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.政治  投稿日:2025/6/9

陸自に迫撃砲の運用能力はあるのか


清谷信一(防衛ジャーナリスト)

【まとめ】

・陸上自衛隊の新型120mm自走迫撃砲は弾薬の共用性に重点を置いているが、戦略的な視点での検討が不足している。

・世界的なトレンドは滑腔砲を採用した高性能システムへ移行しているが、陸自は既存装備や国内企業への配慮が優先されている。

・陸自の迫撃砲開発は効率性や性能面で課題が多く、国際基準の装備導入を検討するべきとの指摘がある。

 

迫撃砲は陸軍部隊の基本的な装備だが、陸上自衛隊に迫撃砲の運用能力があるのか大変怪しい。

陸上自衛隊は本年度に新たな自走迫撃砲である24式機動120mm迫撃砲を導入した。これは三菱重工が開発した8輪装甲車である共通戦術装輪車の派生型である。共通戦術車は16式機動戦闘車をベースに開発され他に、歩兵戦闘車型である24式装輪装甲戦闘車、来年度から導入される偵察型が存在する。 

これまで陸自は個々の装甲車別々に開発、調達してきた。細々とした調達期間が概ね30年も続くので途中で旧式化することが常態化していた。諸外国では基本型の装甲車をつくり、その派生型を開発することが普通だ。共通部分が多いので調達性がよくなり、教育や部品の共用化ができてコストも削減できるからだ。これを一般にファミリー化というが陸自も遅まきながらこの方式を採用した。

陸自は同じく8輪の次期装輪装甲車としてフィンランドのパトリア社のAMV XPを採用した。こちらもファミリー化されて、装甲兵員輸送車型以外、指揮通信車や装甲野戦救急車など数種類の派生型が開発されている。

さて24式機動120mm迫撃砲である。この開発と調達にはいささか疑問が残る。24式は陸自が運用中のフランスのタレス社が開発した牽引型の120mm迫撃砲 RTの派生型である2R2M迫撃砲を採用している。これは砲身をターンテーブル式の底部に固定して、砲口から装填する半自動装填装置を持っている。射撃時は観音開き方式のルーフを開閉して行う。この種のターンテーブルを有した自走迫撃砲のシステムは後部装填が多いので2R2Mは特異である。

Thales – Mortier de 120 mm 2R2M
出典:Thales – Mortier de 120 mm 2R2M L’armée française – French Army

陸自は当初から2R2Mを本命視していた。それは現用のRTと同じライフル砲を採用しており、弾薬の共用性があったからだろう。このため当初から候補は2R2Mとコマツが提案したブラジル製の2R2Mのコピー品だけだった。

確かに弾薬の共用性は重要だ。だがより広い視野でみればいささか近視眼的ではなかったのか。弾薬の共用性からいえば陸自と米陸軍の120ミリ迫撃砲に共用性はない。米陸軍のM120(車載型はM121 )はイスラエルのソルタム・システムズ製ソルタムK6 120mm迫撃砲のライセンス生産品で、1991年に当時のM30 107mm迫撃砲の後継として採用された。これは滑腔砲型であり、120TRとは弾薬の共用性がない。

有事には平時には想像できないほど弾薬を消費する。自衛隊用の120ミリ迫撃砲弾はダイキンとコマツが製造しているが生産数は極めて少なく、戦時に増産することは不可能である。そうであれば新型迫撃砲は既存のRTよりも米陸軍の弾薬の共用性を考慮すべきだったのではないか。

陸幕が滑腔砲型の迫撃砲導入をはじめから検討しなかったのは、120RTや弾薬メーカーのコマツやダイキンに配慮していたからではないか。滑腔砲型の迫撃砲導入が導入されればこれらのメーカーは仕事を失う。弾薬メーカーにしても仮に砲弾をライセンス生産するにしても多額の設備投資が必要だ。これらの企業に天下った将官たち海外の事情を知ろうともしないで陸自とメーカーの利益しか考えていない。

昨今のトレンドでは120ミリ迫撃砲はライフル砲より滑腔砲主流となっている。それはライフリングがないために砲身が軽量であり、射撃時に砲弾との摩擦が少ないために砲身の寿命が長い。さらに誘導弾に適している。ライフル型でも信管に誘導用デバイスをつけた誘導弾は使用できるが、砲弾が回転しない滑腔砲の方が誘導弾の使用に適している。例えばエルビット社のアイアンスティングのように砲弾側部にフィンを展開させて使用するには滑腔砲の方が有利だ。


