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.国際  投稿日:2024/5/22

イスラエル 人質解放と停戦に向けた交渉は長期化する


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2024#21

2024年5月20-26日

【まとめ】

・このままではバイデンとネタニヤフの間で「チキンゲーム」始まる。

・バイデン政権、必死にイスラエル説得試みるも、ネタニヤフの反応は未知数。

・人質解放と停戦に向けた交渉は長期化する。

 

 本稿はワシントンの定宿で書いている。今年は4年に一度の大統領選挙の年なので、久しぶりに米国出張を入れてみたのだ。恐らく、年末までにあと一、二回は戻ってくるだろう。筆者のワシントンとの付き合いは40年以上、1981年の外務省在外研修時代以来だ。以前は米国のことが分からなくなると、必ず当地に戻ってきたものだ。

 だが最近は事情が変わってしまった。ただ戻ってくれば新しい情報や視点を得られる時代はもう終わったのだ、と痛感する。今や米国関連の公開情報の殆どはネット上で入手可能であり、実際に筆者も東京の自宅はCNNを流しっぱなしだ。DCでしか手に入らない情報は真に信頼できる友人からの政治的思惑のない話だけである。

 だから、今回は会う友人の数を以前ほど多くしなかった。新しい人と会うのは楽しいが、それには注意が必要だ。何故かというと、この街は200%政治の町だから、ここでは「一度しか会っていなくても知り合い」となり、「知り合いは友人」、「友人は親友」、「親友はベストフレンド」になるからだ。もしかしたら、永田町も同じかもしれないが。

 しかも、DCでは多くの人が「出世するほど肩書を意識する(英語ではランク・コンシャス)」ようになる。例えば、政府の局長クラスになると昔の友人でも会わない、自分は大使レベルとしか連絡を取らない、などと言い出す輩が少なくない。こんな「偽り」の政治の町で、真の友人を見つけることは決して容易ではないのだ。

 1993年春のクリントン政権発足当初、筆者はたまたま在米国大使館の政務班にいた。スキャンダルに巻き込まれた同政権の若手スタッフが自殺した際、「ワシントンとは、他人を破壊することをスポーツと考える街だ」という有名な遺書を残す。これほどこの街(とクリントン政権)の性格を見事に表現する言葉は今でも思い付かない。そのワシントンで今回限られた数の真の(と筆者が思っている)友人と雑談をして感じたことを、順不同で思いつくまま、以下に記そう。

 

  • イスラエルと米国の関係は「曲がり角」に差し掛かっているのかもしれない
  • トランプもバイデンも決して評判は良くなく、多くの有権者はフラストを感じている
  • 大統領選の行方を確信をもって語れる者は(トランプ、バイデンを含め)誰もいない
  • 6月27日の大統領選討論会の結果次第では選挙戦の流れが変わるかもしれない
  • イラン大統領の事故死が持ち得る政治的意味を過小評価すべきではない
  • 日米関係は、過去に例のない程、そして筆者の想像以上に、良好である・・・

 

 この続きがあれば、来週書くことにしよう。

 続いては、いつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きを見ていく。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを筆者が勝手に選んでご紹介している。欧米の外交専門家たちの今週の関心イベントは次の通りだ。

 

5月21日 火曜日 韓国憲法裁判所、政府の気候変動政策について判断

 イランで大統領の国葬

 ペルー前大統領に対するクーデター容疑裁判で公聴会始まる

5月22日 水曜日 ドイツで独仏ポーランド外相会談

 インドネシア中銀、金利を決定

5月23日 木曜日 国際司法裁判所、メキシコの対エクアドル提訴に ついて判断

 トルコと韓国の中銀が金利を決定

 米国で、米ケニア首脳会議

5月24日 金曜日 ドイツで独ポルトガル首脳会談

5月25日 土曜日 イタリア首相、パレスチナ自治政府首相と会談

5月26日 日曜日 リトアニアで大統領選決選投票

 

 ガザの停戦交渉の行方

 最後は、ガザでの停戦交渉の行方だ。先週は「このままでは両国間、特にバイデンとネタニヤフの間で「チキンゲーム」が始まってしまう。それを笑うのはイランとハマースであり、中露もそれを大歓迎するだろう。」と書いたが、今週もこうした見方に変わりはない。

 

  • バイデン政権は必死でイスラエル説得を試みており、ラファに対する軍事攻勢についても変更を求めているが、ネタニヤフの反応は未知数で、状況は楽観できない
  • 国際刑事裁判所のイスラエル首相とハマース指導者に対する逮捕状発出が問題の解決に資するとは思えない(むしろ、問題を複雑化するだけかも)
  • 別途、トランプ側近たちもイスラエルを訪問し情報収集しているが、これも事態を悪化させる恐れがあるので、要注意だ
  • 今後もガザをめぐり人質解放と停戦に向けた交渉は長期化するだろう

 今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

 




この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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