相にそこまでの覚悟はあるのか。実現しなければ、その政治生命は9月までもたず、自民党も崩れていく。ただそれだけだ。
トップ写真:森喜朗元首相、アントニオ猪木氏の葬儀にて(2023年3月7日 東京都墨田区両国国技館)出典:Etsuo Hara/Getty Images
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この記事を書いた人
安積明子政治ジャーナリスト
兵庫県出身。姫路西高校、慶應義塾大学経済学部卒。国会議員政策担当秘書資格試験に合格後、政策担当秘書として勤務。テレビやラジオに出演の他、「野党共闘(泣)。」「“小池”にはまって、さあ大変!ー希望の党の凋落と突然の代表辞任」(ワニブックスPLUS新書)を執筆。「記者会見」の現場で見た永田町の懲りない人々」(青林堂)に続き、「『新聞記者』という欺瞞ー『国民の代表』発言の意味をあらためて問う」(ワニブックス)が咢堂ブックオブイヤー大賞(メディア部門)を連続受賞。2021年に「新聞・テレビではわからない永田町のリアル」(青林堂)と「眞子内親王の危険な選択」(ビジネス社)を刊行。姫路ふるさと大使。