図)アイアン・スティング 120mm誘導式迫撃砲弾
出典:Elbit Systems Land

このような榴弾砲の精密誘導弾は多く実用化されているが、陸自では全く導入されていない。本来人口の7割が都市部に集中している我が国の環境を考えれば副次被害を極小化するためにも必要だが、陸自にはそのような考えがないのだろう。

また今後も牽引型120ミリ迫撃砲を使い続けるか、否かも検討すべきったのではないか。牽引型は安価ではあるが、進出・撤収に時間がかかるために生存性が低い。まして近年はドローンによる探知や攻撃が「普通」になってきており、なおさら生存性は低くなっている。それでもフランス軍のように装甲車で牽引するのであればまだしも、陸自のように非装甲の高機動車で牽引するのであればなおさらだ。更に陣地変換や射撃準備、撤収にても隊員の負担も大きい。

陸自では長年牽引型の120ミリ迫撃砲は普通科(歩兵)が運用してきたが、2018年度らは特科(砲兵)に移された。必要な時に特科部隊ら火力支援を受けるのであれば、牽引型迫撃砲は廃止し、自走型の迫撃砲に完全に切り替えることも検討すべきだっただろう。

最近では後装填式、しかも砲塔型が注目されている。例えばポーランドPGZ社のM120、フィンランドのパトリア社のNEMOなどだ。


写真:M120を搭載したロスマック 
提供:筆者

Rakは完全自動装填式の自走迫撃砲システムで発射速度は毎分8発、最大射程は12キロとなっている。射撃までの所要時間は30秒、撤収時間は15秒となっている。携行弾数は砲塔内部の自動装填装置のマガジンに24発、車体後部に40発の、計64発の砲弾を収納している。最新型の火器管制装置がナビゲーションシステム、GPS、BMS(バトル・マネジメント・システム)と統合されており、ネットワーク化されている。また砲塔には前後に角度を変えて三つの各一箇所づつ、左右に各ひとつづつの計8個のビデオカメラが装備されており、360度の状況把握を可能としている。砲塔の防御レベルはNATO規格のレベル1である。

また昼夜兼用の光学サイトを有しており、直接照準による射撃も可能となっている。ポーランド陸軍ではこのシステムを155ミリ自走榴弾砲、クラブの車体に搭載したものを採用した。この車体はPT-91のものをベースに開発されたもので、UPG-NGと呼ばれており、重火器などのプラットフォームなどとして輸出用にも提案されている。

ポーランド陸軍では120ミリ自走迫撃砲は砲兵の所属となっており、歩兵は60ミリ迫撃砲などより小口径の迫撃砲を運用している。120ミリ自走迫撃砲は中隊で運用され、通常砲兵旅団あるいは機甲旅団に属する。一個中隊には3個小隊があり、各小隊にはクラブの車体をベースに開発された指揮通信車一輛と自走迫撃砲4輛で構成されている。その他中隊には本部用に2輛の指揮通信車、砲兵偵察小隊に3輛の4輪装甲車、弾薬車、修理・回収車が各一輛所属している。

なお2023年、ウクライナに対して、AMVをライセンス生産したロスマックに搭載したM120Rakの供給する契約を結んでいる。陸自が採用したAMV XPはAMVの最新型だ。

パトリア社のNEMO(”NEw MOrtar”の略)は砲身長3000mm(25口径)で半自動装填式で仰俯角-3°~+85°で左右旋回角:360°、システム重量1,900kg、射撃準備時間は30秒以下、移動準備時間は10秒以下、連射速度:10発/分(最大)、6発/分(持続射撃)、最初の3発の射撃速度は15秒となっている。搭載弾薬は車体にもよるが通常は50〜60発となっている。


写真:NEMOコンテナ 
提供:筆者

また舟艇にも搭載が可能だ。サウジアラビアナショナルガードがジェネラル・ダイナミックス・ランドシステム・カナダの8×8LAVに搭載した自走迫撃砲として36輌を調達、UAE海軍が沿岸用の舟艇に8門を採用、スロベニアがAMVに搭載した24門を採用している。パトリアはNEMOを標準コンテナに搭載したNEMOコンテナを陸自に舟艇用や南西諸島の拠点防衛用に提案している。

