[清谷信一]陸上自衛隊の時代遅れな「最新型戦車」の量産に疑問〜1千億円の開発費と毎年10輛・150億円に効果はあるか④
清谷信一(軍事ジャーナリスト)
[③から続く]そもそも10式戦車の開発では前回述べたように徹底的なコスト削減が試みられている。それ自体は誠に結構なのだが、それで果たしてどこまで先進的な設計を盛り込めたのだろうか。
10式は90式よりも値段が明らかに高くなると調達が許されなくなるから、「お値打ち感」を出す必要があった。そうでないと、新規開発ではなく、90式の近代化で凌げと内局や財務省から調達が許可されない。だから最先端のハードルが高い技術や、必要な機能や性能を削ってでも安く上あげ、また90式よりも軽量化しなければならなかったのだろう。つまり調達という手段が目的化している。軍事的な整合性よりも防衛省や陸自というムラ村の論理、「オトナの事情」を優先したことになる。
価格と重量を下げるために今や途上国でも標準装備となっている乗員用クーラーすら装備していない。このため夏場のNBC環境下では30分も活動できない。10式は売り物のしているゲリラ・コマンド対処にも向かない。ゲリ・コマ対処で戦車には敵の攻撃を吸収できる「打たれ強さ」が必要だが、二回目で述べたように10式にはそれがない。現用の90式も同様だ。正面以外はゲリラのポピュラーな対戦車兵器、RPG(ロケット推進型の榴弾)で容易に撃破できよう。
主砲にも問題がある。新型主砲は日本製鋼所が開発した国産の新型で、ラインメタル社の製品をライセンス生産した90式と同じ120ミリ滑腔砲で砲身長も同じだが、より強力な新型徹甲弾を撃つことができる。ゲリ・コマ対処に必要な、建物や陣地にこもった敵を排除するための多目的弾は開発されていない。通常の榴弾はこれらに不向きで、副次被害を拡大する。このことは戦訓から明らかで、諸外国では既に多く開発されている。
ところが防衛省はこの種の弾薬を開発せずに、どこで遊ぶのかわからないが戦車対戦車の機甲戦闘を想定した徹甲弾を開発した。中国あたりの戦車に対しても現在の120ミリ徹甲弾でなんら問題はない。この点からもゲリ・コマ対処を重視しているとは言えない。[⑤に続く]
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