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.政治  投稿日:2025/4/20

赤沢経済再生相の「格下」発言 トランプの術中にはまる?


樫山幸夫(ジャーナリスト、元産経新聞論説委員長)

【まとめ】

・日米関税協議でトランプ大統領と会談した赤沢経済再生担当相は「格下に会っていただき感謝している」とへりくだった。

・国を代表して交渉にあたっている自負心をもつべきーなどの批判が噴出。

・赤沢発言で、いまなお続く日米関係の〝不均衡〟が明らかに。国民から失望、各国からは嘲笑を浴びかねない。

 

■ 「卑下」「へつらい」に聞こえた赤沢発言

赤沢亮正経済再生相とトランプ大統領との会談は4月16日(日本時間17日)、ホワイトハウスで行われた。

赤沢氏は当初、ベッセント財務長官、グリア通商代表部(USTR)代表らと会談する予定だったが、直前になって、トランプ氏が自ら出席することが決まった。

大統領との会談について、赤沢再生相は会談終了後、語った。

「会ってきださったことは大変ありがたい」「(自分は)格下も格下なので、出てきて直接話をしてくださったことには感謝している」「暖かい配慮で、格下と会っていることを感じさせない器の大きさだった」―。 

大統領への強い謝意の一方で 為替や日米の安全保障などについては、「為替については出なかった」と述べたにとどまり、「具体的なやりとりについては差し控えたい」とたびたび繰り返した。

超大国アメリカの元首である大統領と、失礼ながら初入閣のヒラ大臣とでは格が違うのは当然だが、自ら「格下」を繰り返す必要などさらさらなかった。卑下、へつらいにも聞こえただけに厳しい指摘が相次いだのは当然だった。

立憲民主党の野田佳彦代表(元首相)が「国を代表した矜持というものがある。(小柄な)舞の海が(巨漢の横綱)曙に威圧感を感じたろうが、小兵力士にも技がある。国を背負って交渉するには、何するものぞという気概を持ってほしかった」(18日の記者会見)と述べ、大相撲にたとえて苦言を呈したが、これにつきるだろう。

赤沢氏は帰国後、「格下は事実だ。格上の大統領でも言うべきことは言った」と釈明したが、説得力に欠けた。

■ 先生に褒められたい生徒か

赤沢再生相の発言を聞いて、筆者は古い話だが、30年以上も前に日米間で行われた「構造協議」を思い起こした。 

日本の巨額貿易黒字解消を目的とした交渉は海部俊樹内閣時代の1990年4月、中間報告にこぎつけた。

妥結翌朝の官房長官の記者会見で当時の坂本三十次長官は、「細部の詰めが残っている」として肝心の内容について説明を避け、一方では聞かれもしないのに、ブッシュ米大統(先代)から「日本の努力に感謝するという懇切なメッセージがあった」と得々と繰り返した。

内容について公にできないのは理解できるとしても、大統領からの評価、好意だけを繰り返すはしゃぎぶりでは、赤沢発言と坂本発言は相通じる。

ことしは戦後80年、日本は、いつまでアメリカから褒められたい生徒のようにふるまうのだろうか。

■ 日本国民の感情傷つける会談写真

ホワイトハウスが公開した赤沢氏と大統領との会談の写真にも驚いた。

〝記念撮影〟で大統領は自らのデスクに腰を下ろしてリラックスしているのに対し、赤沢氏は白い歯こそ見せているものの、ほとんど直立不動だ。

会談の最中らしい別の一枚では、トランプ氏がデスクで背を反りかえらせ、赤沢氏はその前に置かれた椅子に腰かけ、何かを説明している。交渉、会談というより、上司が部下に椅子を与えて報告させているといった風情だ。

口にするだけでも畏れ多いが、終戦直後の昭和天皇とマッカーサー司令官との会談の写真を筆者は想起した。

終戦の翌月、アメリカ大使館に司令官を訪れた昭和天皇はモーニングの正装で姿勢を正していたが、マッカーサーはノーネクターの軍服、腰に手を当てる姿。「戦勝国とはいえ非礼だ」と日本国民に悔しい思いにさせたあの写真だ。

言葉のやり取りや会談風景に目くじらたてる必要はないーという見方もあるかもしれないが、そういうものでもないだろう。

弱腰で交渉を始めたなら、国民は、不必要な譲歩を強いられるのではないか、公正な交渉が期待できるのかーという疑念を抱くだろう。国民の支持、理解がなければ合意は不可能だし、妥結しても実行は困難になる。 

■ 硬軟両様のトランプ戦略に嵌る?

トランプ政権の意図について日米のメディアは、「米国の意図をぶつけやすい日本」(朝日新聞)を最初の交渉相手として選び、相互関税を一時停止している90日間に妥結させ、各国との交渉のモデルケースとしたい意向(同)などと伝えている。いずれも当を得た見方だろう。

アメリカと交渉したい国は75カ国以上といわれ、ニューヨーク・ポスト紙は「早くい米国と交渉する国には先行者利益があるだろう」というベッセント財務長官の発言を伝え、アメリカの意向を裏付けている。

自ら交渉に乗り出して親密な姿勢で懐柔し、あわせてやや屈辱的ともいえる写真で威圧する硬軟両様の術中に、赤沢経済再生相は落ちてしまったのかもしれない。

日本の交渉開始をめぐって各国は「(日本は)実験用のモルモット」(英ファイナンシャル・タイムズ)、「(炭鉱事故の予兆を知らせる)カナリア」などと皮肉交じりで論評している。

交渉はこれから本格化する。国運をかけた協議、各国が見守る中、心してかからなければなるまい。

トップ写真:トランプ米大統領と赤沢亮正経済再生相(2025年4月16日ワシントンDC)出典:内閣官房




この記事を書いた人
樫山幸夫ジャーナリスト/元産経新聞論説委員長

昭和49年、産経新聞社入社。社会部、政治部などを経てワシントン特派員、同支局長。東京本社、大阪本社編集長、監査役などを歴任。

樫山幸夫

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