砲塔型自走迫撃砲にはメリットが多い。水平射撃が可能なので短距離での歩兵に対する精密な火力支援が可能である。これは自衛用にも有効だ。また走行間射撃も可能であり、砲塔ないから射撃が可能である。これは射撃時は停止して、観音開きのルーフを開いて行う24式よりも遥かに生存性が高い。特にドローンによる探知や攻撃が大きな脅威となった現代では尚更だ。

24式の開発時にはすでに砲塔式の迫撃砲システムは存在していた。少なくとも米軍と弾薬の互換性があり、性能的にも進んだ後装式の車載型迫撃砲システムの導入は真剣に考えるべきだっただろう。

そもそも陸自の迫撃砲開発能力があるか大変疑問だ。陸自は1996年に導入された96式96式自走120mm迫撃砲を開発したが完全な失敗作だった。そもそも96式は僅か24門しか調達しないのに砲システムだけではなく、車体は日立が担当し、92式地雷原処理車のコンポーネントは流用しているが事実上専門に開発した。無駄なコストがかかるのは素人がみても明らかだ。

しかも120TR を流用して開発した車載型迫撃砲は他国の同様のターンテーブル式の自走迫撃砲は射撃時の反動を吸収する駐退複座装置を装備していない。このため車体に大きな負荷がかかり命中精度は低く、故障も多くなる。またこのため射撃に必要な射表の開発も大きく遅れた。例えば砲システムは輸入し、車体は89式甲戦闘車のものを流用すればはるかに高性能で安価に仕上がっただろう。それができなかったのは豊和工業や日立に仕事を振ることを第一に考えたからだろう。

当事者能力が欠如してまともな装備開発の能力がないのであれば、複数の海外製品をトライアルしてそれを選ぶべきだろう。

トップ写真:24式機動120mm迫撃砲 
出典:防衛省




この記事を書いた人
清谷信一防衛ジャーナリスト

防衛ジャーナリスト、作家。1962年生。東海大学工学部卒。軍事関係の専門誌を中心に、総合誌や経済誌、新聞、テレビなどにも寄稿、出演、コメントを行う。08年まで英防衛専門誌ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー(Jane’s Defence Weekly) 日本特派員。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関「Kanwa Information Center 」上級顧問。執筆記事はコチラ


・日本ペンクラブ会員

・東京防衛航空宇宙時評 発行人(Tokyo Defence & Aerospace Review)http://www.tokyo-dar.com/

・European Securty Defence 日本特派員


<著作>

●国防の死角(PHP)

●専守防衛 日本を支配する幻想(祥伝社新書)

●防衛破綻「ガラパゴス化」する自衛隊装備(中公新書ラクレ)

●ル・オタク フランスおたく物語(講談社文庫)

●自衛隊、そして日本の非常識(河出書房新社)

●弱者のための喧嘩術(幻冬舎、アウトロー文庫)

●こんな自衛隊に誰がした!―戦えない「軍隊」を徹底解剖(廣済堂)

●不思議の国の自衛隊―誰がための自衛隊なのか!?(KKベストセラーズ)

●Le OTAKU―フランスおたく(KKベストセラーズ)

など、多数。


<共著>

●軍事を知らずして平和を語るな・石破 茂(KKベストセラーズ)

●すぐわかる国防学 ・林 信吾(角川書店)

●アメリカの落日―「戦争と正義」の正体・日下 公人(廣済堂)

●ポスト団塊世代の日本再建計画・林 信吾(中央公論)

●世界の戦闘機・攻撃機カタログ・日本兵器研究会(三修社)

●現代戦車のテクノロジー ・日本兵器研究会 (三修社)

●間違いだらけの自衛隊兵器カタログ・日本兵器研究会(三修社)

●達人のロンドン案内 ・林 信吾、宮原 克美、友成 純一(徳間書店)

●真・大東亜戦争(全17巻)・林信吾(KKベストセラーズ)

●熱砂の旭日旗―パレスチナ挺身作戦(全2巻)・林信吾(経済界)

その他多数。


<監訳>

●ボーイングvsエアバス―旅客機メーカーの栄光と挫折・マシュー・リーン(三修社)

●SASセキュリティ・ハンドブック・アンドルー ケイン、ネイル ハンソン(原書房)

●太平洋大戦争―開戦16年前に書かれた驚異の架空戦記・H.C. バイウォーター(コスミックインターナショナル)


-  ゲーム・シナリオ -

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清谷信一

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