[清谷信一]陸上自衛隊の時代遅れな「最新型戦車」の量産に疑問〜1千億円の開発費と毎年10輛・150億円に効果はあるか③
清谷信一(軍事ジャーナリスト)
[②から続く]筆者はかつて10式戦車に対するインタビューを行ったが、その時担当の開発に関わってきた第三開発室の北崎直弥二佐にRPGや対戦車ミサイルなどのタンデム弾頭の形成炸薬弾の脅威に対する対応について尋ねたが、タンデム弾頭は二つの弾頭の起爆タイミングを間違えると上手く機能させることは難しいと話していた。このことからも恐らくはタンデム弾頭への対策は施されていないと思われる。
圧延鋼装甲板やアルミ装甲以外の複合装甲やセラミック装甲などの特殊装甲は圧延鋼装甲板でより性能が高いが、その分高価である。他国の3.5世代戦車の調達単価は概ね12~16億円程度だが、10式戦車の調達単価は約10億円。90式の当初の調達単価11億よりも安い。
これで90式には無かったC4IRシステム、状況把握システム、補助動力装置などが追加され、しかもソフトウェアのコストも乗っている。3.5世代戦車のソフトウェアの比率は極めて高くなっている。にも関わらず、10式の調達価格は不自然なほど低い。無論電子コンポーネントなどをソフトウェア化し、その分重量は減っていが、全体からみれば微々たるものだ。第3世代の90式戦車に相当する「素の部分」だけならば10式の調達単価は6~7億円程度になるだろう。90式の6割程度の値段ということになる。そんな単価で最新型の戦車が調達できるとは極めて疑わしい。
74式にしても、90式にしても、諸外国の戦車の3倍程度であった。これまでの延長ならば10式の調達単価は他国の戦車の3倍、すなわち40億円程度になってしまうはずだ。だがそうはなっていない。これは実質的にコストを数分1程度に激減させたことになる。確かに10式では徹底したコスト管理が行われている。だがこのような極端な低価格化は工学的な知識がある人間から見れば極めて疑わしい。安いには理由があると考えるべきだ。
先述の技本に対するインタビューでは、技本側は開発では計画当初からライフ・サイクル・コストの抑制が要求されていた。このため民生品や既存のコンポーネントを多用するのみならず、性能と価格をトレードオフした設計、機能のソフトウェア化などが盛り込まれた。
開発に際しては性能と価格をトレードオフとは各機能やコンポーネントに関して技本が陸幕に対して、この部分を高性能にするとこれだけコストが上がりますと説明し、コストを削減するために敢えて高性能化を諦め、費用の安い既存の技術やコンポーネントを採用した部分もある、ということだ。この点からも10式がとても高価な新装甲を大々的に採用することは無理である。
筆者は世界の戦車メーカーの開発者に10式の重量で他国の3.5世代戦車に匹敵する防御力を得ることは可能かと聞いて回ったが、いずれも不可能だと答えている。
公表されたデータや、筆者の技本や開発関係者に対する取材などを総合すると、10式戦車の装甲で90式よりも明らかに強化されているのは正面だけ、あとは90式と大同小異であり、諸外国の3.5世代戦車に比べて防御力は極めて劣っている廉価版であると言える。
要は10式は軽い90式戦車であり、率直に申し上げれば生存性を犠牲にした安かろう、悪かろうの戦車だ。だから高い生存性を要求されるゲリラ・コマンドウ対処には向いていないのだ。むしろ既存の90式を近代化して防御力を高めたほうがよほどゲリコマ対処に向いているし、費用も一桁安かったはずだ。
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